推理小説の部屋

ひとこと書評

深泥丘奇談／綾辻行人
JOJO'S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN／西尾維新×荒木飛呂彦
南極。／京極夏彦
技術経営の考え方 MOTと開発ベンチャーの現場から／出川通
零崎双識の人間試験／西尾維新
幕末時そば伝／鯨統一郎
燦(2)光の刃／あさのあつこ
名もなき毒／宮部みゆき
モップの魔女は呪文を知ってる／近藤史恵
腕貫探偵／西澤保彦
タイムスリップ戦国時代／鯨統一郎
Another (上)(下)／綾辻行人
おいち不思議がたり／あさのあつこ
銀河不動産の超越／森博嗣
saku saku オフィシャルブック2
究極のドグマ瑞穂沙羅華の課外活動／機本伸司
空の境界未来福音／奈須きのこ
嫉妬事件／乾くるみ
乱反射／貫井徳郎
有栖川有栖の鉄道ミステリー旅／有栖川有栖
顔のない敵／石持浅海
放課後探偵団／相沢沙呼・市井豊・鵜林伸也・梓崎優・似鳥鶏
モダンタイムス(上)(下)／伊坂幸太郎
殺す／西澤保彦
工学部・水柿助教授の解脱／森博嗣
不連続の世界／恩田陸
少年少女飛行倶楽部／加納朋子
ガリレオの苦悩／東野圭吾
鷺と雪／北村薫
おまえさん(上)(下)／宮部みゆき

深泥丘奇談／綾辻行人 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

★★★☆　

綾辻行人の新しい「怪談」シリーズ。架空の京都を舞台に、推理作家がめぐり合う「超常」と「怪異」。眩暈と共に薄らいでいく記憶。そこには確かに恐ろしいものがあった――ような気がした。

系統としては「眼球奇譚」や「フリークス」に属する短編集。例によって咲谷由伊も出てきますし。連作短編になっており、各短編ごとにちゃんとオチがつくんですが、そのオチがあくまで「あっち側の論理」の中でオチている、というのがポイントでしょうか。本格や落語のような形式を取りつつも、幻想譚としての体裁を失っていません。「――ような気がする」に代表される、語り手の主観の曖昧さが、連作短編としての体裁を可能たらしめている部分もありますね。

(2011.12.28)

JOJO'S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN／西尾維新×荒木飛呂彦 (集英社)

★★★　　

上遠野浩平、西尾維新、舞城王太郎、と3連続で続くジョジョ小説〝VS JOJO”シリーズの第2弾。主役はDIO。第6部ストーンオーシャンで、プッチ神父が承太郎の記憶のディスクから復元して読んだという、 DIOが記したノート「天国へ行く方法」を復元した、という体の小説です。

基本、第3部のリアルタイムな報告と、第1部の回想と、第6部に繋がる伏線と、という形の構成。しかしこれ、西尾維新の創作って言えるのかなあ？第1部、第3部、第6部を再構成しただけ、という感じもします。まあ、矛盾点?に対する辻褄合わせの独自解釈はあちこちに加えられてはいますが。たとえばDIOが「隠者の紫」を使ったことに対して、「ザ・ワールドはDIOのスタンド、隠者の紫はジョナサンの肉体のスタンド」といった具合に。

ちゃんとした西尾維新流の「創作のJOJO」を読みたかったなあ、というのが正直なところです。

(2011.12.23)

南極。／京極夏彦 (集英社文庫)

★★★　　

四流小説家・南極夏彦を中心としたパロディギャグ連作短編集。京極夏彦はギャグ短編でも分厚い!!

「新宿鮫」→「宍道湖鮫」、「デスノート」→「ガスノート」、「探偵ガリレオ」→「探偵がリレーを…」など、ほとんどタイトルを駄洒落でパロって、後はそのシチュエーションに逢うように無理矢理超常現象を絡ませて、最後にオチをつけるという構成で、元の話自体をパロっているわけではないです。さらに、こち亀とのコラボ小説と、赤塚ワールドとのコラボ小説も収録。

ほとんど妖怪やら物体やらの扱いを受けている南極夏彦本人はともかくとして、作中で一番可哀想な扱いを受けているのは、椎塚編集長からも、その天敵の評論家・北極星ヒカルからも、オカルトライター崩れのカス作家扱いされている自称冒険小説家・赤垣廉太郎なんではなかろうか、と思いました。特に10年後の扱いが酷い。

