★★★★
江戸・深川の料理屋「ふね屋」の一人娘・おりんには、 「ふね屋」にいる5人の幽霊の姿が見えていた。 色男の若侍、艶やかな姐さん、按摩の爺さん、おどろ髪の浪人、あかんべえをする女の子…。 彼らはなぜ成仏できないのか。幽霊達と心を通わせる内に、 30年前に起こった事件がすべての鍵を握っていることに気付く。 果たして、因縁の糸をほどくことはできるのか?
時代小説のフォーマットながら、ホラーでもありファンタジーでもありミステリでもある、 というある意味宮部みゆきの集大成的な作品。 いきなり主人公であるおりんの祖父にあたる七兵衛の生い立ちから入る、 という物語の厚さに驚かされましたが、ここらへんの描写が、後々の展開に対して説得力を与えているのはさすが。
宮部作品に共通する特徴ですが、主人公が真っ直ぐで感情移入しやすいので、 読んでいて清々しいですね。 どんな状況でもへこたれないおりんの前向きな姿には癒されます。
さて、これで2006年も終了。 2006年の読破数は103冊でした。おお、久しぶりに100冊の大台復活。 出張が増えたからなあ…。
(2007.01.01)
★★★
大学生になり、心機一転寮での一人暮らしを始めた快人。 貧乏人の住む寮の先輩たちはどれも一癖ある変人揃い。 しかしその先輩達からも恐れられる大学八年生の長曾我部先輩。 オカルトグッズを身にまとう先輩と、本物の霊能力者である幼馴染の春奈、 二人にペースをかき乱され、快人の大学生活は果たしてどうなる?
日常の謎系、ということで、「騒霊」「地縛霊」「河童」「木霊」とつけられたサブタイトルの通り、 超常現象としか思えないような事件が起こるわけですが、 それを最終的には論理的に解決する、というのが基本スタンス。 しかしオカルト好きの先輩に、霊能力者の幼馴染、そして普通以上に真面目なために普通じゃない快人、 という組み合わせで、なかなかまっとうには話が進みません。ひねりにひねりが加えられております。
しかしどう見てもこれシリーズ物なのに、続編がまだ描かれていないらしいのは残念。 先輩に関する未回収の伏線も多いし、何より主人公にゾッコン(としか思えない)幼馴染の春奈のキャラが、 良すぎるのですが、これで終わりってのは淋しいなあ。早く続編書いてください。
(2006.12.26)
★★★☆
夏休みに入り、熱を出して寝込んでしまった歩。病院で見かけたメグは、 いつものメグではなかった。夏祭りが中止になるかも知れない、 ということで召集された「(仮)『ロミジュリ』を応援する会」。 漫才を拒否し続けた歩も、メグの告白を受けてついに決意をする。
というわけで、第3巻。いきなり1巻で学園祭の漫才までやってしまったのに比べると、 夏祭りまで随分と引っ張るなあ、といった印象も受けますが、 相変わらず会話が面白いですね。歩と貴史が普通に会話しているだけなのに、 「瀬田くん秋本くん、漫才の練習は後にして」ってみんなに言われて、 その後の歩の抗議はスルーされるお約束のシーンとか。
そして森口―高原、篠原―蓮田、がめでたくカップル成立。 これで「ロミジュリ(略)会」の残りは、歩・貴史・メグ、ということで、 益々この3人のおかしな三角関係が強調される形に。
次巻はいよいよ夏祭り本番。果たしてどのくらいのペースで刊行されるんでしょうか。
(2006.12.23)
★★★☆
中学3年生になった歩たち。 クラスもバラバラになった彼らだったが、結束力は固かった。 そして貴史から、夏祭りで漫才をやらないか、という誘いが…。
益々2人を含めた周りのキャラクターの掘り下げが進んでいく第2巻。 貴史の幼馴染で、湊三中一の美少女でありながら、貴史にゾッコンの恵菜。 そんな恵菜には目もくれず、ひたすら歩へとアプローチを続ける貴史。 恵菜に一目惚れしたものの、言い出せず、貴史の執拗なアプローチをかわし続ける歩。 この3人の奇妙な三角関係が面白過ぎ。 そして、「発光美少女」メグの、チャキチャキな一面も今巻の見所の一つですね。
しかし最近あさのあつこさんの作品が立て続けにリリースされてますが、 肝心の(?)バッテリー最終巻はまだですかねぇ…。
(2006.12.21)
★★★☆
中学2年生で転校生の瀬田歩は、転校して1ヶ月が経ったある日、
サッカー部に所属する長身でマッチョな秋本貴史に呼び出された。
「俺とつきあってくれ!」
それは俺と漫才のコンビを組んでくれ、という申し出だった…。
対照的な二人のキャラクター、そして周囲のクラスメートが巻き起こす、
さまざまな事件とイベント。果たして、凸凹コンビの漫才は成立するのか?
