推理小説の部屋

ひとこと書評


茨姫はたたかう/近藤史恵 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

整体師・合田力が探偵役のシリーズ第2弾。「カナリヤは眠れない」の続編。 文庫書き下ろしです。

反りの合わない隣人と、ストーカーに悩まされる今作の主人公のパートと、 前回からのシリーズキャラクターである雑誌編集のパートとが、 交互に描かれ、やがてその両パートが交わっていきます。 主人公の成長ぶりが鮮やか。

シリーズキャラクターの成長も描かれていて、続きが楽しみなシリーズです。 ただ、この祥伝社文庫って、なかなか見つからないんだよね…

(2000.10.17)


修羅の終わり/貫井徳郎 (講談社文庫)

★★☆  

積読も大分残り少なくなってきた今日この頃。 新鋭叙述トリックの旗手・貫井徳郎氏の作品です。

「慟哭」ではかなり驚かされたので、 今回も期待して読んでみました。前回は「犯人」側と「警察」側の、 2つの視点が交互に現れる趣向でしたが、 今回は3つの物語が並行して進んでいきます。 第一の物語と第二の物語は、明らかに時代が異なることがわかるのですが、 無関係に見える第三の物語は、果たしてどちらと絡むのか…。

趣向は面白かったのですが、ラストがいまいち納得できず。 解説を読んで初めてわかったものの、どうも釈然とせず。 本文中の「伏線」もそんなの気づくかよ〜、ってレベルですし。

叙述トリックで騙されるのは嫌いじゃないんですが、 それも最後に驚愕の真相が明かされてこそ、であって、 こういう中途半端な「真相」だと納得のいかなさだけが残りますね。

貫井氏には期待しているので、次は鮮やかに騙していただきたいものです。

(2000.09.29)


同級生/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★☆ 

「狂骨」の後だったから、早かった(笑)。1日で読み終わりました。 東野圭吾さんの初期の「学園もの」です。

ある同級生の死と、それをめぐる疑惑。そして教師の死。 事件を隠そうとする学校側に対し、 容疑をかけられながらも独自に調査を進めていく主人公。 尖って、わけもなく大人に反発する、 そんな高校生ならではの不安定な心がよく描かれています。

しかし本当に東野さんって教師が嫌いなんですね〜、ということがよくわかりました(笑)。 この作品に出てくるのも、ろくな教師いないし。

(2000.09.24)


文庫版 狂骨の夢/京極夏彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

京極夏彦の3作目。ますます分厚さに磨きがかかってます。

今回は髑髏に絡む複数の事件、そして「夢」の解釈がポイントになります。 一見無関係に見える複数の事件、そして偶然としか思えない符合が、 京極堂の「憑き物落とし」によって見事に解体されていきます。

相変わらず膨大な量の薀蓄が語られますが、今回はそれほど長さを感じませんでした。 単に慣れてきただけかもしれませんが。

章によって視点が変わるのが面白いですね。しかも効果的に使われています。 しかし榎木津は、何かひたすら変な奴になってますね。 もはや「霊能力」もあまり使われていないようだし。

次の「鉄鼠の檻」は2001年の9月だそうです。

(2000.09.24)


猿の証言/北川歩実 (新潮文庫)

★★★  

覆面作家・北川歩実氏の作品。 人間とチンパンジーの境目はどこか? 哲学や倫理の問題とも深遠なテーマに挑戦した(?)作品です。

途中の、言語は本能か、とか視覚の形成される話とか、 そういう最先端の脳の科学の研究成果に関する話は、 とても興味深く読みました。

しかし全体としてみると、どうも長すぎるというか、間延びした感じが否めません。 最後の真相はそれなりに衝撃的だったので、もうちょっと見せ方があるんじゃないか、 という感じがするんですが。あと、登場人物が揃いも揃って、 感情移入できないタイプなのも辛い。 どうも北川氏の作品全般に言える傾向のようですが。

(2000.09.17)


あして天気にしておくれ/岡嶋二人 (講談社文庫)

★★★☆ 

岡嶋二人の、実質的なデビュー作品。やはり競馬絡みです。 しかも前代未聞の、競走馬の誘拐事件。

3億2千万もの破格の値段のついた競走馬をめぐるさまざまな思惑。 最初は倒叙ものとして始まります。 しかし途中から予期せぬ方向へと事態は転がり…。

面白かったです。誘拐事件では、身代金の受け渡しがポイントとなりますが、 なるほど、こういう方法もあるのか、と感心しました。

(2000.09.12)