単行本は「南極(人)」、新書版は「南極(廉)」、そして文庫版は「南極。」、となっているようです。やはり句点は最終版の証か。

(2011.12.23)

技術経営の考え方 MOTと開発ベンチャーの現場から／出川通 (光文社新書)

技術をいかに「製品」にし、「売れる商品」にし、「産業」へと繋げていくか。「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」、超えるべきフェーズによって、異なる研究・開発の意識と、マネジメントの意識と、両方が不可欠である、と説く。筆者の実体験から語られる、実践的でわかりやすいMOTの解説書。

なかなか耳の痛いアドバイスも多かったですが、わかりやすかったです。

(2011.12.21)

零崎双識の人間試験／西尾維新 (講談社文庫)

★★★　　

「人間失格」零崎人識の属する零崎一賊。その真実が語られる「人間シリーズ」第1弾。「自殺志願(マインドレンデル)」と呼ばれる奇妙な大型の鋏を凶器とし、自身もそのコードネームで呼ばれる零崎一賊の長兄をフィーチャー。

零崎は、血族とか、子供の時からの教育で作られたとかではなく、ただ「殺人鬼」である存在。いつも何かから逃げ続けていたが、それでも普通の女子高生だった赤いニット帽の少女・無桐伊織は、ある日カッターナイフで襲って来たクラスメートを一撃の元に返り討ちにしたことで、「零崎」に目覚めてしまった…。

一賊の中で一番有名な殺人鬼「寸鉄殺人(ペリルポイント)」、一賊史上最も多くの人間を殺した「愚神礼賛(シームレスバイアス)」、確固たる意志の下殺す相手の条件に限定をつけている「少女趣味(ボルトキープ)」。ここら辺が今後のシリーズには出てくるんでしょうか。

(2011.12.17)

幕末時そば伝／鯨統一郎 (実業之日本社文庫)

★★★　　

「落語」でおなじみ、熊さん八さんをはじめとする粗忽長屋の面々が、実は幕末の日本を動かしていた？連作短編。

モチーフが「落語」なので、オチはバレバレなわけですが、どうやってそのオチに持って行くのか、一種の倒叙物のような楽しみ方ができる作品です。粗忽長屋の面々の会話のバカバカしさと、幕府の裏で暗躍する者たちのシリアスさのギャップもいいですね。

(2011.12.15)

燦(2)光の刃／あさのあつこ (文春文庫)

★★★　　

江戸に移り、大名屋敷で数多くの使用人に囲まれ窮屈な生活を強いられる圭寿。圭寿は伊月に、書いた戯作を版元に持ち込んで欲しいと依頼する。一方、伊月の父・伊左衛門の元には、圭寿の命を狙う者がいる、という報せが…。

文庫書き下ろし、燦(1)風の刃の続編。前回感想で、「女性キャラは影が薄いのも相変わらずで、篠音は次巻以降出て来ないないんではなかろうか…。」と書いたんですが、ほぼ予想通り、燦の回想で10行程度の登場でした。

そして笑ったのが、圭寿の戯作に対する版元・須賀屋の評。「男は実に生き生きとしておりますのに、女はやや精彩に欠くところも気になります。魅力的な女主人公というのは、鷹丸さんが考えておられる以上に大切なものです。決して、女を添え物にしてはなりませんし、疎かに扱ってはいけません。」って、そのまんまあさのあつこさんの作品に重なる感じで、笑いました。

「No.6」のアニメを見てしまったからか、伊月が紫恩に、燦がネズミにしか見えない……。

(2011.12.11)

名もなき毒／宮部みゆき (文春文庫)

★★★☆　

今多コンツェルン会長の「婿」になった広報室所属の杉村三郎が、意に反して「探偵役」を務めるハメになる、誰か Somebodyに続くシリーズ第2弾。吉川英治文学賞受賞作。

首都圏近辺で相次ぐ「連続無差別毒殺事件」。一方、広報室「あおぞら」で雇っていたアルバイトの原田いずみは悪質な嘘を重ねるトラブルメーカーだった。杉村は、彼女の経歴詐称を調べるうちに、毒殺事件で祖父を亡くした女子高生と出逢う。 2つの関係ないと思われていた事件がやがて意外な展開を見せ…。