あさのあつこさんお得意の少年モノ。それも対照的な2人のコンビ、ということで、 いやでも「バッテリー」を髣髴とさせてしまうわけですが、 あちらの巧が中学生とは思えないほど超越してストイックなのに対して、 こちらの二人は割とどこにでもいる(といっても今時こんなピュアな中学生いないかも知れませんけど) 等身大な感じが好感を持てます。
そして何と言っても二人の会話が面白い。これを読んでるだけでも、 ホントに漫才になってます。この先も楽しみです。
(2006.12.21)
★★★
あさのあつこさんのデビュー作、らしいです。15年前に刊行されたとか。 関西の温泉街の老舗旅館を舞台としたハートフルなストーリー。 主人公は旅館の女将の孫娘・小学5年生の一子。
「バッテリー」の原点がここにある、という感じで、 あさのあつこさんらしい心温まる物語です。 かといって温いだけではなくて、ちゃんと大人のズルさやら、 子供の残酷さやらを描いているところも。
でも「ピュアフル文庫」って正直恥ずかしいネーミングですね…。
(2006.12.19)
★★★
四季シリーズの完結編。時間と空間を超越して存在し続ける四季。 壮大な未来への叙事詩が、そして過去への贖罪が描かれる…。
S&MシリーズおよびVシリーズの完結編としての「四季」は、 やはり「秋」で完了していて、この「冬」では主に未来が語られています。 しかしミチルとローディのシリーズが、まさかこのシリーズの延長線上に位置していたとは、 やられました。もしかして、スターシステムのごとく、森作品は全て同一世界の別時間軸の出来事としてマッピングできるんじゃなかろうか。 「百年」シリーズと「スカイ・クロラ」シリーズはちょっと未来でバッティングしそうだけど、 ちょっとずらせば何とかなるかも。
まあしかしここまでやってしまうと、真賀田四季を超えるキャラクターを作り上げる、 っては至難の業のような気がします。そんなキャラクターに出会えることを楽しみに、 私は今後も森先生の作品を読み続けるのでしょう。
(2006.12.19)
★★★☆
「春」がVシリーズとほぼ同年代、 「夏」がVシリーズとS&Mシリーズの間に位置するとすると、 「秋」はS&Mシリーズの後に位置する物語。 そして前2作の違い、ほとんど真賀田四季博士は出てきません。 おなじみ犀川&萌絵のコンビと、Vシリーズからは何と保呂草&各務が登場。 両シリーズの未解決伏線の回収、という意味合いもあるんでしょうか。 まあ、とにかく両シリーズを読み進めてきた読者にとっては、かなり特別な一冊と言えるでしょう。
そしてシリーズ第1作である「すべてはFになる」の四季博士の動機が反転するところも見事な構成。 果たして、なぜPerfect InsiderはPerfect Outsiderへとなる必要があったのか? 「春」「夏」を読んできた読者だからこそ受け止められる真実がそこにはあります。
萌絵が紅子に挨拶に行くシーンもあったりして、とにかく両シリーズのファンには見逃せない一冊ですね。
(2006.12.17)
★★★
端正な顔立ちでありながらオネエ言葉で話す神原恵弥。 世界を股にかけて活躍する「ハンター」の彼が、北国のH市を訪れたのは、 不倫相手を追いかけていった双子の妹の和見を連れ戻すためだった。 しかしそこにはもう一つの隠された目的が…。 MAZEに続くシリーズ第2弾。
MAZEは読んだはずなのですが、神原恵弥について全く覚えていない、 というのが結構ショック。読み始めてピンとこなくても、読み終わったら何か思い出すかと思ったのですが、 読み終わってもやっぱり何も思い出せませんでした。 これだけ強烈なキャラクターなのに、覚えてないって…。
本編ですが、ただの不倫だと思っていたのが、事故?殺人?陰謀? …と次々と話が転がっていく様子が面白かったです。 やはり恵弥のキャラクターで引っ張っている部分は大きいですね。
(2006.12.15)
★★★
印南野市で起こった、一見無関係に見える女性達の連続殺人事件。 同一犯であることは、現場に残された指紋や、残された前の事件の切り抜きで明らか。 逮捕されることを全く恐れていないように見える不適な犯人。 消えた足跡や、不自然な密室。やがて警察が犯人にたどり着いた時、 彼は鉄壁のアリバイに護られていた。果たして犯人は本当に「ファントム」なのか?
