推理小説の部屋

ひとこと書評


猫丸先輩の空論/倉知淳 (講談社文庫)

★★★  

童顔で定職にもつかず何にでも好奇心旺盛。そんな猫丸先輩が縦横無尽に活躍する短編集。 講談社文庫ではシリーズ第2弾。「日曜の夜は出たくない」「幻獣遁走曲」を含めると短編集としては第4弾になるのかな?

相変わらず「日常の謎」系の不思議な状況に、好奇心旺盛な猫丸先輩が首を突っ込んで、 納得できる解釈を示す、という構成。タイトルの「空論」が示すとおり、 話す内容が「真実」かどうかはわからないし、その解釈を押し付けるつもりもない、 という飄々としたスタンスが貫かれています。

各章のタイトルがミステリのパロディになっているところが面白いですね。 「とむらい自動車←とむらい機関車」「な、なつのこ←ななつのこ」 「魚か肉か食い物←煙か土か食い物」「夜の猫丸←夜のフロスト」 あたりはわかりました。 「水のそとの何か」「子ねこを救え」がわからなかったのですが、 それぞれ「水のなかの何か」「子どもを救え」というのが元ネタのようですね。

(2008.09.23)


ユージニア/恩田陸 (角川文庫)

★★★☆ 

金沢の名家で起こった、無差別大量毒殺事件。自殺した犯人。 生き残った盲目の少女。 当時近所に住んでいた少女が、事件の関係者にインタビューして書かれた「忘れられた祝祭」。 しかし事件はまだ終わってはいなかった…。 果たして真犯人は誰だったのか?

一人称・三人称・作中作、と章ごとに目まぐるしくかわる構成。 時系列もバラバラで、様々な証言を元に段々と過去に何があったのかが明らかになる、という趣向。 しかしそうした「過去の証言」を断片的に並べる作品と決定的に違うのは、 事件の余波がまだ現在進行形で進んでいく、という点。 あの時の証言者が、別の章では…とかいうこともあったりして、 過去の事件をメインにしながらも、サスペンスは継続して進んでいきます。

ラストはわかったようなわからないような…この投げっぱなし感は、 いかにも恩田さんテイストですが。

(2008.09.21)


魔王/伊坂幸太郎 (講談社文庫)

★★★☆ 

安藤は、ある日自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに気づいた。 「腹話術」と名づけたその能力で、安藤は日本を変えようとする未来党の若き党首・犬養と対決を試みる。

安藤の一人称で語られる中編「魔王」と、弟・潤也を中心に語られる続編「呼吸」の2本を収録。 ちょっとした超能力が出てくるのは伊坂作品の特徴ですが、 この能力はその中でもかなりショボい類。 しかしそのショボい能力で、巨大なうねりに立ち向かう、というのが一つのテーマになっているようです。

死神調査部の千葉が出てきたり、といった、他の伊坂作品とのコラボ要素もあり、 ファンには楽しめます。しかし、犬養の周りにいた能力者は結局何だったのかとか、 国民投票の結果はどうなったのかとか、潤也に語りかけているのは誰なのか、など、 積みっ放しの伏線も多く、これは続編の「モダンタイムス」で解決されるんでしょうかね?

(2008.09.16)

(2008.09.17追記)
(サンデー連載中の「魔王 JUVENILE REMIX」のネタバレを含むので以下反転)
小説版のネタバレが嫌だったので読んでなかったんですが、 ちょうどサンデー版が第1部・安藤完ということで、見てみたら、 ほとんど「魔王」の結末と同じですね (途中は伊坂作品の殺し屋バトルロイヤル、みたいな展開だったみたいですが)。 だとすると第2部は「呼吸」に相当する潤也編、ということなんでしょうか。


六とん2/蘇部健一 (講談社文庫)

★★★  

「六枚のとんかつ」の続編。 相変わらずの脱力オチのバカミスが満載です。 他に「動かぬ証拠」のシリーズや、ノン・シリーズも収録。

意外と泣かされてしまう「君がくれたメロディ」が良かったです。 「届かぬ想い・純愛ヴァージョン」は、完全にタイトルに騙された…。

(2008.08.31)


クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

人類最強の請負人・哀川潤に連れ出され、私立澄百合学園へと潜入するハメになったぼく(語り部)。 ミッションは少女・紫木一姫を学園の外に連れ出すこと。 しかし次々と刺客が襲ってきて…。

戯言シリーズ第3弾にして「クビ○○」3部作の完結編? お嬢様学校に潜入したはずなのに、なぜか密室やらバラバラ殺人やらテンコ盛り。 しかし最強の請負人が出てくると本当にあっという間に勝負ついてしまうんですね…。

「ぼく」自身の不吉な役割も予告され、また過去にぼくが玖渚友を「壊した」事件も、 少しずつ語られ始めてます。こちらも期待。

次は上下巻同時発売のようです。

(2008.08.26)


フロスト気質(上)(下)/R.D.ウィングフィールド (創元推理文庫)

★★★★ 

フロスト警部シリーズ・長編第4弾。ついに上下巻分冊に。

ハロウィーンの夜、ゴミの山から発見された少年の死体を筆頭に、デントン市内で頻発する事件。 連続幼児刺傷犯、15歳の少女の誘拐事件、指を切り落とされた腐乱死体、 4母子の殺人事件…。休暇中だったフロスト警部も急遽呼び戻され、現場の指揮を執ることに。 次から次へと事件が起きる中、果たしてフロスト警部は無事に解決に導けるのか?

