★★★
児童書の編集部員だった綿畑は、 夢の中で「不思議の国」へと旅立ち、そこでチェシャ猫殺害の容疑者にされてしまう。 夢から醒めると、漫画雑誌の鬼編集長が殺されていた。 現実世界と、不思議の国、二つの事件の結末は?
現実世界では実在の漫画家の名前がいっぱい出てきて、 不思議の国でもアリス達おなじみのキャラに加え、ニャロメやら、鉄人28号やらが出てきて、 なんともとっちらかった印象を受けますが、 不思議の国のアリスっぽさを出そうとした結果なんでしょうね。
さて、2003年の読了本は71冊。昨年よりさらにペースは落ちて月6冊ペースに。
今年のベストを選ぶと、 新刊では「プリズム/貫井徳郎」、 新刊でないのでは「タイム・リープ/高畑京一郎」が面白かったですね。 あと「依存/西澤保彦」もシリーズ最高傑作との噂に違わぬ出来でした。
(2003.12.31)
★★★☆
歴史に対する新解釈と現実の事件とを絡めて解決する、 博学の漢方薬剤師・桑原崇が活躍するシリーズ第3弾。
前二作が百人一首、六歌仙、と個人的にあまり興味の持てない分野だったこともあり、 いまいち苦手だったこのシリーズですが、今回のテーマは「シャーロック・ホームズ」。 一応日本の史実を扱っていた前二作と比べるとかなり異色なテーマですね。 今後のラインナップから比べてもやはり異色作のようです。 しかし個人的にはホームズ物はパスティシュまで含めて大好きなので、 非常に興味深く読みました。
興味が持てる題材だったことも大きいんですが、 厚さが前二作に比べてかなり薄くないですか? さっくり読めて、個人的にはかなり好感触。 厚すぎる文庫本は、それだけで読む気が落ちるし…(京○夏彦とかね)。 薄い分ネタとしては軽目ですが、「リアル踊る人形によるダイイングメッセージ」 なんて、ホームズマニアにはたまらないネタで攻めてくれますね。 今作は「現実」側の事件も結構面白かったです。
各章のタイトルが「冒険」「回想」「生還」「挨拶」「事件簿」となってるところも、 何ともお洒落ですね(最後が「功績」ってのもまた何ともマニアック)。
(2003.12.19)
★★☆
祥伝社400円文庫。前作の樹海伝説と同じ舞台の続編というかなんというか。
うーん、やっぱり中編で叙述ってのはちょっと無理があるのかなあ。 いや、中編でも綺麗に叙述トリックを決めることは可能だと思いますよ。 ただ、それはネタが割れてない場合に限るとおもうんですよね。 折原さんの場合は、もう読む前から「叙述」だってわかっちゃってるわけで、 読む方もそのつもりで読むし、作品にしても「過去の手記」「記憶喪失の男」 といった叙述トリックの定番的構成だし、どうにもねえ。 でもって真相もほぼ予想の範疇でしたし。 残念ながら楽しめませんでした。
(2003.12.16)
★★★★
倉知淳先生のノン・シリーズ物長編。第1回本格ミステリ大賞受賞作。
「全能にして全知の存在から電波を受信している私を妨害しないで頂きたい」 ――静かな地方都市で起きた通り魔殺人事件、 そしてその後にばら撒かれる「犯行声明」ともとれる電波系怪文書。 果たして犯人の目的は?無関係に思える被害者達の間を結ぶミッシング・リンクは存在するのか?