ミッシングリンク物、本格物、倒叙物、色んな要素を含みながら、 物語は進行していきます。しかし訪れる結末は…。
まあ、こういうのもアリではないでしょうか。期待していたものとは違いましたけど。
(2006.12.13)
★★★
2013年の理想都市NO.6。特別コースに進学を決めた超エリートの紫苑だったが、 何かを壊したい衝動を抑えられずにいた。 そんな時、嵐の夜にネズミと出逢ったことで、紫苑の運命は大きく変わることになる…。
恩田陸さんのロミロミや、あさのあつこさんのバッテリーシリーズでも定番の、 2人の少年の友情を軸とした青春ミステリ(?)。 天然気味の元エリート・紫苑と、犯罪者の証である「VC」のコードをつけられたネズミ。 対照的な2人が、お互いに惹かれあっていく様子が丁寧に描かれてます。
また、物語の中核を成しそうな、人体に寄生する「ハチ」に侵食されていく、 得体の知れない恐怖。ネズミの「敵」も「あいつ」と呼ぶ一人が確定しているようですし (市長で、実の父、とかありがちだなあ)、今後の展開が楽しみです。
(2006.12.02)
★★★
スカイ・クロラ・ナ・バ・テアに続くスカイ・クロラシリーズ第3弾。 帯によるとクサナギとティーチャとカンナミの物語、となってます。
エースパイロットであるクサナギが、負傷をきっかけとして、 前線からの引退および指導者への転身を進められる。 その過程で、教え子として入ってきたカンナミ。 ティーチャとの最後の戦いを控えたクサナギは、カンナミの正体に思い当たる…。
というわけで、時系列的にはナ・バ・テア→ダウン・ツ・ヘヴン→スカイ・クロラ、 の順序になるんでしょうか。一応この3作でクサナギ、ティーチャ、カンナミに関しては閉じていると言っていいのかな? しかし大オチは既にスカイ・クロラで割れているので、 ここからどうやって展開させていくのか謎です。
次作の「フラッタ・リンツ・ライフ」は「クリタとクサナギの物語」ということで、 これまでの法則からすると、クリタ一人称の話になりそうですが、 クリタって今まで出てきてたっけ…?