夏への扉/ロバート=A=ハインライン (ハヤカワSF文庫)

★★★★ 

たまにはSFでも。というわけで、定番の名作SFを読んでみました。

『リプレイ』ノススメで、 皆様から薦めていただいたこともあったので、時間旅行ものだということはわかっていたのですが、 コールドスリープによる未来への移動だけならば厳密には時間跳躍ではないようなあ… と思っていたのですが、なるほどひとひねりしてありますね。

とにかくめげない主人公。 とにかく、アイデアさえあれば人生どうにかなるという、 技術者にとっては励みになる話です(笑)。

しかし執筆当時は遥か彼方であっただろう2000年が、 いまや現代という事実に改めてミレニアムを実感(謎)。 っつーか、過去になる前に読めてよかった、というところか。

基本的に時間跳躍物の好きな私としては、かなり楽しめました。

(2000.09.04)


鳩笛草/宮部みゆき (光文社文庫)

★★★☆ 

宮部みゆきと言えば、「魔術はささやく」「龍は眠る」などでもわかる通り、 「超能力」を題材にした小説を多く書く作家です。 この作品もやはり「超能力」を題材にした中篇3作を収録。 主人公は皆「超能力」を持った女性。しかもそれぞれの悩みを抱えています。 予知能力、発火能力(パイロキネシス)、リーディング。 「超能力」を持ってしまったが故の苦悩が描かれていて、 どの作品も普通の超能力ものとは一味違う作品になってます。 お薦め。

(2000.08.31)


日曜の夜は出たくない/倉知淳 (創元推理文庫)

★★★  

倉知淳氏の第一短編集。 神出鬼没の「猫丸先輩」が突如現れ、事件を解決します。 物語の視点も、猫丸先輩の関わり方も、実にバラバラ。 3人称だったり、1人称だったり。 それらの「バラバラ感」は実はワザとだったことが、 最後のおまけの2章で明らかになるのですが…。 いくら何でもこれは無茶だろう…と思いました。

(2000.08.31)


ディプロトドンティア・マクロプス/我孫子武丸 (講談社文庫)

★★★  

売れない私立探偵の元に、2件の依頼が舞い込む。 行方不明になった父を探して欲しい、 そして行方不明になったカンガルーを探して欲しい。 だが、事件は思わぬ展開を見せ…。

出だしはハードボイルド。「腐蝕の街」といい、 我孫子さんはこういう路線に進んでいくのかなあ、と思っていました。 しかし後半は……。 あまりに予想の範疇を越えた展開に唖然。 いや、まさかこういう作品だとは思わなかったので、ちょっとびっくり。 未読の方で、興味ある方は是非、 人の感想文なんか読んでないで(笑)、読んでみたらいかがでしょうか。

(2000.08.31)


占い師はお昼寝中/倉知淳

★★★☆ 

インチキ霊感占い師が探偵役、という珍しい連作短編集。 主人公はぐうたらな中年男。山伏のような怪しいカッコをし、 一応占い師の看板は出しているが、 本人にはほとんどやる気はなし。 お客さんに対してはハッタリと適当なご神託を並べ、 お客さんを煙に巻く。 しかし、言っていることはデタラメだが、 わずかなやり取りから真実を見抜き、 正しい解決策を示している…という趣向です。 面白いです。

まだ「猫丸先輩」とやらの作品を読んでないので、是非読んでみようと思ってます。

ここのところ短編集ばかり読んでたので、次は久しぶりに長編を読む予定。

(2000.08.24)


石ノ目/乙一 (集英社)

★★★  

「夏の花火と私の死体」で「死体の一人称」という珍しい文体を引っさげ、 十代で戦慄のデビューを果たしたホラー作家・乙一氏。 氏の最新短編集です。

4作品収録。オーソドックスなホラー。 ホラーというか、ちょっとSFっぽい感じです。あんまり怖くないし。 全体的に何とも味がある作品に仕上がってます。 どれも最後はそれなりにじんとさせるエンディングです。

しかし「Jump Novels」っていつの間にか休刊してたんですね。知らなかった。

(2000.08.20)


