★★★☆
「御一新」により徳川の世が終わり、明詞の世となって数年。
霧生家の屋敷の中で、青年軍人が屋敷の中で殺される事件が起こった。
親友であった公家の三男坊・九条惟親は、
事件の真相を突き止めるために調査に乗り出すが、
調べれば調べるほど事件は奇妙な様相を示していた。
さらに第2、第3の事件が起こり…。
「外部の者には犯行不可能」な事件と、
「内部の者には犯行不可能」な矛盾する事件。
一族の中で結婚を繰り返す霧生家に秘められた秘密とは。
そして犯人は?
秘密を持つ一族、不可能状況、残虐な死体、と本格要素満点。 さらに「探偵が事件が関わることの是非」を巡る後期クイーン問題まで盛り込んで、 もうお腹いっぱい。真相は、それだけ聞くと反則??って感じですが、 解説でも述べられているように、フーダニット・ハウダニット・ホワイダニットの三位一体ですので、 十分に納得できました。 単発物かと思ったら、シリーズ物になるらしいですね。
4月、5月となんか全然読めなかったんですが、6月の400円文庫で少しは挽回したかな。 まあそれでも少ないですけど。
(2002.06.30)
★★★☆
西澤さんのSF新本格系。今度は、生物が触れると完全なコピーが出来上がるという、 不思議な「壁」が出現した世界での話。
生物のコピーといっても、いわゆるクローンとは次元が違っていて、 遺伝子はもちろんのこと、 触れた時点での記憶までも完璧にオリジナルと同じコピーができあがります。 コピー側にしてみると、自分こそがオリジナルであると思ってしまうほど。
そんな壁「ストロー」の内側に取り残された高校生たち。 そこで想像を絶する凄惨な事件が起こります。
今回の事件は本格というよりもサイコサスペンスっぽい感じですが、 根底にあるのは「アイデンティティ」。コピーとオリジナルの違いは何か? 自分が自分であるとはどういうことか? そんな悩みを抱えた高校生たちが非日常空間に放り出された時に、 些細なきっかけで人格を崩壊させていく様がよく描かれてます。 コピーとオリジナルのほんのわずかな違いから生じる、 対照的な運命も象徴的ですね。
(2002.06.23)
★★★☆
400円文庫も6冊目。あと2冊しか残ってないのか…。
歌野さんは以前にも400円文庫で「生存者、一名」という傑作を残してますが、 今回も中編ならではの試みでなかなか楽しめました。
大学時代、探偵小説研究会に入っていた冬木は、 既に50台となったかつてのサークル仲間を招待した。 そこには日本とは思えぬ館が、執事が、メイドが、そして奇妙な事件が待っていた!
子供の頃野球が好きで好きでしょうがなかった子の一部は、 やがてプロ野球選手となる。音楽が好きだった子の一部は、 やがてプロのミュージシャンになる。では、ミステリが好きでしょうがなかった子はどうなる?
そんな疑問に対する答の一つがこの作品。しかし実際に趣味で館を建ててしまって、 あまつさえその中で「殺人トリック・ゲーム」までやろうと考えるような輩はいないでしょうけどね。 この小説の主人公はそれをやってしまいます。そして「不可能犯罪」が。 一体どんなトリックが?