(2006.11.29)
★★★
落ちこぼれ高校に通う17歳の理穂。幼馴染みで病弱な皮肉屋・美咲。 甲子園を目指す兄・睦月と常に比較される如月。ひきこもり気味の弟・真央。 それぞれの悩みを抱えながら、一度きりの夏は過ぎていく…。
なんてことはない青春小説ですが、 キャラクターがいいですね。 特に、病弱にも関わらずやたらと強気な美咲のキャラがいいです。 あまりにもおバカな理穂と如月のやりとりも、微笑ましくていいですね。
(2006.11.26)
★★★
4年前に単行本で刊行されたアンソロジー「贈る物語」シリーズ。 綾辻行人の編んだ「Mystery」、宮部みゆきの編んだ「Terror」と共に出た、 瀬名秀明編によるSFアンソロジー。 副題に「すこしふしぎの驚きをあなたに」とあるように、 ど真ん中直球のSFというよりは、SF小説の可能性を示すような、広範囲に渡る作品が収められています。
作品そのものもさすがに傑作揃いですが、瀬名さんによる解説もまた見ものですね。 非常に好感の持てる文体で、SF初心者にも興味が持てるように、丁寧に書かれています。
収録作中では「よけいなものが」「ニュースおじさん」「鏡地獄」「ひとつの装置」 あたりが面白かったです。
ところで、このシリーズの「Mystery」、実は単行本で買ってあるんですが、 結局読まないまま文庫化されてしまいました…。 やっぱり文庫じゃないと読む機会ないんだよなあ…。 でも文庫版買い直すのは何か負けた気がするし…。
(2006.11.23)
★★★
天才・四季にも理解できないことがあった…。 四季、13歳の夏。ついにあの島で、惨劇の舞台が整う…。
「春」と違って事件らしい事件は起きないなあ…と油断していたら、 最後にやってくれました。怖っ。
そしてS&Mシリーズ、Vシリーズとの接点もかなり本格的になってきました。 「春」では出なかった学生時代の犀川登場。 さらに保呂草の「最後」の仕事と、各務亜樹良の退場。 「林」の苗字の判明、などなど、盛りだくさんの内容。ファンにはたまりませんね。
12月刊行の秋、冬が楽しみです。
(2006.11.19)
★★★
Perfect InsiderにしてPerfect Outsider。真賀田四季の生い立ちを巡る「四季」4部作、文庫化。
「僕」視点で描かれてますが、この「僕」が複数いることは早いうちにわかりました。 しかし実の兄と、双子の兄の人格ってややこしいな、また…。
「赤緑黒白」のラストで出てきた紅子との会話シーンも書かれていて、 なるほど前作でからくりがわからなかった人も、今作を読めば、 少なくともVシリーズとS&Mシリーズの位置づけ(時系列)はわかる仕掛けになっているわけですね。
「The Perfect Insider」に繋がるところまでで終わるのか、それとも 「The Perfect Outsider後」まで書かれるのか、楽しみにしたいと思います。
(2006.11.19)
★★★☆
ひきこもり探偵シリーズ完結編。初の長編。
滝本の妹、などという新キャラも投入されて、ついに過去の鳥井のいじめの真相が明らかに。 さらにいじめの張本人との再会。動物園で続いている野良猫の虐待事件との関係は?
長編(というか中編)ですが、謎解きそのものは脇役というか…。 やはりこの巻のメインは、鳥井は脱・ひきこもりできるのか、 そして坂木は脱・鳥井ができるのか、というところでしょうか。
作品中に出てきた料理のレシピや、ボーナストラックまでついて、サービス満点の最終巻でした。
(2006.11.14)
★★★
「青空の卵」に続く、ひきこもり探偵シリーズ第2弾。 3編を収録。
坂木の会社の同僚の話があったり、とキャラの掘り下げが進んでいます。 例によってゲストがどんどんとレギュラー化していくので、 最終的にレギュラーキャラはかなり増えてます。 どうやら第3弾にして完結編は長編らしいので、「ひきこもり」から脱却するための準備は整った、 ということでしょうか。
ところでこのシリーズの語り手(ワトソン役)は「坂木司」という、著者と同名のキャラですが、 そういうシリーズが完結してしまうってのも珍しいパターンですね。 有栖川有栖にしろ、二階堂黎人にしろ、著者名キャラのシリーズって、 ライフワークみたいに続くものだと勝手に思っていたので。
(2006.11.11)
★★★
「名探偵はひきこもり」というキャッチフレーズの帯が目を引く、 著者デビュー作、待望の文庫化。
僕こと坂木司には、ひきこもりの友人・鳥井真一がいる。母親に捨てられ、 中学時代に受けたいじめのために、外の世界との接触を拒むようになった鳥井が、 唯一心を開く人間坂木。彼は、鳥井を何とか外の世界へ連れ出そうと、 さまざまな事件や謎を持ち込む。鳥井はそんな謎を解き明かしていくのだが…。
「日常の謎」系に属する連作短編ですが、キャラ付けがかなり極まってます。 何しろ探偵役がひきこもりですからね。 普段は愛想もなく態度も悪く初対面の相手にもタメ口全開の鳥井ですが、 坂木が泣くと途端にオロオロしてしまうところなんか、 純粋でない私にはどうにもBLっぽく感じられて、いまいちすんなりと読めないんですが…。 ハッ、これも一種のツンデレなのか?