魔法飛行/加納朋子 (創元推理文庫)

★★★★ 

第一作目「ななつのこ」の続編です。

駒子と瀬尾さんの間のやり取りがメインとなります。 駒子が自分の周りで起きた出来事を小説風に書いたものを瀬尾さんに読んでもらう。 瀬尾さんはそこから見事に謎を解明する、というスタイルは前作と同じ。 前作は作中作「ななつのこ」と、それになぞらえた駒子の体験、という二重構造でしたが、 今回はシンプルな一重構造です。

ですが、前作よりパワーダウンしてるかというとそんなことはありません。 今回の「仕掛け」は、章と章の間に挟まった「誰かから届いた手紙」。 瀬尾さんにしか見せていないはずの駒子の「小説」を読んだとしか思えない内容の手紙が、 どこからか届きます。そしてこの謎が最終章へ。 それぞれの章に張り巡らされた伏線が絡み合い、連作短編ならではの見事な解決を見せます。 うーん、これはすごい。

(2000.08.19)


メルカトルと美袋のための殺人/麻耶雄嵩 (講談社文庫)

★★★  

麻耶雄嵩の第一作「翼ある闇」が「最後の事件」となった、 銘探偵・メルカトル鮎の、生前を偲ぶ(笑)短編集。 ワトソン役に、小説家の美袋三条を迎えてます。

この美袋君のいじめられっぷりというか、 メルカトルの性格の悪さというか、がたっぷりと見られます。 いやあ、ホントいい性格しとるわ。 そりゃ殺されもするっちゅうねん。

美袋君の「いつか殺してやる」という野望が、 適わなかったのが残念と言えば残念。

(2000.08.16)


トップラン 第3話 身代金ローン/清流院流水 (幻冬舎文庫)

評価保留

2ヶ月に1冊のペースで文庫書き下ろしで進む「グリーンマイル」形式の3話目。 しかし2ヶ月って早いなあ、と実感させられますね。

ようやく話が動き始めた、という感じです。 今回は恋子の逆襲編、という感じかな? 今まで天使に振り回される一方だった恋子が、 天使に対して罠を仕掛けます。

しかし最後のはルール違反じゃないかなあ?と思うんですが。 一体次回どうなることやら。

(2000.08.13)


ガラスの麒麟/加納朋子 (講談社文庫)

★★★☆ 

同級生の間でカリスマ的存在だった美少女女子高生・安藤麻衣子の死をめぐる、 6本の短編からなる連作短編集。 10代・20代の不安定で壊れやすい心理を描いてます。

保険医である神野菜生子が探偵役、というのも変わっています。 探偵役でありながら、登場人物としても重要な鍵を握る人物です。

加納朋子さんの作品には作中作がよく使われます。 「ななつのこ」も「いちばん初めにあった海」もそうでした。 今作も安藤麻衣子の残した「ガラスの麒麟」を始めとした童話が、 物語の重要な鍵を握っています。

この中の一編、「ダックスフントの憂鬱」だけは、 アンソロジー「不条理な殺人」で読んだことがありました。 当時は、「なんで主人公の知り合いの女子高生の保険医の先生が解決するんだろう?」 と不思議に思ったものでしたが、なるほど連作の中の一編だったのですね。

(2000.08.10)


いちばん初めにあった海/加納朋子 (角川文庫)

★★★☆ 

表題作「いちばん初めにあった海」と「化石の樹」の中篇2篇が収められています。

癒しの物語、というんでしょうか? 心が洗われるような感じですね。 登場人物がみんないいんだよなあ。

作品全体に仕掛けられた仕掛け(?)にもびっくりさせられました。 でも同一人物には見えないんだけど…。

(2000.08.06)


續・日本殺人事件/山口雅也 (角川文庫)

★★★  

日本殺人事件の続編。 相撲をモチーフにした「巨人の国のガリヴァー」と、 禅をモチーフにした「実在の船」の中篇2篇が収められています。

相変わらずの倒錯した日本世界にクラクラ来ます。 しかし「実在の船」は…こういうのをメタミステリ、あるいはアンチミステリ、 というんでしょうか?こういうのは苦手なんですよね。 作中作、というモチーフ自体は大好きなんですけど(「迷路館の殺人」とか)。 今回も、「作中作」の「実在の船」が出てきたときにはとてもワクワクしたんですが…。

ところで「十三人目の探偵士」って文庫化されないんでしょうか?