「家」シリーズ三部作でデビューした歌野さんにしてみれば、 この「三星館」の殺人事件はまさに原点に帰った、というところでしょうか。 中編らしい一発ネタが効いてて楽しめました。
(2002.06.21)
★★★
国名シリーズ第4弾。色んな意味で発表当時物議を醸した短編集らしいです。
確かに表題作「ペルシャ猫の謎」は…ぶっ飛んでますねえ。 これがアリなのか?いや、他のどの作家がやっても驚かないかもしれないけど、 これを有栖川有栖さんが、しかも火村シリーズでやってしまうというのはちょっとびっくり。 これで納得してしまったら今までの全てを否定することになりかねないので(笑)、 私は当然納得はしてません。
「赤い帽子」は火村・有栖コンビが出ない、森下刑事が主人公の異色作。 火村のようなひらめきはないものの、 地味な証拠集め・証言から犯人像を創り上げていく様子が描写されてて、 なかなか好感を持ちました。
派手さ、という意味ではやはり冒頭の「切り裂きジャックを待ちながら」が一番か。 演劇用に書いた作品のノベライズらしいので。 ほんの1点の綻びからロジックを進めていくところはまさに有栖さんの真骨頂。 でも確かに動機はわかりにくいですね。
火村の私生活がのぞける小品も入ってたりして、 その手のファンにはたまらない作品かも知れませんね。
次の国名シリーズ「マレー鉄道の謎」(まだノベルスで出たばっかり)は、 かなりど真ん中直球の本格らしいので、期待してます。
(2002.06.20)
★★★
前回の400円文庫で「CANDY」がぶっ飛んでた鯨統一郎さん。 正直、今回もあまり期待はしてなかったのですが、ある意味予想以上でした(笑)。
過去の文豪達が文章魔王に次々と勝負を挑まれ文章魔界道に封印されているという。 ミユキは文豪達を、そして小説を取り戻すために文章魔界道に挑む。
えーと、あらすじを書いていて空しくなってきたんですが(笑)、 まあ内容はどうでもいいです。戯曲の形を採っていて、 冒頭に「一切上演することを禁ず。これは読まれてることだけを目的とした戯曲である」 と書かれていますが、誰もこれを上演しようなんて思わないって。 「CANDY」もかなりの駄洒落オンパレードでしたが、 今回はその駄洒落部分を徹底的に極めた、という感じですね。 同音異義語対決、回文対決、 やたらと不自然な固有名詞が出てくる作中作ミステリを題材にしての同音フレーズ対決、 などなんか脱力しながらも「いやあ、ごくろうさまでした」と脱帽せざるを得ないというか…。 正直、内容だけなら「★★☆」なんですが、 この努力に☆一つ分おまけ、といったところです。 だってこれ、並の長編よりも手間かかってるよ…。
(2002.06.19)
★★★
連作「幻想都市の四季」シリーズもこれで最後。冬編は稀代の本格ロジックメーカー・有栖川有栖さんです。
真幌の海には、クリスマス頃に蜃気楼が見られるそうです。 そして真幌の子供は誰もが「決して蜃気楼に手を振ってはいけないよ」と教えられます。 三つ子の一人を幼い頃に「蜃気楼」に奪われた史彰と満彦の二人の兄弟は、 やがて取り返しのつかない道へと進むことに…。
有栖さんには珍しく倒叙ものです。 犯罪者の側から段々と犯行が暴かれていく様子を描いているサスペンスものなんですが、 さすがに伏線の張り方とかしっかりしてますね。
でも有栖さんの作品に求めるのはやっぱり水をも漏らさぬロジックだったりするので、 ちょっと期待と違ったかなあ。
さて、4人の作家による連作を読み終えた感想です。 非常に面白い設定だと思いますし、是非今後も続けていただきたい企画です。 ただ、今回の4作に関していうと、 それほど「まほろ市」という架空都市の設定が活きているとも思えなかったし、 各作品間の関係も希薄でしたね(共通しているのは刑事と喫茶店くらいか?)。 この4作だけで終わらせてしまうともったいないと思います。 今後も色んな作家が「まほろ市」を舞台にした中編を書いてこそ、 この設定も活きてくるでしょう。
(2002.06.18)
★★★☆
連作中編「まほろ市」シリーズ第3弾。あの麻耶雄嵩、ということでかなり構えて読んだんですが、 予想外に(?)かなり面白かったです。今のところ「まほろ市」シリーズでは一押し。
まほろ市を震撼させている無差別連続殺人事件の犯人「真幌キラー」を追うために、 推理小説家にして有名人の闇雲A子と、なぜかパートナーを組むことになってしまった「メランコリー刑事」こと天城憂。 被害者の隣には必ず意味ありげなアイテムが置かれ、左耳が焼かれていた。 一見バラバラに見えるアイテムの共通点は一体何か?そして犯人の目的は?