そんなわけで、謎を解く推理小説としての性格よりも、 むしろ鳥井が世界との調和を取り戻していく癒しの物語としての性格の方が強いかも知れませんね。
また、一つの物語に出てきたゲストが、どんどんレギュラー化していって、 仲間が増えていく、という連作短編ならではの楽しみもあります。 どうやら3冊で完結らしいので、結末も楽しみにしてます。
(2006.11.08)
★★★
東京近郊で連続する小学生の子供を狙った誘拐殺人事件。 被害者は皆身代金の受け渡し前に銃で殺害されていた。 残虐な手口で世間の注目が集まる中、修は小学6年生の息子・雄介の部屋から、 被害者の父親の名刺を見つけてしまう。 果たして自分の息子は連続誘拐殺人の犯人なのか?
…というところまでが序章。ここから物語は、妄想と現実を往復する多重な世界へ。 もし捕まってしまったら、もし一家心中を図ったら、もし他に真犯人がいたら、etc.,etc.…。 どの結末もリアリティはあるので、読み応えはあります。 しかし結末が明示されていないだけにどうにもすっきりしない感じも…。 まあ、これはそういう作品ですから仕方ないですけど。
これの次に「葉桜の季節に君を想うということ」が来るのか。文庫化が楽しみ。
(2006.11.03)
★★★
愛川晶と二階堂黎人の合作による、サイコ・ミステリー。多重人格者である順一。 分裂した人格の1つである「美奈子」は、その本体である順一の人格の「抹殺」を目的とした、 連続殺人を目論む。風吹で閉鎖された「館」で惨劇の幕が上がる。
多重人格者が、本体人格を抹殺するために殺人事件をたくらむ、 という設定がブッ飛んでます。さらに、自分の知らないうちに起きた殺人事件を解くために、 探偵も兼ねるというブッ飛びぶり。殺人の描写は陰惨ですが、 この前代未聞の設定にかなりワクワクしながら読み進めていきました。
しかし……決着は確かに意外ではありましたが、ちょっと期待していた方向と違うところに着地してしまったようで残念。 まあ本格+サイコ、という目論みは成功していると思います。
(2006.10.29)
★★★☆
那覇空港で男女3人により引き起こされたハイジャック事件。 犯人達の要求は、数日前に不当に逮捕されたある人物を、時間までに連れてくることだった。 逃走経路なきハイジャック計画と、その最中に起きた密室殺人事件。 計画にない殺人事件の犯人は誰なのか?そしてその目的は? 悪意なき殺意と、殺意なき悪意とが交錯するとき、月の扉が開かれる…。
ハイジャックと密室殺人、そして幻想譚が見事に融和した、面白い作品でした。 冒頭のキャンプの描写と、その次の章のハイジャックを計画している不穏な場面とのギャップに、 もう引き込まれてしまって、そのまま一気読み。
犯人側の動機に納得できない人もきっといるでしょうけど、 ここではそういうルールが存在する(あるいは存在すると信じている)世界だ、 と思えば、これらの動機も十分にアリだと思いますね (ある意味では、西澤保彦さんのSF新本格のように、 新たなルールを設定した上で本格を展開するような)。
(2006.10.24)
★★★☆
元弱小ソフトボール部に所属したチームメイトの元に、 チームメイトの一人・知寿子の死の知らせが届く。 久しぶりに再会した7人の女性達。 それぞれ仕事や育児に生きる女性の視点を通して、様々な謎が解き明かされていく…。
というわけで、加納朋子さんお得意の連作短編集。 「月曜日の水玉模様」の続編、 ということで、前作の語り手兼探偵役だった片桐陶子の、高校時代のチームメイトが主役。 7つの章に、7つの色と、7人の語り手、という趣向になってます。 それぞれの章で「日常の謎」を解き明かしつつ、 作品全体を通した大きな謎解きが仕掛けられている、という加納朋子さんお得意の構成です。 さすがにうまいですね。
