推理小説の部屋

ひとこと書評


メガロマニア/恩田陸 (角川文庫)

★★★  

メキシコ、グアテマラ、ペルー。高所恐怖症で飛行機嫌いの恩田陸が、 中南米の古代文明の遺跡を巡る旅の紀行エッセイ+物語のイントロ。

紙質がやけにいいなあと思ったら、写真が入っているからなんですね。 連想して脱線して話がどんどんずれていくところが面白いですね。

(2012.09.29)


ナナフシの恋 〜Mimetic Girl〜/黒田研二 (講談社文庫)

★★★☆ 

夏休みの終わりそうな日、6人の同級生に届いた一通のメール。 それは一学期の終業式に教室から飛び降り自殺を図った同級生からのものだった。 病院で意識不明の彼女送れたはずはない。果たして誰が何のために?

それぞれが持っている情報を提示し、ディスカッションしながら推理を進めていく、 という「毒入りチョコレート事件」のような形式。 張り巡らされた伏線が回収されていくところはさすが。 ……なんですが、物理的には解決しているものの、心理的にはちょっと納得しかねるところもあり。

(2012.09.29)


ここに死体を捨てないでください!/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★☆ 

烏賊川市シリーズ第5弾。突然部屋に飛び込んで来た女性を刺し殺してしまった、 と泣きついてきた妹を救うために、死体を捨てに行くことにした有坂香織。 廃品回収業の金髪青年を巻き込んで、盆蔵山へ。 しかし山奥の山荘・クレセント荘には、探偵をはじめとする一癖も二癖もある連中が集まっていた……。

倒叙物でありながら、真犯人を探すミステリとしても成立している、 というなかなか技巧的な構成です。 アクションシーンもドタバタながらも迫力ありますし、 お約束の天丼も楽しめますね。

(2012.09.15)


夜のだれかの玩具箱/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

産経新聞夕刊連載1年分を2冊に分けて収録した、 朝のこどもの玩具箱と対の作品。 6本の作品を収録。

「朝の〜」に比べると、少しホラー色強めかも知れません。 本作1作目の「仕舞い夏の海」が連載の第1作目に相当し、 最後の「もう一度さようなら」が連載の最終回に相当するらしいです。 この2作は登場人物が共通する姉妹編になってます。 気になっていたキャラのその後が描かれていて、すっきりしました。

(2012.09.12)


デパートへ行こう!/真保裕一 (講談社文庫)

★★★★ 

深夜のデパートには、自殺志願のおじさんやら、宝石を盗もうとしている女子社員やら、 社長やら、10代のカップルやら、ヤクザに追われる元警官やら、伝説の警備主任やら、 が入り乱れて、とんでもないことになっていたのです。

章ごとに視点が切り替わるタイプ。本来無関係な人々が、それぞれの想いで関わりあっていく様子が、 何とも面白いですね。100%善人もいなくて、それぞれみんな脛に傷を負っていたりするんですが、 良いところもあって、その善意が他の人に影響を及ぼして……、という展開がいいですね。 最後はみんなハッピーエンド、みたいになっていて、あれ?それでいいのか? と思わないところもないではないですが。まあ、面白かったから良いです。

(2012.09.08)


フリーター、家を買う。/有川浩 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

二流大出身の誠治は、新人研修で違和感を感じ、せっかく決まった就職先を3ヶ月で辞めてしまう。 それからはバイトを転々とする毎日。しかし母親が鬱病にかかったことで一念発起。 家族を救うために家を買って引っ越しをすることを目標に、バイトに精を出し、真面目に就職先を探しだす。

ドラマ化もされた原作の文庫化。最初はちょっと重いのですが、 ダメ青年だった誠治が、どんどん変わっていく様子は痛快ですね。 特に就職担当になって、昔の自分のような奴を落とす作戦を次々と思いつくあたりは面白かったです。

ドラマで香里奈がやっていた千葉さんが出てこないな?と思ったら、後から出てくるんですね。 現場監督志望のガテン系女子でありながら、恋する乙女モードとのギャップがなかなかギャップ萌えです。

(2012.09.01)


絶望ノート/歌野晶午 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

中2の太刀川照音は、いじめられる苦しみを「絶望ノート」と名付けた日記帳に書き連ねた。 彼はある日、いじめっ子の一人が躓いた石を神と崇め、いじめグループのリーダー・是永の死を祈った。 結果、是永は死んだ。彼の祈りは次々と神によって叶えられていく。 果たしてその真相は?

いじめ描写がかなり鬱になるので読み進めるのに時間が掛かりましたが、 そこを突破した先の怒涛の展開は目が離せません。 視点キャラクターが章ごとに入れ替わるのもなかなか効果的ですね。 最後まで驚かされました。

(2012.08.28)


朝のこどもの玩具箱/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

産経新聞の夕刊に連載されていたらしい作品の文庫本化。 9月に刊行される「夜のだれかの玩具箱」と対になっている作品らしいです。 6本の作品を収録。

なんかこれから!ってところで終わってしまうので、 最初はその対になる「夜のだれかの玩具箱」の方で完結編が書かれるのか? と思ったんですが、そういうことでは無いようですね。 読者に結末を委ねるというか、予告編だけ見せて本編を期待させるような、 そんな作品もありました。

(2012.08.25)


あるキング/伊坂幸太郎 (徳間文庫)

★★★☆ 

セ・リーグの弱小球団・仙醍キングス。 野球エリートだった南雲慎平太が、なぜかFAもせずに仙醍キングスで選手生命を全うし、さらに監督まで務めて、その引退試合で命を落とした日に、一人の「王」が生まれた。 「王」となるべく非凡な才能に恵まれ成長していく山田王求は、 野球一筋の本人とは裏腹に波乱の人生を送っていく。

