推理小説の部屋

ひとこと書評


女王様と私/歌野晶午 (角川文庫)

★★★  

独身で無職、オタクニートの44歳・数馬。 人形の「妹」と妄想デートに出ていたある日、黒い服を来た小学生「女王様」に出逢った…。 その出逢いが悪夢への第一歩だった。

うーん、これは紹介が難しい(苦笑)。何書いてもネタバレになりそうだ。 とにかく、手掛かりは割と大胆に提示されてはいるのですが、 まさかそこから??みたいな感じになりました。

注意:普通の人は怒るかも……。

(2009.09.29)


太陽の塔/森見登美彦 (新潮文庫)

★★★  

華の無い大学生活を送る「私」に、三回生の時、「水尾さん」という恋人が出来た。 しかしあろうことか、クリスマスを目前にして瑞夫さんはこの私を振ったのだった。 果たして何が悪かったのか…。「私」の水尾さん研究が始まる…。

モテない大学生の怨念と妄想の凝縮された一編。森見登美彦さんのデビュー作らしいです (これを書いた時にはまだ大学院生だったとか)。 独特の文語的な文体、大袈裟な物言いはこの頃から健在。 「法界悋気」なんて単語、初めて知りましたよ。

端々から断片的に語られる「水尾さん」の人となりは、かなり天然入っている感じで、 「夜は短し歩けよ乙女」の乙女ちゃんにも通じるものがあるような。 つまりは作者の理想の女性像が投影されているのでしょうね (そういえば「でっかい緋鯉を担いでいる」というのもありましたが、 好きなシチュエーションなんでしょうかね?)。

しかし何といっても面白いのはこの作品が日本ファンタジーノベル大賞受賞作、 ということ。こんなにリアルな学生の妄想が投影された作品なのに、 ファンタジーになってしまうなんて。

(2009.09.23)


カクレカラクリ/森博嗣 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

★★★☆ 

廃工場オタクの郡司と栗城は、同じ大学に通う花梨の実家のある鈴鳴村を訪れた。 そこは、真知家と山添家の2大有力者が火花を散らし、天才絡繰り師・磯貝機九朗が残した、 120年後に作動するという「隠れ絡繰り」の伝説が残っていた。 丁度120年目に当たる今年、隠れ絡繰りの謎に挑む2人だったが…。

出てくる女子が理系ばっかなところがさすが森ミステリ(笑)。 120年停止していて、120年後に動作させる仕組みを作るにはどうしたらいいか、 と言った考察が面白かったです。 謎の解かれ方もなかなか魅力的でした。

(2009.09.18)


玻璃の天/北村薫 (文春文庫)

★★★☆ 

昭和初期の帝都で、社長令嬢と女性運転手ベッキーさんが謎に挑む、 ベッキーさんシリーズ第2弾。第1弾は街の灯

犬猿の中の両家の和解の象徴である絵画が消えた謎を追う「幻の橋」。 カレンダーと六曜に消えた友人の手掛かりはあるのか?暗号物「想夫恋」。 ステンドグラスの天窓から墜落した思想家。しかし突き落としたはずの男の足跡はそのまま消えてしまい…。「玻璃の天」、の3編を収録。

お嬢様、単におっとりしているだけではなく、なかなかしっかりした考えの持ち主だったんですね。 しかし「現代の日本で《主義者》というのは《犯罪者》と、ほぼ同義語だろう」 など、段々と時代が不穏な方向へと向かっている空気感を見事に表現しています。

そしてスーパーレディ・ベッキーさんの秘密も判明。 なるほど、その聡明さ、奥ゆかしさ、文武両道なところなど、納得です。

次の直木賞を受賞した「鷺と雪」が最終巻となるようです。 文庫落ちを楽しみにしてます。

(2009.09.12)


陽気なギャングの日常と襲撃/伊坂幸太郎 (祥伝社文庫)

★★★★ 

陽気なギャングが地球を回すの続編。 作品間リンクの多い作者なのであまり意識していませんでしたが、 長編での正式な続編というのは初らしいですね。

1章は成瀬・響野・雪子・久遠、4人のギャングのそれぞれの日常を描く短編という構成。 しかし強盗事件やら南米の国やら劇場オーナーやらがリンクしていて、 それらがまた2章以降の展開への伏線になっているという周到ぶり。

強盗なんだから悪には違いないんだろうけど、何だか憎めないんですよね。 読後感もすっきりです。

(2009.09.08)


赤い指/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★☆ 

少女の遺体が住宅街で発見された。平凡な家庭を突然襲った悪夢。 果たして一体何が?刑事・加賀恭一郎は全てを見抜いたかのような一言を漏らす…。

久しぶりの加賀刑事シリーズ。第三者の目から見た、 加賀刑事のスーパー刑事ぶりがなかなか新鮮だったり。 加賀刑事自身の家庭の事情もオーバラップしたりして、 なかなか興味深い作品になってます。

(2009.08.30)


No.6 #5/あさのあつこ (講談社文庫)

★★★  

近未来SF小説の第5話。過去感想はこちら→#1#2#3#4

「人狩り」に乗じて矯正施設に乗り込むことに成功したネズミと紫苑。 想像以上に過酷な状況に心が折れそうになる紫苑。 しかしネズミに命の危機が迫った時、秘められた力の片鱗が…。 一方西ブロックでは、紫苑が残した赤ん坊を拾うハメになったイヌカシが途方に暮れていた…。

ネズミの出生の秘密が明かされそうな展開ですね。矯正施設出身だったのか?