無差別に見える被害者達を結ぶ共通項とは何か?という謎がメインのミッシング・リンクもの。 途中、ミッシング・リンクものの傑作「九尾の猫」を彷彿とさせるフレーズがあったりして、 ニヤリとさせられます。日常を丹念に描いているのと、被害者の一人称のパートとか、 なかなか趣向を凝らした構成になってますね。 犯行の動機とミッシング・リンクに関しては「そんなんわかるか!」といった感じですが、 読み返してみると確かに伏線が張られてるんですよね。しかもかなり大胆に。 本格ミステリ大賞受賞も納得。なかなか面白かったです。
(2003.12.13)
★★★
小説家を夢見る小学生、エジプトで発掘を続ける考古学者、 理系小説でベストセラーを飛ばしたものの壁にぶつかっている小説家…。 3つのパートが並列に進んでいく小説は、やがて互いにクロスしてゆき…。
「パラサイト・イブ」「BARIN VALLEY」とバリバリの理系小説を書いてきた瀬名秀明先生の、 第三長編。前二作とは打って変わってバリバリの理系でもなくSFでもなく、 ジュブナイル・ファンタジーといった趣。
「博物館の博物館」というアイデアは面白いと思うし、「同調」という飛び道具も、 この作品の中ではアリだと思うのですが、でもメタフィクション的要素は果たして必要だったのかなあ、 と思ってしまいました。単純に亨のパートからなる青春冒険小説でも成立してますしね。 メタフィクション的要素が効果を上げているかと言えば、ちょっと疑問です。 まあ、作者自身を投影したと思われる「私」のパートは、 それはそれで結構楽しませていただきましたけど。
(2003.12.07)
★★★
この2ヶ月で3冊目の西澤さん。重なる時は重なるもんですねー。 ノンシリーズの長編青春ミステリ。
何でも器用にこなす「僕」のことを誰も認めようとしない…。 ブラスバンド部に所属した中学時代、音楽を諦めた高校時代、 浪人からの逃避で行った米国留学、 「一発逆転」を狙って作家を目指した社会人時代… 作者の実人生と重なる舞台設定の下展開する青春ミステリ。
フィクションだということはわかるんですが、 どこら辺まで西澤さん本人の体験が投影されているのか、 各エピソードや設定が、かなりリアルに描かれているので、 判別しかねますね。
断片的な文章の「欠片」の配置が絶妙で、 次から次へと起こる事件やエピソードが段々と結びついていく、 西澤作品でよく見られるあの感じを味わうことができます。
青春ものとしてもよくできてますが、一応ミステリ要素もちゃんと入ってますね。
(2003.11.27)
★★★
2人乗りの曲芸飛行機。究極の「密室」状態で現れた射殺死体。 同乗者が犯人としか思えない状況で、なぜそんなシチュエーションで殺す必要があったのか? 持った者を不幸にするという時価十億円の曰くつきの魔剣「エンジェル・マヌーヴァ」の呪いなのか?
保呂草潤平の「裏モード」大活躍、といった感じの一篇。 練無の意外な面も見れましたし、4人の関係も進展したようなしないような。
最後の「脅迫状に盛り込まれた暗号」ですが…(以下ネタバレのため反転)
6行の脅迫文、各行の一番最後の文字を左から順に読むと 「キギムイクリ」。これを一文字ずつ前にずらすと「カガミアキラ」となりますね。 でもこれって、後から照らし合わせることは出来ても、最初の文を与えられて、 解読するには条件が足りなさ過ぎると思うんですが…。
(2003.11.21)
★★★☆
チョーモンインシリーズ長編第2弾。 他人の視覚・聴覚がまるでテレビ中継のように「体験」してしまう「パス」と呼ばれる超能力。 他人の感覚を通じて送られて来るその映像はストーカー?殺人者? 果たして映像を送ってくる「ボディ」の正体は誰なのか?
長編では第2弾ですが、短編を合わせると第5弾に当たるそうで。 2作目にしては、神麻さんや能解さんと、保科さんとの関係が、えらく進展しているのにちょっと驚きましたが、 なるほど5作目だと思えばそんなもんかなと。 特に能解さんが随分と素直に自分の気持ちを吐露しているのに驚き。
キャラ萌え的要素に目を奪われがちですが、解説にもある通り、 フーダニットとしてもなかなか読ませます。 「ボディ」の正体も結構意外で驚きましたし。
早く短編集読んでみたいですね。早期文庫化希望。
(2003.11.16)
★★★
アジアの西の果て、白い荒野にそびえ立つ直方体。 人の手によって創られたと思われる「それ」は、 入り口のみが存在する迷路となっていた。 そして戻ってこない人間が数多く存在したと伝えられている。 果たして「人間消失」にルールは存在するのか?