前作では、会長付きの運転手が自転車に轢き逃げされ、その犯人を捜すという展開で、あくまで杉村は「探偵」役に徹していましたが、今作は、杉村自身が事件に巻き込まれていて、「探偵」役であると共に「当事者」でもあるため、より緊迫感を増しています。

人の底知れない悪意を「毒」と表現し、周囲に染み出していく「毒」に翻弄されながら、ちゃんと最後に希望を見せて終わるので、読後感はいいですね。

(2011.12.11)

モップの魔女は呪文を知ってる／近藤史恵 (実業之日本社文庫)

★★★☆　

天使はモップを持って、モップの精は深夜に現れるに続く、「モップ」シリーズ第3弾。今回もキリコが様々な人の悩みを解決。

一方で「第二病棟の魔女」では、キリコ自身の悩みも打ち明けられたりして。探偵役が決して完全な人間なわけではない、というところを示していて、これまでにもましてなかなか味わい深い短編集になっていました。

(2011.12.07)

腕貫探偵／西澤保彦 (実業之日本社文庫)

★★★☆　

大学に、病院に、街角に、突然現れる謎の「市民サーヴィス課臨時出張所」、そこに座る腕貫をした年齢不詳の記憶に残らない男。誰も並んでいないのに「ご利用者氏名一覧表」に名前を記入させる「お役所仕事」から導かれる、恐るべき真相とは？

話を聞いただけで解決してしまうという「安楽椅子探偵」モノの一種ではありますが、結末までは語らず、ヒントを与えたところで「ハイ、次の方」といって突き放してしまい、あとは相談者の推理にかけるところが面白いですね。そして、結局最後まで探偵役の名前は明らかにならないままに終わりました……。

どうやら続編もあるようなので楽しみです（文庫落ちするのは何年後かわかりませんが）。

(2011.12.06)

タイムスリップ戦国時代／鯨統一郎 (講談社文庫)

★★★　　

タイムスリップシリーズ第5弾。うらら達が、戦国時代に飛んで、25世紀のマフィア組織〈むささきの光〉によって改変されようとする歴史を元通りにする。

今回は、うらら達が過去にタイムスリップするパターンですが、戦いを正史通りに進めるためにオーバーテクノロジーを伝授してしまうことにより、戦国時代に自動車やら、携帯電話やら、戦車やら、インターネットやらが普及してしまう、という荒唐無稽さが見所。バカバカしくも、一応歴史の勉強にもなって、面白かったです。

(2011.12.04)

Another (上)(下)／綾辻行人 (角川文庫)

★★★★☆

綾辻行人の新たなる代表作。夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、肺気胸による入院の為、5月になってからの登校を余儀なくされる。しかしようやく登校してきたクラスで彼が見たものは、何かに怯えるようなクラスメイトの姿と、彼らに存在を無視され続ける眼帯をつけた少女・ミサキメイだった。やがて、クラス委員長の桜木が凄惨な死を皮切りに、「ある」年の約束が「始まってしまった」。

面白かったです。基本、理不尽に死が襲いかかるホラーがベースなのですが、そこに「法則」が組み込まれていることにより、一種ロジカルな本格ミステリとしても成立しています。別の意味での「犯人」捜しの要素もありますし、例によっての大仕掛けも炸裂しています。綾辻さんの作風の柱である本格系とホラー系と幻想系が高次元で融合している感じですね。

来年、実写映画化、TVアニメ化など、複数のメディアミックス企画が進行中、らしいです。綾辻行人でメディアミックスというと、昔のトラウマが開く音が聞こえて来ないでもないのですが…。まあ、それはそれとして、期待しています。

(2011.12.01)

おいち不思議がたり／あさのあつこ (PHP文芸文庫)

★★★☆　

貧乏長屋に住む医者である父・松庵を支える十六になる娘・おいち。彼女には、助けを求める人の幻を見ることができる不思議な力があった。そんな彼女に伯母が持ってきた縁談話の相手は薬屋「鵜野屋」の若旦那・直介であった。しかし彼の影に「助けて」と助けを求める女の幻が。嫁に行く気は全く無いが、女の幻の正体を知るために、おいちは鵜野屋へと乗り込む…。