(2009.08.18)


中庭の出来事/恩田陸 (新潮文庫)

★★★  

ホテルの中庭で、パーティ会場で衆人環視の中謎の死を遂げた脚本家。 脚本家は3人の女優に一人芝居「告白」を演じさせようとしていた――という設定の戯曲「中庭の出来事」を執筆中の劇作家が…。

劇中劇、劇中劇中劇、と物語が多層に入り組んでいて、しかも女優が「自分自身」の役で劇に出ていたりするので、 ややこしいことこの上ありません。その上、唯一の探偵役まで、 最後には舞台に取り込まれてしまい…。

どうもこの時期から恩田陸さんは芝居・劇にハマって行ったようですね。

(2009.08.10)


どちらかが魔女 森博嗣シリーズ短編集/森博嗣 (講談社文庫)

★★★☆ 

S&MシリーズおよびVシリーズの短編を集めた短編集。 これまで「まどろみ消去」「地球儀のスライス」「今夜はパラシュート博物館へ」「虚空の逆マトリクス」「レタス・フライ」 の各短編集に細切れに収録されてきたシリーズ物を一気に収録。 リマスタリング・ベスト盤、といった位置づけでしょうか。

ただ、「ぶるぶる人形にうってつけの夜」から始まって、 「刀之津診療所の怪」で締める、というこの構成にはなかなか深い意味がありますね。 時系列順に収録されているのも、あまり進展がないと思っていた萌絵と犀川の関係が、 少しずつ変わっていく様子が観測されて興味深かったです。

(2009.07.29)


ギヤマン壺の謎 名探偵夢水清志朗事件ノート外伝/はやみねかおる (講談社文庫)

★★★  

夢水シリーズの外伝。なんと教授が江戸時代に?

幕末の江戸時代に教授がタイムスリップ?竜馬や新撰組といった幕末の有名人とニアミスしつつ、 現代編そっくりなレギュラーキャラ相手にいつものような推理を繰り広げます。 トリックがちゃんと時代に合わせたものになっているところはさすがですが。

物語は途中で終わっていて、この巻は大江戸編上巻、という位置づけのようです。 下巻に相当する「徳利長屋の怪」

(2009.07.22)


レインツリーの国/有川浩 (新潮文庫)

★★★☆ 

図書館戦争シリーズの第2弾「図書館内乱」の作中に出てきた作品、という位置づけらしいです。 アスキーと新潮の出版社の垣根を越えたコラボ同時刊行だったらしいです。

ティーンの頃に読んでいた一つの本がきっかけでホームページを通じて知り合った二人の男女。 しかし彼女の方は聴覚障害者だったのです…というラブストーリー。 「大人のラノベ」を自称するだけあって、甘酸っぱい大人の恋愛ストーリーになってます。

メインは聴覚障害に対する世間の理解不足や差別意識に対する啓蒙なのですが、 障害者側から見た健常者への逆差別意識みたいなところにも踏み込まれて書かれていて、 なかなか興味深かったです。

…ところで「図書館戦争」シリーズの文庫化まだー?

(2009.07.16)


終末のフール/伊坂幸太郎 (集英社文庫)

★★★★ 

「あと8年後に小惑星が衝突して人類は滅ぶ」と予言されてから5年後、 自暴自棄な暴動や自殺も収まり、なんとなく諦めムードが漂う仙台を舞台にした、連作短編集。

あと3年という期限を迎えた中、人々はどのような決断を下し、どのように生きるのか? 様々な切り口から見せてくれます。 個人的好みでは「演劇のオール」「太陽のシール」「冬眠のガール」あたりの能天気な作風が好みかも。

伊坂作品らしく、各短編間での登場人物のクロスっぷりがまた楽しめます。 そういう意味で、「冬眠のガール」の彼氏は絶対他のところに出てくるんだろうなと思って期待していたんですが、 「優男」としか紹介されてませんでしたね。他の作品に出てるキャラなのかなあ?

→コミック版「終末のフール」の感想

(2009.07.16)


少し変わった子あります/森博嗣 (文春文庫)

★★★☆ 

後輩に紹介されたレストランは、毎回場所が変わり、毎回違った女性が同伴してくれる変わった店だった。 小山教授はしかし段々とその店に通うことにはまってしまい…。

ファンタジー?ホラー?ラストの解釈次第でどちらとも採れるような不思議な作品です。 森博嗣版「注文の多い料理店」?いや、店側からの注文は多くありませんけど。

(2009.07.16)


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