★★★
「我らが隣人の犯罪」に続く、宮部さんの第2短編集らしいです。
各短編に社会問題となるテーマが隠されてるようです。 ここら辺は「火車」などにも通じる部分のようです。
全体的に「おいおい、そこまでするか?」という感じがしてしまう事件(?) が多かったような気がします。 「我らが隣人の犯罪」の「サボテンの花」のような心に残る名作は、 残念ながら見つかりませんでした。
(1999.06.30)
★★★+★
うーん、すごい。
話自体も伏線張りまくりで面白いですが、 なんと言ってもこの本そのものにかけられたトリックに驚きました。 これはミステリのトリックというよりも、手品のトリックですね。 さすが、奇術師としての腕も一流だという泡坂妻夫さんです。
というわけで、その「仕掛け」に★ひとつプラスです。 絶対にバラさないぞ。
(1999.06.27)
★★★
太田忠司初読。太田忠司のデビュー作だそうです。 「僕」は事件の被害者であり、加害者であり、証言者であり、探偵であり、 トリックであり、記録者である、という「一人六役」という凝ったプロットになってます。
中学生の「僕」が失った記憶を取り戻すために、10年前の事件の真相を探ろうとするんですが、 一人称で書かれてることもあって、青春小説みたいな感じを受けます。 少々青臭いところもありますが、なかなかの佳作だと思います。
(1999.06.24)
評価なし
綾辻行人氏の、小説以外の文章(解説やエッセイなど)を全て集めた本。 この度文庫化されました。
解説の類はだいたい目を通していたので1/3くらいは読んだことのある文章でしたが、 それでもこうして時系列順に読んでみると、 「ああなるほど。この時期はこういうことで苦しんでたのか」 というのが改めてわかりますね。
でもこれが出版されて以降、長編が全く発表されてない…。 PSのゲーム・「YAKATA」こそ出ましたが…。 暗黒館はいつ出るんでしょうね。
(1999.06.20)
★★★
「理由」で直木賞を受賞した宮部みゆきさんの短編集。 個人的に「東野圭吾&宮部みゆき未読本消化キャンペーン中」につき、買ってきました。
宮部さんの短編集は時代物の「かまいたち」を除くと、 「我らが隣人の犯罪」(「サボテンの花」は名作です!)しか読んだことがなかったんですが、 こちらの「地下街の雨」は、それに比べると、 より人間の悪意が出てたり、ちょっとホラーっぽかったりする作品が集まってます。 悪意といっても若竹七海の「プレゼント」ほどではないですが。
この中ではやっぱり表題作の「地下街の雨」が一番よかったかなあ。
(1999.06.20)
★★★☆
不思議な宿命に操られたある二人の男。一人は医者に、一人は刑事に。 ある殺人事件を機に、二人は再会する。刑事と容疑者として。 果たして真相は?
東野圭吾さんが、それまでの「学園本格ミステリ」から方向性を変えようとしていた頃の作品だそうです。 「犯人は誰か、どういうトリックか−−−手品を駆使したそういう謎もいいけれど、 もっと別のタイプの意外性を想像したいと思いました」 そんな作者の言葉通り、この話においては真犯人やアリバイトリックなどは、 本当に脇役中の脇役、という立場に追いやられています。 それよりも、二人の間の「宿命」をめぐる謎に、 引き込まれていきます。うまいですね、やはり。
実は結構まだ東野圭吾さんの作品で未読のって残ってるんで、 そういう意味では楽しみです。
(1999.06.11)
★★★☆
中学生の息子が、全身痣だらけになって登校拒否をしているらしい。 そんな折、クラスメートの一人が謎の死を遂げる。 その裏には巨額な金の絡んだ「チョコレートゲーム」なるものが存在している? そして息子は同級生殺しの疑いをかけられて、自殺してしまう。 息子の無実を晴らすため、父親は一人で真相の解明に乗り出す。
よくできた作品だと思います。伏線の張り方も見事ですし。 しかしあまりにも切なすぎます。痛すぎます。 なんとも哀しい作品です。 一読の価値アリです。
(1999.06.06)
★★★
麻耶雄嵩の長編第4弾。「夏と冬の奏鳴曲」で痛い目にあったというのに、 読むのをやめませんね、私も(笑)。それだけ、気になる作家だということでしょう。