本格っぽさ(「ルール」の解明、謎の合理的解決)と幻想っぽさを併せ持った、 恩田陸さんらしい中編小説ですね。 途中の「無数の手」が襲ってくるあたりはとっても怖かったです (「六番目の小夜子」の学園祭のシーンを思い出しました)。 一見合理的に解決したかに見えて、その実は…という展開もなかなか。 ただ、正直真相はいまいちだったかなあ、という印象。 謎が魅力的なだけに、あまりに理の通った説明に、 ちょっと興醒め気味でした(本格マニアとは思えない発言ですが)。
(2003.11.13)
★★★☆
大企業のサラリーマンから憧れの私立探偵へと転身を果たした仁木順平。 事務所で暇を持て余していた彼の元へ押し掛けた探偵助手・市村安梨沙。 「不思議の国のアリス」のキャラクターたちになぞらえられる奇妙な依頼人達。 そんな奇妙な依頼に対して、10代の少女にしか見えない安梨沙(アリス)が見せる鋭い推理。
アンソロジーなどで何度か見たことはあったのですが、短編集として読んだのは初めてのアリスシリーズ。 実は20歳、とか、実は結婚している、とか、実は離婚したこともある、 とか衝撃的な事実も明らかになりつつ進行する7編。 アリスの魅力にすっかり当てられてしまっている順平の様子が気恥ずかしくもありますが、 日常の謎にキャラ萌えの要素を加えて、なかなかのクオリティ。 個人的なヒットは「最上階のアリス」かな。 著作リストを見ると「虹の家のアリス」という続編もあるようで、楽しみです。
(2003.11.12)
★★★
QED 百人一首の呪に続くQEDシリーズ第2弾。 七福神の謎をめぐる3つの死。 そしてその死の謎を解明しようと動き出したのは日本史に造詣の深い漢方薬剤師・桑原崇(通称タタル)。 七福神と六歌仙を巡る謎は意外な結末を…。
こじつけなのかも知れませんが、この謎解きには圧倒されますね。 あまり日本史に詳しくない私としては「へぇ〜」としか言いようがないんですが。 まあでも「百人一首の呪」よりはとっつきやすかったかな。
次の「ベーカー街の問題」はシャーロキアンの端くれとしてちょっと期待してます。
(2003.11.08)
★★★★
本格ミステリの我孫子武丸、伝奇ホラーの田中啓文、SFホラーの牧野修。 「かまいたちの夜2」で組んだ3人が「国枝特殊警備会社」という共通の設定を元に送る、 セッション・ノベル。
それぞれの作家がそれぞれのパートの「ゴーストハンター」を主役にした章を担当してます。 田中啓文は下品な法力ばかり使う生臭坊主・洞蛙坊。 牧野修は他人の「妄想」が形となって見えるという耽美なサイコ青年・比嘉薫。 我孫子武丸は霊の存在など全く信じず、全ては科学的に説明がつけられると主張する科学者・山県匡彦。 3人とも全く個性が異なるそれぞれの方法で事件を解決していきます。 そして最後は3人が大怪我を負い記憶を失った4年前のあの事件の謎の解明へ…。
それぞれの章に特徴があるので読んでてあきません。少しずつ語られていく 「4年前の事件」が断片的に合わさっていき、最終章へとなだれ込む構成も見事。 最後も各作家のそれぞれが書いたマルチエンディングとなっていて、 それぞれ特色があって楽しめました。 やっぱり私は我孫子さんのエンディングが一番好みかな。
(2003.11.04)
★★★
火村と有栖シリーズ。「旅先の宿」をテーマにした短編を集めた短編集。
廃線跡を見に行った夜、泊まった廃旅館で有栖が聞いた物音とは(「暗い宿」)。 石垣島のリゾートホテルで犯人当てゲームに興じる有栖たち。 楽園に見えたホテルの裏で悲劇が進行していた…(「ホテル・ラフレシア」)。 顔に包帯、帽子にサングラス、まるで透明人間のような客が泊まった離れで、 見知らぬ男が殺されていた。果たして異形の客はどこへ?(「異形の客」)。 身分不相応な高級ホテルに泊まった火村が巻き込まれた災難とは?(「201号室の災厄」)。
あとがき読むまで「宿」がテーマだったということに気づきませんでした(苦笑)。 「ホテル・ラフレシア」はなんか南国に行きたくなりますね。 収録作の中で一番本格っぽいのは「異形の客」でしょうか。 また犯人の追い込み方が火村っぽい。