寡作な覆面作家・嶽小原遙は、なんか別のシリーズでも出てきそうな感じですね。
(2006.10.22)
★★★
強盗殺人を犯した兄から届く手紙。 残された弟は、進学、音楽、恋人、就職…さまざまな場面で、 「兄が殺人犯」というレッテルに悩まされ続ける。 ついには兄との縁を切って生き抜こうとする弟だったが…。
重いですね。理不尽な差別、と思いつつも、 最後の方に出てくる社長の言い分にも非常に説得力を感じたりして。 罪と罰とは何なのか、を色々と考えさせられる作品でした。
(2006.10.21)
★★★★
「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」――週刊誌のスクープ記事をきっかけに、 東西新聞は20年前の新生児誘拐事件の再調査を開始する。 第49回江戸川乱歩賞受賞作、待望の文庫化。
いやー面白かったー。登場人物がみんな活き活きしているんですよね。 新聞社の社長をはじめとする面々、渦中のヒロイン・比呂子、かつての病院長、etc. etc.。 そして、少しずつ明らかになる20年前の真実。 なるほど、そういうことか、と読者が納得仕掛けところで明らかになる最後のサプライズ。 よくできてますね。乱歩賞受賞も納得です。
(2006.10.14)
★★★
ミステリを1冊しか読んだことのない湾田乱人が、ミステリアス学園ミステリ研究会、 略して「ミスミス研」に入って、本格ミステリとは何か、という知識を得ていく。 しかし一章ずつ「ミステリ談義」を進めていくうちに、一人また一人と死んでいくミステリ研部員。 果たして部員達の死は偶然なのか、それとも何者かの意思が働いているのか? 本格ミステリの入門書でありながら、メタミステリでもある、究極のアンチ本格ミステリ。
全7章からなるミステリ談義。しかも2章に進むと1章が作中作に、3章に進むと2章が作中作に、 という趣向。果たして最後はどうなってしまうのか、といった一冊通しての趣向も楽しめますし、 個々の話の真相、さらにミステリ談義から、散りばめられた小ネタまで、 様々な楽しみ方ができる一冊です。
(2006.10.10)
★★★
天才・龍之介がゆく!シリーズ初の長編。 龍之介の「遺産」を巡る詐欺事件を調査していたつもりの光章、一美、龍之介。 しかしいつの間にか比留間家の三兄弟を巡る陰謀に巻き込まれる。 携帯も通じない山小屋に遭難した光章と龍之介。 やがて殺人が…。さらに比留間亭で別行動をしていた一美にも危機が!
なかなか盛りだくさんの内容で、面白かったのですが、ちょっと長かったかなあ、という印象。 個々の事件の真相自体は残り1/3くらいの時点で早々にわかってしまっているようなので、 その後の真の解決編とでもいうべき全貌が見所でしょうか。 孤島でお爺さんと二人暮ししていたという龍之介の意外なサバイバル耐性が発揮される展開はなかなか面白かったですね。
(2006.10.08)
★★★
1972年の江戸川乱歩賞受賞作、復刊。伝説の青春ミステリー。
ある女子高生が中絶手術の失敗によって死んだ。 最後まで相手の名を言わずに…。 女子高生の父による執拗な「父親探し」が始まるが、 そんな折、容疑の少年の周りで食中毒事件、 さらに少年の姉の不倫相手の失踪、と事件が続く。 果たして一連の事件に関連はあるのか?事件の真相とは?
さすがに書かれた年代が古いだけあって、登場するカルチャーや語られるイベントは古臭さを感じますが、 この「いまどきの若者感」ってのは実は世代によらず普遍なのかな、とも思ったり。 若者を理解できない刑事や教師といった大人が、 若者の若者ならではのコミュニティと論理を解きほぐしていく様子が丹念に描かれてます。 ミステリとしての比重は正直小さめですが、 青春ものとしてよく出来てて、なるほどベストセラーとなるのも頷けます。
(2006.10.03)