時代劇でありながら、人情物であり、ミステリであり、ちょっとホラーでもある、という贅沢な作品。真相自体は途中で予想がつく範疇ですが、そこに至るまでの人間模様が良く描かれてます。

(2011.11.27)

銀河不動産の超越／森博嗣 (講談社文庫)

★★★☆　

全力で生きているのに周りからは怠けているように見える無気力人間・高橋。周りから「あそこだけには就職するな」と言われていた下町の銀河不動産に就職。社長と先輩女性社員の佐賀さんと合計3人しかいない小さな不動産会社だったが、有閑マダムの間宮さんと、彼女から借りることになった一人で住むには大き過ぎる不思議な家との出会いが、彼の運命を変えていく…。

タイトルからしてSF？かと思ったのですが、そういうわけではありませんでした。人との出会いと繋がりがどんどん広がって行く現代のファンタジーという感じ。出てくる人物がみんなどこか一癖も二癖もある変わり者揃いなのは森さんらしいところですが、ほっこりさせるような展開とか、ちゃんと綺麗にオチてるところとかは、ある意味森さんの作品らしくなくて、森作品に免疫の無い一般の人にもお勧めできます。

(2011.11.23)

saku saku オフィシャルブック2 (太田出版)

★★★　　

tvkローカルな音楽情報バラエティ「saku saku」のオフィシャルブック第2弾。サブカル雑誌「コンティニュー」、その後継「Otome continue」、およびWebマガジン「ぽこぽこ」と引き継いだ連載をまとめ、その他コラムや写真を追加した一冊。

番組内ではチラッとしか触れられていなかった富士急ハイランド（およびギフちゃんの醜態）など、細かくわかって面白かったです。

しかし連載掲載媒体が次々と変わって行くあたり、なかなか厳しいですね。

(2011.11.20)

究極のドグマ瑞穂沙羅華の課外活動／機本伸司 (ハルキ文庫)

★★★　　

パズルの軌跡に続く、神様のパズルの続編第二弾。ツンデレ天才女子高生・穂瑞沙羅華、今度はゼウレトから、逃げ出した遺伝子操作された猫を捕まえて欲しい、という依頼が。量子コンピュータを駆使して出没場所を予測するものの、そう簡単には捕まらず…。

今度は「生命の真理」に迫ろうとします。しかしその追及は、沙羅華のアイデンティティを追及することにもなりかねず…。

綿さんの空回りっぷりは相変わらずですが、それでも少しずつデレ成分が増えている…のか？

(2011.11.19)

空の境界未来福音／奈須きのこ (星海社文庫)

★★★　　

「空の境界」シリーズの唯一にして正統なる継承作品として発表された伝説の同人作品が、文庫化。

テーマは「未来視」。未来を見てしまう少女・瀬尾静音と出逢った黒桐幹也と、未来が見える連続爆弾魔・倉密メルカと出逢った両儀式。果たして「未来」は変えられるのか？

本編読んだのが大分昔だったので、かなり忘れかけていたんですが、そういや式の力って、いきなり「死」を与えるとかいう超チート能力だったなあ、と読みながら思い出しました。

本編「未来福音」の後に収録された「未来福音序」は、そのタイトルに反して、随分先の話を書いていて、これはこれで興味深かったです。

(2011.11.16)

嫉妬事件／乾くるみ (文春文庫)

★★★　　

京大ミステリ研に伝わる「ある日部員が部室に行ったら、本棚の上にウ○○が置かれていた」という、本当かどうだかわからない伝承を元に創作された作品。

事件の内容はくだらないのですが、さすがミステリ研メンバが議論するだけあり、様々な仮説・可能性が検討されては、消されていき、といった、推理合戦を楽しむことができます。

しかし真相は、多分ほとんどの人が引くと思います……。まあ、これも乾先生の持ち味なんだけどねー。

ボーナストラックとして、作中のメンバ・翔子が創作した犯人当てミステリ（読者への挑戦付き）、「三つの質疑」を収録。いかにもアマチュアっぽい感じが良くできています。

(2011.11.12)

乱反射／貫井徳郎 (朝日文庫)

★★★☆　

地方都市の住む幼児が巻き込まれたある不幸な事故。しかしその死は単なる事故ではなく、多数の人々の小さな「罪」の連鎖の結果だった……。第63回日本推理作家協会賞受賞作。