いやあ、相変わらず面白かった。今回は、リズ・モード部長刑事という女性刑事まで登場して、 品の無いフロスト警部の下ネタに呆れながらもちゃんとついていきます。 上司(マレット警部)の責任取らなさぶりも相変わらずですが、 人命のためなら自分の名誉なんかどうでもいい、というフロスト。 いい加減であてずっぽうな捜査ばかりしているフロストですが、 こういう根幹のところがしっかりしているので、読者の共感が得られるんですね。

あとがきを読んで初めて知ったんですが、著者のR.D.ウィングフィールドさんは、 もう故人だったんですね。あとの長編は、「Winter Frost」と「A Killing Frost」の2本のみ。 寂しいですが、首を長くして楽しみにしておきたいと思います。

(2008.08.24)


No.6 #4/あさのあつこ (講談社文庫)

★★★  

近未来SF小説の第4話。過去感想はこちら→#1#2#3

いよいよ「人狩り」が始まる。「人狩り」に紛れて矯正施設へと乗り込む覚悟を決めたネズミと紫苑だったが、 ネズミの体調に異変が…。

ようやく潜入。市長はあくまで表向きの顔に過ぎず、あの白衣の男が本当の黒幕なんでしょうか。

しかし講談社文庫版が出てからずっとYA!ENTERTAINMENT版は「#1〜6」になっているので、 #6で完結なのかと思っていたのですが、どうもあとがきを読む限りまだ完結していないっぽい。 #7がずーっと出る気配がないのがかなり不安なんですが…。

(2008.08.17)


容疑者χの献身/東野圭吾 (文春文庫)

★★★★ 

「探偵ガリレオ」シリーズ初の長編にして、第134回直木賞受賞作。 10月にはテレビシリーズ「ガリレオ」の映画化(本作がベースになる模様)も予定されています。

今回湯川と対決することになるのは、帝都大学の同級生で天才数学者の石神。 石神が思いを寄せる隣の母娘のために、石神が仕掛けた恐るべきトリックの正体とは?

ガリレオシリーズというと、超常現象としか思えないような事件が起きて、 それを草薙が湯川に相談して、そこに使われた科学トリックを解明する、というのが基本の流れです。 しかし今回の事件に関しては、表面的には何も不思議なことはなく、 状況から怪しい容疑者は浮かび上がるものの、決定的な証拠が掴めないまま…という感じで進行していきます。 しかしその裏で仕掛けられたトリックは、まさに前代未聞というか、 そこまでするか、というような大掛かりなもので、なるほど警察なら騙せるかもな、 と思わせるものでした。

ちなみに↑で使ってる「χ」は実はギリシャ文字のカイなんですが、 どうも「x」だと未知数エックスの雰囲気が出ないんで敢えてこっちを使ってます。

(2008.08.12)


パズル自由自在 千葉千波の事件日記/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

千葉千波の事件日記シリーズ第4弾。相変わらず途中に挟まる、本筋とは全く関係の無い論理パズルが楽しいシリーズです。

浪人生である「ぴいくん」こと主人公も、センター試験も終わっていよいよ受験のようです。 次の作品では大学生になっているのか、はたまた浪人続行なのか…。

しかしぴいくんの本名についても随分と引っ張りますね。 今巻は特にヒントが多かったようにも思いましたが。 猫の「たま」が「たまげ」と呼ばれるようになったとか。 まあこれも楽しみにしておきましょう。

(2008.08.03)


踊る夜光怪人 名探偵夢水清志郎事件ノート/はやみねかおる (講談社文庫)

★★★  

名探偵夢水清志郎事件ノートシリーズ第5弾。今回は秘宝が隠された暗号を解く、 というこれまたミステリでは定番のネタ。

亜衣の彼氏(?)レーチも大活躍して、そこら辺も見所でしょうか。 代わりに妹達の出番は少な目ですが。

(2008.07.27)


τになるまで待って/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Gシリーズ第3弾。山奥に立つ館。嵐の中、外に通じる扉が閉ざされ、携帯電話も通じない中、 館の主である超能力者は、完全なる密室の中で殺された。果たして?