いわゆる「九尾の猫」タイプのミッシングリンクに分類されるんだと思いますが、 この動機はちょっと度肝を抜かれますね。非常にゲーム的な設定ですが、 そこがまた麻耶雄嵩さんの作風に合っているというか。 2段オチも素直に面白かったです。
しかし、真幌市の住人は退屈しないだろうなあ。
(2002.06.15)
★★★☆
暇つぶしに買った一冊ですが、かなり長いこと楽しめました。
いわゆる「嘘つき村の住人と正直村の住人」のような論理パズルを、 選りすぐりで60作紹介してます。 古典から、「同族問題」「交換問題」「なりきり問題」のような高度な論理パズルまで バリエーションが豊富で、 暇つぶしには持って来い。 基本的に論理学は好きな方だったので、 「A⊃B」は「¬A∨B」と同義、なんていうのを思い出しながら、 懐かしく楽しめました。
(2002.06.14)
★★★
まほろ市シリーズ第2弾。新作は久しぶりの我孫子武丸先生です。
まほろ市に住む売れない新人小説家と、 彼に初めてファンレターをくれた19歳の女性との淡い恋。 しかしその恋が、まさかこんな悲惨な結果を生み出すことになろうとは…。
なんともやり切れない感じが残りますね。 基本的に人が死ぬミステリを読んでおいてこんなことを言うのもなんですが、 登場人物にはもうちょっと幸せになって欲しいなあ。
次の「秋」編の主人公らしい「闇雲A子」が、名前だけですが登場して、 連作感を高めています。
(2002.06.13)
★★★
400円で書き下ろしの中編が読める祥伝社400円文庫第3弾!! あれは秋だけだと思っていたので、 文庫新刊情報で見た時は非常に嬉しかったですね。 しかも今回は本格寄りのラインナップです。
そして「幻想都市の四季」と名づけられた書き下ろし競作が、 この「まほろ市の殺人」シリーズ。架空の地方都市・真幌市を舞台にした本格を、 倉知淳、我孫子武丸、麻耶雄嵩、有栖川有栖、の4人が書き下ろすというのですから、 もう本格ファンにはたまりませんね。
で、その第一弾「春」の倉知淳(多分、事件同士の関連性は薄いと思うので、 どこから読み始めても大丈夫だとは思います)。 恐らく、最初に読まれることが多いであろうことを意識したのか、 架空都市「真幌市」に関する説明が多目な印象を受けました。
事件自体は解決はしてませんが、一応真幌市に特有の気候が鍵になっていたということで、まあ出だしとしてはこんなもんかな。 他の作品も楽しみ。
(2002.06.12)
★★★
ちょっとホラーっぽい作品を集めた短編集。「ホワイトノイズ」「ブラックライト」 「ブルーブラッド」「ゴールデンケージ」「インビジブル ドリーム」の5編から成ってます。
色々な形で「恐怖」が描かれてます。なかでも「ゴールデンケージ」 の体の表面で這う虫の描写はかなりキますねー。
不条理な現象の理由が示されるわけではないので、ミステリというよりはホラーなんですが、 それなりに楽しめました。
(2002.06.08)
★★★
妻を事件で亡くして以来、被害者の家族に対して強く尋問できなくなってしまった「やさしい」刑事。 彼の追う死体の一部が切り取られた連続殺人事件。 そして彼の娘が誘拐された事件。 マスコミを巧みに利用した二つの事件の影には一体誰の意志が?
変わったミステリですねー。いや、このオチは予想できなかった…。 最初の2つの事件は、無事に解決するのですが、謎が残ります。 それが最後の「第一の事件」で、 語り手が誰なのかがわかったあたりから、 ようやく物語は収束するという…。
しかしこれ、12年も前の作品なんですね。
(2002.06.05)
★★★
おなじみタック・タカチシリーズ。今回は、タカチの過去に起きたある連続殺人事件を、 例によって「妄想推理」で解決する、という趣向。
最初っからタカチの過去シリーズが始まるので、重い重い。元々このシリーズって、 ボアンやウサコなどとのやり取りの明るさと、 事件の真相の暗さのギャップが特徴といえば特徴なんですが、 いつものシリーズがボアン:真相=8:2くらいなのに対して、 今回はボアン:真相=3:7、って感じで、もうほとんどシリアス全開。
タカチの人を寄せ付けない「殻」が形成された経緯などが明かされて、 それはそれでとても興味深かったのですが、 やっぱりもうちょっと軽妙なやり取りが見たかったなあ、ということで、 ちょっと評価は辛目。 決して面白くないわけではないんですけどね。
でも正直このシリーズの続きを読むのが怖くなってきたなあ…。
(2002.06.01)
★★★☆
1984年刊行の、名探偵更科ニッキ初登場作。読者への挑戦までついている、 純粋本格推理小説です。