冒頭で、登場人物のほとんどが〝犯人”であることが示されます。 -44章からスタートして、「事件」が発生する0章まで、ジワジワと丁寧に描かれていく小さな「罪」の数々。誰が悪い、と完全に言えないモヤモヤ感が最後まで残ります。

色々と考えさせられる作品でした。

(2011.11.10)

有栖川有栖の鉄道ミステリー旅／有栖川有栖 (光文社文庫)

★★★　　

「乗りテツ」である作者が、自身の鉄道体験と、鉄道ミステリーに関する想いを綴ったエッセイ集。

鉄道とミステリー、確かに「密室」（途中で乗車／降車できない）と「アリバイ」（正確なダイヤグラム）の2大ミステリ要素を満たしているような気はするので、相性はいいのかも知れません。

大学4年まで特に意識していなかったのに、そこで出会った1冊の本がきっかけで、「乗りテツ」へと開眼してしまった作者の遍歴が赤裸々に語られています。

(2011.11.03)

顔のない敵／石持浅海 (光文社文庫)

★★★　　

「対人地雷」をテーマにした連作短編6編を含む、異色の短編集。さらに1編、初活字短編を収録。

「対人地雷」という、日本人にはあまりなじみの無いテーマを、除去するNGO、作る企業、実態を探るジャーナリスト、被害を受けた青年、といった様々な側面から掘り下げてます。また、直接的に探偵役が決まっているというのではないのですが、いくつかの短編で共通の人物を配することで、世界観に厚みを持たせています。著者のこだわりが感じられる短編集でした。

(2011.11.01)

放課後探偵団／相沢沙呼・市井豊・鵜林伸也・梓崎優・似鳥鶏 (創元推理文庫)

★★★☆　

1980年代生まれのデビュー仕立てあるいはデビュー準備中の若手作家5人を起用した、「学園物」アンソロジー。殺人事件は出てこなくて、ダビングを頼んだVHSのテープが何者かによってすり替えられていたり、 100球あるはずの野球のボールが99球しか見つからなかったり、バレンタインのチョコが教卓の上に集められていたり、自主製作映画の鑑賞中に女の子がワインを掛けられて帰ってしまったり、卒業式の放送室がジャックされて流れるはずじゃなかったCDが流されたり、といった小さな謎を解決していきます。

シリーズ物の1エピソード、という形で収録されている者も多いので、文庫化された折には是非見てみようかな、と思わせる、「先行シングルカット」のような役割も兼ねたアンソロジーでした。

(2011.10.30)

モダンタイムス(上)(下)／伊坂幸太郎 (講談社文庫)

★★★★　

「魔王」の50年後、犬養が首相となり導入された徴兵制が導入された、21世紀後半の日本。恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海は、失踪した先輩SEの後を引き継いで、ある出会い系サイトの仕様変更の仕事を請け負った。しかしそのプログラムはただのプログラムではなく、ところどころが暗号化されており、特定の検索ワードに反応して別のサイトへと誘導する機能がついているようだった。そんな特定のキーワードで検索した同僚、上司を次々と不幸が襲う…。果たしてキーワードに秘められた秘密とは？

テーマは「システム」。所詮人々は大きなシステムを構成する部品に過ぎないのか？そして表面的に見えている真実は真実とは限らない、ということ。

嫉妬深く秘密だらけで最強過ぎる妻、拷問専門の男、など登場キャラも個性豊かです。「魔王」の安藤潤也や犬養がその後どうなったのかもわかりますし、所詮彼らもパーツに過ぎなかったのか、と感慨深いものがあります。

(2011.10.30)

殺す／西澤保彦 (幻冬舎文庫)

★★★　　

単行本時は「猟死の果て」というタイトルだったものを文庫化に当たり改題。

女子高生の連続殺人事件が発生。全裸にされ、性的暴行の痕跡は無く、靴下が持ち去られるという、彼女たちの共通点は、同じ女子高の3年生というだけ？一方、そんな彼女たちの死にざまを見て「幸せなのかな、この方が」と呟いた問題刑事・光門は、同僚刑事を狙った異常な行動をとり始める…。