到着して5分で真相を見抜く犀川先生。もう少し空気読んでよ〜(笑)。 しかし今回のトリックはかなり身も蓋もない感じですなあ。 まあ伏線は張られているわけだから文句は言えませんが。

しかし結局ラジオドラマ「τになるまで待って」は何だったんだろうとか、 犯人は結局誰だったんだろうとか、色々と投げっぱなしの伏線も多い巻でした。 シリーズに渡る伏線だということでしょうかね。 探偵・赤柳の正体も気になります。

(2008.07.24)


追憶のかけら/貫井徳郎 (文春文庫)

★★★☆ 

よりにもよって愛妻との喧嘩中に事故で愛妻を失い、 失意の中にある国文学者で大学講師の松嶋。 そんな折、戦後に自殺した作家の未発表手記を入手する。 作家の自殺の真相を究明しようと調査を開始するが、そこには何者かの悪意が横たわっていた…。

「物故作家の未発表手記」が作中作として登場しますが、 作中作の作者と主人公の境遇の対比が目を惹くものの、 貫井さんにしては珍しくそんなにトリッキーな仕掛けは施されていません。 しかし展開は二転三転。途中、「いくら何でもそれはないだろう」と思うこともありましたが、 最後は全ての伏線が綺麗に収束して、納得のできる結末が待っていました。 なかなかに分厚い作品ですが、読んだ後の充実感は保証できます。

(2008.07.18)


ハートブレイク・レストラン/松尾由美 (光文社文庫)

★★★☆ 

いまいちはやっていないファミレスで原稿を書くフリーライターの真以。 そんなファミレスの窓際の席に座っている品のいいおばあちゃん。 彼女は、「不思議な話」を聞くと、たちどころに謎を解いて見せる名探偵だった。

いわゆる「日常の謎」系の連作短編。何と言っても探偵役がユニーク。 おばあちゃんというだけでなく…。さらに連作短編としての仕掛けも施されていて、 主人公の成長と恋模様を見ることができるのも面白いところです。

(2008.07.13)


ヒミコの夏/鯨統一郎 (PHP文庫)

★★★☆ 

味も良く、病気や害虫、雑草にも強いという新種の米「ヒミコ」が、 日本で急速にシェアを伸ばしていた。 一方、有機農法を取材していた永田祐介は、 田んぼの中に立っていた、記憶を失くした少女・穂波と出会う。 彼女は言った。「ヒミコが日本を滅ぼす」と。

なんとびっくりの農業ミステリ。「日本農業新聞」上で連載していたようです。 しかし中身はなかなか正当なミステリになってます。 ハッピーエンドなところも良いですね。

(2008.07.08)


どきどきフェノメノン/森博嗣 (角川文庫)

★★★★ 

森博嗣初の恋愛小説?しかし主人公がD1の理系女子だったり、 と相変わらずの理系っぷり。しかもやってることはほとんどストーカー行為だったり、 酒を飲むと完全に記憶がなくなってたり、とかなりブッ飛んだ性格。 思考もかなり暴走・発散気味で、自己ツッコミが「工学部・水柿助教授」シリーズのようです。

色んなカップルが登場しますが、中でも武蔵坊カップルは強烈だなあ。

(2008.07.08)


覗き小平次/京極夏彦 (角川文庫)

★★★  

嗤う伊右衛門に続く、怪談リメイクシリーズ。 といっても、こちらは原作を知らないので、「嗤う伊右衛門」のようには楽しめなかったのが残念。

しかし単体でもそれなりに面白かったですし、また「事触れの治平」が出てきたりと、 「巷説 百物語」シリーズの番外編というような位置付けでもあるようです。

(2008.07.08)


空の中/有川浩 (角川文庫)

★★★★☆

「塩の街」に続く、自衛隊三部作第2弾。

YS11以来の民間航空機開発プロジェクトとして大きな期待を背負っていた試作機「スワローテイル」。 しかし試験飛行で高度20000mに差し掛かったところで爆発した。 さらに1ヶ月後、同じ海域で自衛隊のF15Jが演習中、やはり高度20000mで爆発した。 果たして高度20000mの空の中に何が潜んでいるのか?

有川浩=SF×自衛隊×ラブコメ?

「塩の街」と本作と、アニメ「図書館戦争」しか見ていない私が言うのもなんですが、 共通項を括り出すと上みたいな式になるのかな、と。

「塩の街」がラノベ(電撃文庫)だったので、この厚さにはちょっとビビりました。 さらにこんなにど真ん中のSFだとも思ってなかったので(「塩の街」はまごうことなきSFだったのにも関わらず)、 二度びっくり。

自衛隊パイロットと航空会社の調査官、そして高校生の幼馴染み、 という2組の主人公が登場します。ツンデレに幼馴染み、ベタベタなラブコメですが、 嫌いじゃないです。 作者が「大人のラノベを目指した」と言っている通り、 SFとラブコメが高次元で融合していると思いました。

というわけで、ラブコメが嫌いじゃなくて、SF好きならばオススメできます。

(2008.07.01)


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