三興グループの実質的オーナーにして、ジグソーパズル連盟の日本支部長でもある華子が、 白昼殺された。死体の周りには、ジグソーパズルのピースがばら撒かれていた。 一体犯人は何の目的でパズルをばら撒いたのか? 捜査が難航する中、第2第3の殺人が起こる。
帰国子女で若干21歳の法務省特別捜査官・更科丹希・通称ニッキが探偵役。 102のピースに分けられた手掛かり、読者への挑戦、 動機無視の純粋本格推理、と本格好きにはたまらない構成ですが、 この作品の魅力の半分はやっぱりヒロイン・ニッキのキャラクターでしょうねえ。 「誰もがポオを愛していた」も読んでみようっと。
(2002.05.26)
★★★
1994年に刊行され、一部に熱狂的な支持者を持ちながら絶版となっていた作品が、 この度文庫化。 「ミステリとファンタジーと青春小説が渾然一体となった異色長編」 (帯より)。
なぜ彼女はCDから現れた「黒い翼の天使」に殺されなければならなかったのか? いきなり突飛な設定から始まってますが、確かに「動機」と、 天使たちに遭遇した者達の共通点を探る「ミッシングリンク」という、 本格テイスト溢れる作品になってますね。
洋楽に詳しければもっと面白かったんだろうなあ、とも思いますが、 わからなくともそれはそれなりに楽しめました。
(2002.05.24)
★★★★☆
850ページ以上ある分厚い本なんですが、4日で読んでしまいました。 いやー、面白かったー。
全ては19年前のある殺人事件から始まった。 被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂。 暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後全く別々の道を歩み始める。 しかし表向き全く接点のない2人の周りには、 「証拠」のないいくつもの犯罪を通して、 お互いの影が見え隠れするのであった。
心を失った人間の、19年間に亘るひそかな悪の軌跡。 いやー、一気に読んでしまいました。 こりゃすごいや。ここまで徹底的に創り上げられた「悪」の軌跡ってのは、 もう圧倒されます。とにかく読んでみて、って感じですね。
第四章の最後の一行には背筋がゾクリとさせられましたね。
(2002.05.23)
★★★
女性作家のミステリ・アンソロジー。これの前に「緋迷宮」というアンソロジーがあって、 それの続編のような位置付け(作家もかなり重なってる)らしいのですが、「緋迷宮」の方は知りませんでした。
「ミステリ」と書きましたが、ミステリ作家とは限らずホラーやSFも人入ってますね。 それぞれの特徴を活かした作品が入ってて、バリエーションに富んでたと思います。
個人的に3つ選ぶとすると「大空学園に集まれ/青井夏海」「泥眼/乃南アサ」「祝・殺人/宮部みゆき」かな。
(2002.05.18)
★★★★
久しぶりに海外モノを。結末部分が袋とじになっていて、 もし続きを読みたくなければ開ける前に返品すれば返金する、 返金保証付きで話題となった傑作ミステリ。
まあ、当然開けるのを我慢できるはずもなく(笑)、 堪能させていただきました。 事件パートと裁判パートが交互に描かれる手法で書かれてます。 途中まではなかなかこの2つのパートがどう絡むのかわからないのですが、 途中から加速度をつけて収束していくと、もう止められません。 しかも殺人の被害者は主人公自身??
そして犯人には死よりも残酷な結末が…。ある意味レクイエムですな。
(2002.05.14)
★★★
はあ、やっと読み終わった。なんかエラい長い時間かかってしまいました。 GW中はもっぱら映像ばっかりで小説読んでなかったってのもあるんですが…。
「謎のギャラリー 名作館 本館」 で紹介された「隠れた名作」の中から、「謎」がメインなものを集めたアンソロジー。
うーん、やっぱりこれは「名作館」と見比べながら読むのが正解なんでしょうね。 でもなかなかそうは行かないんだよなあ。 完全に独立して読んでしまったために、いまいちノレませんでした。
収録作中では「エリナーの肖像」が面白かったですね。 絵に描かれた女性が残したダイイング・メッセージ。 描いた方はでなく、描かれた方がダイイング・メッセージを発信している、 という設定が非常に魅力的なアイデアでした。
(2002.05.10)
★★★
トップランドの過去シリーズの開始。 忍者のお父さん・藤笙造が主人公の話。 「1980」となってますが、物語は1980になったところで終わり。 1950〜1980までの歴史と共に彼の生き様が描かれます。