「マクベス」をベースにした、ある種の寓話のような作品。 「フェアはファール、ファールはフェア」。 飛びぬけて優秀な者の孤独と、その周りで影響を受け翻弄されるる人々が描かれてます。

(2012.08.09)


密室殺人ゲーム2.0/歌野晶午 (講談社文庫)

★★★☆ 

密室殺人ゲーム 王手飛車取りの続編。 ハンドルで呼び合うAVチャットで「リアル探偵ゲーム」に講じる5人、 頭狂人、aXe、ザンギャ君、伴道全教授、044APD(コロンボ)。 段々と彼らの出す「出題」もトリッキーになって行き……。 第10回(2010年)「本格ミステリ大賞」受賞作。

前作の最後で正体バレしてどうやって続けるんだろうと思いましたが、 フォロワーというか第2世代なんですね。

今回もアリバイと密室がこれでもかというほど贅沢に詰め込まれてます。 ミステリマニアに「こちら側」にとどまることを許さない、そんな作品。

(2012.08.05)


カンナ 吉野の暗闘/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

「カンナ」シリーズ第3弾。吉野と役小角の謎に迫る。

どうやらこの先甲斐が段々忍びとしての才能に覚醒していくらしいです。 それはそれで楽しみなような、ちょっと残念なような……。

(2012.08.03)


カラット探偵事務所の事件簿2/乾くるみ (PHP文芸文庫)

★★★  

「カラット探偵事務所の事件簿1」に続く第2弾。 FILE 6〜FILE 12の7作を収録。

すっかり前作の大オチを忘れていたので、読了後前作を読み返して、 最後の「つきまとう男」のオチを見返して驚愕。なるほど。

次の3でFILE 13〜FILE 19の7作で完結、ですかね?

(2012.07.29)


SPEEDBOY!/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

背中から鬣の生えた成雄。苗字は無い。彼は思い込みを排することで、 誰よりも速く走れるようになった。火とがミサイルより早く走れるようになった世界で、 家族、友人、恋人とは果たして何を意味するのか?

各章ごとに「成雄」が主人公なんですが、微妙にシチュエーションと時間軸がズレているような感じで、 でも登場人物が共通しているので繋がっているような感じで、 全体として一つの世界を形成しています。

舞城王太郎先生の作品って、擬音が特徴的ですよね。

(2012.07.24)


燦(3)土の刃/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

圭寿を襲う黒覆面の男。絶体絶命のピンチを救ったのは燦だった。 燦から聞いた世間の話を元に10日間の約束で戯作を自ら持ち込んだ圭寿。 警備についていった燦は、「はぐれ神波の一族」とも言うべき者たちの存在と、 「闇神波」の存在を聞かされる……。

文庫書き下ろしシリーズの第3弾。過去の感想はこちら→燦(1)風の刃燦(2)光の刃

圭寿が実は一番底知れないポテンシャルを持っている?

ヒロインの座は女掏摸のお吉さんに完全に移り、篠音の(名前だけの)登場は前巻よりさらに減って5行のみでした。

(2012.07.22)


No.6 #7/あさのあつこ (講談社文庫)

★★★  

近未来SF小説の第7話。過去感想はこちら→#1#2#3#4#5#6

ついに「黒紫苑」覚醒。ターニングポイントとなる巻。

アニメ「ノイタミナ」でここの展開は先に知ってしまったとはいえ、 やはり小説で読むとそれなりのインパクトがありますね。 紫苑自身よりも動揺しているネズミ、というのがいかにもこの作品らしいとも言えます。

悲劇的な結末しか思い浮かばないような展開ですが、 果たしてあと2巻でどうやって決着するんでしょうね。

(2012.07.18)


プラチナデータ/東野圭吾 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。 そのシステムを開発した天才兄妹が殺され、 システムが示した犯人の名は共同開発者の神楽自身の名前だった。 捜査システムでも遺伝子情報が出ない「NF13」という連続強姦魔を追っていた浅間と共に、 DNA捜査システムの裏に隠された秘密を追っていく。

少し未来の設定。自らが犯人に仕立て上げられ、全く覚えがないながらも、 もしかしたらと疑わざるを得ない神楽の設定が絶妙です。 時代に追い付いていけない古いタイプの刑事・浅間のキャラクターもいいですね。

(2012.07.14)


宵山万華鏡/森見登美彦 (集英社文庫)

★★★  

祇園祭・宵山の幻想的な祭りの裏側で行われている、人ならざるものと人による不思議な祭り。

短編集ですが、各話基本全部時系列的には同じ時間軸上に存在している話で、 微妙に絡み合ってます。あるいは「問題編」と「解答編」みたいなペアになっている作品も。 しかし一方で人が全て企てて仕掛けた仕掛けだったかと思えば、 他方でやはりそれは人ならざるものが宵山には存在していると思わせるような、 結局どちらともわからないような後味になっていますね。

(2012.07.07)


ラブコメ今昔/有川浩 (角川文庫)

★★★☆ 

クジラの彼に続く、自衛隊ラブコメ短編集第2弾。

内容的にはもう甘々なラブコメなんですが、自衛隊というちょっと普通では無いシチュエーションが加わることで、 ちょっと変わったラブコメになってます。 それは、新入りで自分よりも年下の女の子なのに階級は自分よりも上だったりとか、 上司の娘なんだけど死と隣り合わせの仕事であることを誰よりも知っているその上司は 「絶対に自衛隊の奴には娘はやらん」と言っていたりだとか、 ブルーインパルスのエースパイロットであるがために妻子持ちにも関わらずストーカーにつきまとわれる夫だったりだとか、 そんなちょっと変わったラブコメです。 楽しめました。

(2012.07.07)


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