この作品は、それまでのメルカトル鮎−如月烏有シリーズとは独立した位置づけにあるようです。 主人公の如月烏兎こそ、烏有の弟という設定がほのめかされているものの、 特にそれまでのシリーズにある話が出てくるわけではなく、 この話だけで完結してます。 また、最後に意味不明な謎が提示されて終わるわけでもありません(笑)。 でも、なんかすっきりしないんですよね、やっぱり…。 それがこの人の作風なんだろう、とようやく気づいたわけですが…。 この人が書きたいのはミステリじゃないんじゃないだろうか、という気がしました。 なんかこの作品においても、密室殺人なんかどうでもいい、 っていう印象を受けるんですよね。 ミステリという体裁をとった、別のものが書きたいんじゃないかなあ。
ネーミングセンスは相変わらず変ですね。 主人公たちも烏兎(うと)に獅子丸に祐近(うこん)ですからね。 地名のサンダにガイラってのは笑いました。
それにしても、こんな生徒会のある高校はやだな…。
(1999.05.29)
★★★
「ロシア紅茶の謎(短編集)」「スウェーデン館の謎(長編)」に続く、 有栖&火村の「国名シリーズ」第3弾・短編集です (この後「英国庭園の謎(短編集)」「ペルシャ猫の謎(短編集)」 「マレー鉄道の謎(長編)」と続くようです)。
作品の方ですが、どうも「アイデア一発」ものが多くて、 ちょっと小説としての面白味には欠けるかな、という印象が強いですね。 確かに短編ってのはアイデア一発勝負な面がありますけど、 なんか露骨なんですよね。「ああ、このトリックを思いついたから、 この作品を書いたんだろうなあ」って感じで。
そんな中でも「人喰いの滝」は、そのトリックのあまりのバカバカしさに (誉め言葉です)感心してしまいました。 なんでも島田荘司の「奇想の復活」に寄せられた話だとか。 なるほどねえ。その場面を想像するとどうしても笑ってしまいます。
江神シリーズもそろそろ新作をお願いします
(1999.05.28)
★★★
直木賞作家・宮部みゆきさんの、長編デビュー作。 ずっと積ん読にしてあったものを、ようやく読了です。
完全試合をやってのけた高校野球界のスーパースターであるエースが、 全身にガソリンをかけられて焼き殺されるというショッキングな事件が起こった。 元警察犬のマサは、彼の弟と蓮見探偵事務所の面々と共に、 真相の解明に乗り出す…。
犬の一人称、という珍しい形で書かれた小説です。 「魔術はささやく」や「龍は眠る」でもそうですが、 宮部さんは少年を描くのがうまいですね。 この話でも進也君が実に生き生きと描かれてます。
デビュー作からして既に、 社会性のあるテーマを取り上げて、 それを核にしたサスペンス・ミステリを描く、 という女史の手法は確立されていたようですね。
(1999.05.22)
★★★☆
貴志祐介さん初読。「黒い家」ってのが例の和歌山保険金詐欺事件に似てる、 ってんで話題になってましたね。
主人公は目が覚めると火星(?)の砂漠の中にいた。 手元に残されたゲーム機の指示に従い、 血で血を争うサバイバルゲームが始まる…。
角川ホラー文庫では、過去に「パラサイトイヴ」「リング」「らせん」 を読みましたが、この作品はそのどれよりも怖かったです。 なんか得体の知れない化け物とかが出てこない分、 怖さが染みます。結局一番怖いのは人間なんですね。
オチはよくある感じで、ちょっと物足りませんでしたが、楽しめました。
(1999.05.14)
★★★
小野不由美さんの時代物系ミステリ(?)。 タイトルは「東京異聞」ではありません。 東京に良く似た、しかし明らかに異なるパラレルワールド「東亰(とうけい)」 を舞台とした世界です。 ちょうど時代は維新が終わって文明開化の波が押し寄せつつある明治。 通りには瓦斯灯などが普及し、妖怪や物の怪の類が過去のものとなりつつある中、 夜の闇の中には火炎魔人や闇御前といった魑魅魍魎が跋扈する… という設定です。
なかなか面白かったです。 妖怪などが活躍する怪奇物のような体裁ですが、 その実しっかりとしたミステリ的な解決が与えられます。 しかしミステリ的な決着を見せた物語は一転…。 知ってる人にはネタバレになってしまいますが、 カーの某作品を彷彿とさせましたね。
個人的には直さんのキャラが好きです。
(1999.05.09)
★★★★☆
「月光ゲーム」「孤島パズル」に続く、「学生アリスと江神二郎」シリーズの長編第三弾。 長らく文庫化が待望されていた作品ですが、ようやくの文庫化です。 いや、長かった。なんで創元ってこんなに文庫化されるまでが長いんでしょう。
で、私も文庫化を待ってたんですが、実は待ち切れなくて、 昨年図書館で単行本の方を読んだんですよね。 その時は2日間くらいで読んじゃってすぐに返した記憶があるんですが、 今回は伏線とかをじっくりと読もうと時間をかけて読みました。 それでもやっぱり最後の方は読むのをやめられなくなってしまいましたが…。