例によって物語に関係のない歴史の記述が多すぎ(笑)。 特に今回は30年分やられてますからね。実質的な物語は半分以下なのでは。 作者に言わせればこれは「小説」の枠を越えた「大説」ということなんですが、 いくらなんでもちょっとなあ。 まあ、次回以降はいくら何でもこんなことはないと思うんですけどね。
で、笙造父さんの歴史ですが…波乱万丈じゃないですか! うーん、こんな人生を送ってきたら、そりゃ忍者にもなるわなあ。 あの不思議な「6人家族」結成の裏にはこういう理由があったわけですね。 しかし…というところで物語は終わり。
しかしてっきり秋に出るのが「天使エピソード2」、 春に出るのが「紳士エピソード2」という風に続くのかと思っていたら、 そうじゃなくってずっと「エピソード1」が続くらしい。 次の現代編は「戦士エピソード1」で、「9.11以降」が主なテーマらしい。 そうだよなあ、「トップランド2001」 を読んだ時に感じた違和感の一つがこれ。 原稿完成と文庫発売のちょうど間に9.11が入っちゃったんですよね。 どういう風に料理するつもりなのかな。
(2002.04.24)
★★★★
乙一さんの幻冬舎文庫書き下ろしシリーズ第2弾。 本人があとがきで書いてるように、 「警察に追われている男が目の見えない女性の家に黙って勝手に隠れ潜んでしまう」 話です。
いや、しかしこのプロットが秀逸。 乙一さんには珍しく、ホラーでもファンタジーでもないですが、 この設定だけでぐいぐい読ませます。 また、相変わらず内へ内へと篭る内面描写がとってもリアルで徹底的ですね。 あとがきとか見てるととっても明るいように見えるけど、 本質的には相当に暗い人なのかなあ、とか思ってしまう…。
読後もとってもさわやかな感じでした。オススメ。
(2002.04.20)
★★★☆
くろけんさんの「バカミスにして純粋本格!」(帯より)。 いやあ、その通りでしたが、楽しませていただきました。
嵐に襲われた豪華客船。無人島に辿り着いた7人。 猿と人の間の怪物。そして現われた死体。 怪物に掛けられた「呪い」によって、嘘がつけなくなった面々…。 クローズドサークルの中で行われる、 「呪いを解く方法」および「殺人犯人」に対する推理。 そして事態は思いがけない方向へ…。
暗号、Who done it、叙述、等本格の仕掛けは十分。 しかもそれをまさに「くろけんのミステリ博物館」 そのままのノリで書かれてるので、とても親しみが持てました(笑)。 設定自体は西澤さんのSF新本格っぽいかも知れませんね。
白泉社My文庫は、まだ創刊したてのようで、 本屋でもコーナーが定まってなかったりするようなので、 手に入れるのならば新刊の今のうちにどうぞ。
(2002.04.17)
★★★
角川スニーカー文庫のミステリアンソロジーシリーズ第3弾。 今回のテーマは「密室」。
このシリーズ、割と若手作家が参加している、という印象が強かったのですが、 なんと今回は泡坂妻夫さんまで参加してらっしゃいます。
2+1つの密室に、3つの死体、という豪華な密室トリックに挑んだのは、 「五つの棺」でデビューした折原一さんの「トロイの密室」。 おなじみの黒星警部シリーズ(ただし黒星警部は登場せず)です。
霞流一さんの「タワーに死す」は、ミニチュアの東京タワーの天辺に刺さった死体、 というなかなか衝撃的な作品。これもシリーズものみたいで、 語り手兼マネージャと三枚目女優兼探偵、というキャラクタ設定が面白いですね。
柴田よしきさんの「正太郎と冷たい方程式」は、猫探偵正太郎が登場するシリーズの番外編、 という位置付けで、なんと22世紀の宇宙ステーションの中で起きた密室殺人。 番外編ならではのぶっとんだ設定ですが、「猫探偵」正太郎って、 別に推理してないじゃん…。
泡坂妻夫さんの「雪の絵画教室」は、おなじみの「足跡のない雪の密室」。 この主役の裳所(もとこ)のシリーズがあるのかどうかはわかりませんが、 途中で出てきたテレビが好きな刑事と、死体が好きな検死官は、 別の短編で見た記憶があります (確か「煙の殺意」に収録されてたはず)。 面白かったですが、解決に至るところがちょっと唐突な感じも。
このシリーズ、なかなか楽しみですね。次は誰が出てくるかな。
(2002.04.14)
★★★
古株と新進、二人の推理小説作家がテレビの公開討論で決闘を約束。 その内の一人が、相手の別荘の中で、密室状態で死体として見つかった。 犯人はどうやって密室から抜け出したのか?
メインはかなりオーソドックスな本格ミステリですが、 時系列の異なる章立てや、 作家二人の「作品」3編を挟み込んだりすることで、 独特な味のある作品になってますね。 作中作ってことで、折原一さんの作風に近いかもしれません。 叙述トリックとはちょっと違いますけど。
(2002.04.09)