(2000.08.06)


まどろみ消去/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

森博嗣氏、初の短編集の文庫化。

当然犀川&萌絵のシリーズの短編なのだろうと思っていたら、 期待は見事に裏切られました。萌絵たちが出てくるのは、 全11編中わずか2編だけ。 大学や研究者絡みの話は多いですが、それと関係のない話も数本。

全体を通して言えるのは、狂気や倒錯といったキーワード、かな? 短編ならではの一発ネタ、みたいな話も多いですね。

しかし固有名詞が変だよなあ。「スピカ」って…。

(2000.07.30)


日本殺人事件/山口雅也 (角川文庫)

★★★  

最近「續・日本殺人事件」が文庫化されたので、慌てて前作を探して購入 (なかなか見つかりませんでした)。

山口雅也氏の作品は、いつも独自のルールを持った世界を構築して、 その中で本格推理の論理を展開していく、というスタイルをとっています。 死者が蘇る世界での殺人事件を描いた「生ける屍の死」、 パラレル英国を舞台にした童謡殺人を描いた「キッド・ピストルズ」シリーズ。 この作品もそんな山口氏ならではのひねりが効いた作品になっています。

舞台は現代の日本。でもどこかおかしい。各家の前には鳥居があり、 侍が生きていて会社の要職についている。 俳句や茶道は義務教育の必修科目で、大学の学部になっているほど。 そんな、外国人の目に映る奇妙な日本観を強調したような、 妙な日本の中で起きる、奇妙なハラキリ事件、 茶室の密室、オイラン連続見立て殺人…。 どの作品も、わざわざこの奇妙な世界ならではのルールに支配されています。

しかし山口雅也氏、こういう「変化球」の本格じゃなくて、 バリバリの直球本格を書いたとしたら、 すごい本格が書けそうな気がするんですけど、書く気はないんですかね?

(2000.07.25)


「Y」の悲劇/有栖川有栖・篠田真由美・二階堂黎人・法月綸太郎 (講談社文庫)

★★★  

エラリー・クイーンの「Yの悲劇」に捧げる、4人の作家の競演。 しかも文庫書き下ろし!クイーン好きで文庫派の私にはたまらない一冊です。

しかも有栖川有栖・二階堂黎人・法月綸太郎の3人は、 クイーンと同じ「同名探偵」を受け継ぐ作家 (二階堂黎人・有栖川有栖は探偵ではなく記述者ですが)。 否が応にも期待は高まります。

有栖さんのは相変わらずの切れ味。ネタ的には一発ネタ、という感じですが、 それを膨らませてここまでに仕立て上げるのはさすが。 ダイイングメッセージ物も数多く書いてますが、 今回のはなかなか必然性もあって面白かったです。

篠田真由美さんの作品はこれが初めてでした。 まあ、そこそこかな。

二階堂黎人さんのは…うーん、メタ・ミステリというのか、 内輪ネタというのか。 せっかくクイーンをモチーフにした競作なんだから、 二階堂蘭子を出して欲しかったなあ、というのが正直なところ。

ノリリン。ああ、久々にノリリン(探偵の方)が見られたよ〜。 「法月綸太郎の新冒険」を未読の私には、本当に久しぶり。

しかしこうしてみるとやっぱりダイイングメッセージ物って難しいですね。 クイーンのも苦しいのが多いしなあ。

(2000.07.21)


ウェディング・ドレス/黒田研二 (講談社ノベルス)

★★★☆ 

うちの趣味のリンク集からもリンクしている、 くろけんのミステリ博物館の館長・くろけんさんが、 第16回メフィスト賞を受賞して小説家デビュー! おめでとうございます。

「キャラ立ちなし、薀蓄なし、洒落た会話も気の利いたジョークもなし。 全てが謎とトリックに奉仕する、体脂肪率0%の新本格」 という大森望さんの推薦文が示す通り、 懐かしき新本格、という感じがします。 小説自体のメイントリックは、 この手の作品を読み込んだ人ならば割と早目に気づいてしまうかも。 しかしもう一つのトリックで、最後まで興味を引き付けます。 いや、本当このトリックは凄いわ(笑)←なぜわらい?

(2000.07.06)


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