で、内容なんですが、本格好きにはたまらない一作です。 三回も「読者への挑戦」が挿入されていて、 それぞれがちゃんとロジックで解決していく様は見事です。 江神シリーズの方が、よりロジックを重視しているようで、好きですね。 まあ、本格好きでない人には大分割り引いてもらわないといけないかも知れませんが…。
単純にEMC(英都大学ミステリーサークル)の面々の掛け合いを見ているだけでも面白いんですけどね。 長編は全部で5部作になるようで、続編が楽しみです (でも文庫落ちになるのは相当先だろうな…)。
(1999.05.03)
★★★
シャーロック・ホームズのパロディやパスティシュは結構読んだことがありますが、 ほとんどが短編で、こんなにしっかりとした長編のパスティシュを読んだのは初めてです。
探偵業を“引退”後、サセックス州で養蜂を営んでいるホームズの元に、 主人公のメアリ・ラッセル(15歳の女の子)が弟子入りする、というストーリー。 推理よりもどちらかというと冒険活劇的な性質が強いストーリー展開です。 ホームズの周囲を狙う犯人の正体は…! 結構お約束ですが、楽しめます。
色々なところで“原典”の話題が散りばめてあるので、 原典好きにはたまらないかも知れません。 最近、続編が文庫化されたようです。
(1999.04.28)
★★★☆
五つの時計に続く、鮎川哲也氏の傑作短編集第2弾。やはり北村薫氏の編集です。
うん、これは面白かった! 相変わらずのアリバイトリックものも多いですが、 非常に面白い作品もありました。 やっぱり「誰の屍体か」は傑作ですね。これぞ本格。無駄がないです。 あと、読者への挑戦付きの「達也が嗤う」も面白かったです。 本格物の巨匠として君臨し続けているのがよくわかった気がします。
さて、これで短編週間も終わり。 ついに有栖川有栖氏の「双頭の悪魔」も文庫化されたし、読むのが楽しみ。
(1999.04.24)
★★☆
こちらはシュロック・ホームズの冒険の続編。 さすがにパロディもパターンが読めてくるとあれですが。 しかし英語でのダジャレが多く使われているので、 訳者も大変ですね。 フランスの名探偵・セプタンブル・デュパンなんてのも出てきて、 もう悪ノリも最高潮。
(1999.04.10)
★★★
今週は短編週間と勝手に自分で決定。 というわけで、犯罪カレンダーの続編です。 毎月のテーマに合わせた短編(というよりは中編)を集めたものなんですが、 日本ではあまりなじみのないイベントだったりもするので、 あんまり意味ないかも。 まあ、とにかく久しぶりのエラリーに出逢えて面白かったです。 12月の「クリスマスと人形」がクイーンには珍しい「怪盗物」で結構異色でしたが、好き。
(1999.04.10)
★★★★☆
貫井徳郎さんのデビュー作だそうです。 いや、他の作品を読んだことがないのでよく知らんのですが、 デビュー作とは思えない出来なことは確かです。
2つの場面を交互に切り替えて進んで行きます。 幼女誘拐殺人犯を追う警察側と、新興宗教にはまっていくある男と。 この2つが段々と交錯していき、最後には…。 いや、やられました。久々に気持ちよく騙されました。
「踊る大捜査線」ですっかり有名になった、警察内部のキャリアとノンキャリアの対立、 などもこれの単行本が書かれた93年の時点ではまだそれほど知られてなかったでしょうし、 オウム真理教も事件を起こす前ですよね。 そういう意味では、かなり先見の明のある題材選びだったのではないでしょうか。
(1999.04.04)
★★★★
「かまいたちの夜」の原作者として有名な我孫子武丸さんの、 近未来SFバイオレンスクライムノベルス。 純粋なミステリではないですが、面白かったです。 ミステリ的要素も十分にありましたし。
我孫子さんの考える未来観がよく出てました。 「ヘテロ」って言葉とか、 アナログレコードから高音域を重点的にサンプリングし直したCDとか、 そういう細かいネタが結構楽しめます。
キャラクターがいいですね。なんといってもシンバ。 片山もいい。
続編の「屍蝋の街」というのも出るようですね。 文庫に落ちるのは相当先でしょうが、楽しみに待ちたいと思います。
どうでもいいけど、この「双葉文庫」って、 コーナーができるほど本が出てないようで、 本屋で探すのがエラく大変でした。
(1999.04.02)