(2003.10.30)
★★☆
「エル−全日本じゃんけんトーナメント」に続くシリーズ「ユウ」の文庫化。 「国民クイズ」だと聞いていたのですが、人間CMになってました。 元のノベルス版に比べると大幅に改訂されている様子。
15秒の「人間CM」を流し、その日一番のCMを電話投票で決める人気番組「ゴールデンU」。 出演した記憶がない木村彰一は、いつの間にか「トゥデイズU」に選ばれ、 やがて…。
うーん、元は400ページくらいあった「ユウ」を、削ぎ落として150ページくらいになってるんですが、 いくらなんでもはしょりすぎでは?謎を振りまくだけ振りまいて、丹念に伏線も張っているようなんですが、 その決着は何だかなあ。
正直、本編よりも巻末の「木村彰一氏の寄稿」の方が面白かったですね。 まあそれも予想の範疇みたいですが…。
(2003.10.26)
★★★★
「タック&タカチシリーズ」の最新長編。 スコッチ・ゲームではタカチの過去の事件が明かされ、傷が癒されましたが、今回はタックの過去が明かされます。
タック、タカチ、ボアン先輩に比べると、どうも「おまけ」っぽいポジションだったウサコ。 今回はウサコが語り手となるという趣向のため、今まで知らなかったウサコの内面や、 タック・タカチたちとの出会いなどのエピソードも明かされます。
そしてカットバック形式で語られる「タックの衝撃の告白」と 「ルルちゃんが遭遇している不思議な現象の謎解き」。 ささいな謎をああでもないこうでもないと推論を繰り返している内に、 思いもつかなかった結論に辿りつく(そしてそれが往々にして当たっている)、 というのはこのシリーズの真骨頂ですが、今回は盛り込まれた謎の数も半端じゃありません。 しかもそれらが相互に微妙に絡み合っていたりして。構成も見事ですね。
タックの衝撃の過去は重過ぎるんですが、それを払拭するかのようなさわやかな読後感が残るのは、 やはりタカチマジックでしょうか。
自分の本当の気持ちをはっきりと自覚したウサコや、 何もわかっていないようで全部わかっているようなボアン先輩を含めて、 彼らの今後がどうなるか非常に楽しみであります。 でもまだこれの続編って短編集しか書かれていないんですよね?
(2003.10.18)
★★★
ヴィラ・マグノリアの殺人に続く、 「葉崎コージー・ミステリ」の第2弾。といっても、舞台が葉崎市なだけで、 登場人物はほとんどかぶっていません。
勤め先が倒産し、友人に相談したら怪しげな新興宗教を紹介され、 逃げ出した旅先で止まったホテルは火事、 海に向かって「バカヤロー」と叫べば水死体が…。 果たして不幸のどん底にいる相澤真琴を葉崎市はどう迎えるのか?
千秋が明るいから救われてるけど、結構ドロドロしてますよね、 若竹先生の作品らしく。登場人物みんなが何かを隠し持ってるって感じだし。 まあ真琴はようやく幸せをみつけられたようでよかったよかった。
(2003.10.09)
★★★
密室にこだわり続ける作家・二階堂黎人が編んだ、古今東西の珠玉の密室トリックを集めたアンソロジー。
第一幕は主に若手〜中堅作家による密室物の書き下ろし。 密室にこだわる二階堂さんらしく「ちゃんとしたトリックのある密室物であること」 「設定としては『密室殺人』『足跡のない殺人』『閉鎖空間での人間消失』に限る」 という厳しい条件がつけられています。 しかしこの厳しい条件にもかかわらずなかなか面白いトリックの作品が並びました。
中ではやはり二階堂先生自身の中篇「泥具根博士の悪夢」がよかったですね。 一つだけ中篇だから他との比較はフェアではないですが、 さすがに密室物にこだわるだけあって、念の入った五重密室とは恐れ入りました。 他には霧舎巧先生の「まだらの紐、再び」や 太田忠司先生の「罪なき人々 vs. ウルトラマン」が良かったです。
下巻もあるんですが、分厚いんだよなあ。
(2003.10.02)