西澤さん得意のフェティシズムが散りばめられた、とにかく異常な人たちしか出てこない話。作中の誰にもほぼ一切感情移入できない状態で進んでいきます。真相は明かされてみればそれなりに納得は行くのですが、それにしても他の方法もあっただろうに、と思ってしまいますね。

城田理会警視のシリーズは続くらしいです。

(2011.10.22)

工学部・水柿助教授の解脱／森博嗣 (幻冬舎文庫)

★★★　　

森博嗣先生自身をモデルにした？と思われる半エッセイ自叙伝的フィクション「工学部・水柿助教授」シリーズ、第3弾にして完結編。

これまでにも増して脱線が多いです。

そして引退宣言。確かに最近著作のペースが落ちているとは思ってましたが、本人も引退するつもりのようですね。ZシリーズやらM&Sシリーズやら、最近完結するシリーズ物が多いのも、身辺整理ということでしょうか。

「解脱」って「Nirvana」なんだ……なるほど。

(2011.10.20)

不連続の世界／恩田陸 (幻冬舎文庫)

★★★　　

「月の裏側」に登場した飄々としたキャラ・塚崎多聞をフィーチャーした短編集。

ちょっと不思議な現象に遭遇して、多聞がそれに対するそれなりに理屈の通った解釈を思いつくんですが、それでもやっぱりまだ不思議なことがちょっぴり残っている、そんな感じの短編が収録されています。

そしてどんな事件に対しても中立というか、あまり踏み込まないで飄々とした感じの多聞自身が、最後の「夜明けのガスパール」では「中心」に引きずり出される展開も意外で楽しめました。

(2011.10.14)

少年少女飛行倶楽部／加納朋子 (文春文庫)

★★★★　

中学に入った海月(みづき)が幼馴染の樹絵里に誘われて入部したのは、変人部長・神ことカミサマと野球部兼任の海星の2人しかいない、部活として成立していない「飛行クラブ」だった。部活に必要な5人の部員を確保するために、部費も出ない状況で「空を飛ぶ」ために、海月は奔走する。

加納朋子さんの青春小説。無茶な「空を飛ぶ」条件から入り、部員集め、資金集め、友情、家族愛、恋模様、と色々と詰まっています。、周りのキャラクターも変人揃いで、それでいて表面だけではわからない曲者揃い。いつの間にか海月を中心に進んでいくところがいいですね。一気に読んでしまいました。面白かったです。

(2011.10.13)

ガリレオの苦悩／東野圭吾 (文春文庫)

★★★☆　

「ガリレオ」シリーズ第4弾（短編集は第3弾）。

女刑事・内海薫が登場していたのにびっくり。ドラマで柴咲コウがやっていた役ですよね。初出が2006年9月号で、ドラマが2007年秋だったので微妙なタイミングではありますが、ドラマ化に当たって追加されたキャラクターを、原作の方に逆輸入したということでしょうか。結構珍しいケースなのでは？

そして、聞き役が薫になったことで、湯川とのやり取りが軽妙になって、テンポが良くなったような気がします。

薫と湯川のファーストコンタクト「落下る(おちる)」、湯川の恩師の離れで起きた放火殺人のカラクリは？「操縦る(あやつる)」、旧友のペンションで起きた密室事件の真相は？「密室る(とじる)」、少女がダウジングで見つけた物とは？「指標す(しめす)」、湯川を指名して挑戦してきたきた予告殺人の意図とは？「攪乱す(みだす)」、の5編を収録。

「指標す(しめす)」は書き下ろしのようですが、設定が「容疑者χの献身」の母娘と似ているのが気になりました。同じプロットから派生したアナザーストーリー、なんでしょうか？

(2011.10.11)

鷺と雪／北村薫 (文春文庫)

★★★☆　

「ベッキーさん」シリーズ、完結編。この作品で第141回直木賞受賞作。

華族のお嬢様の浮世離れした世界と、底辺を彷徨う世界、そして軍人の世界、とあまりに異なる世界を見るベッキーさんと私。淡い恋模様など飲み込んでしまうような世界のうねりを感じさせる結末が何とも切ないですね。

(2011.10.09)

おまえさん(上)(下)／宮部みゆき (講談社文庫)

★★★☆　

「ぼんくら」「日暮らし」に続く、井筒平四郎シリーズ第3弾。

テーマは「恋」でしょうか。薬屋の主人と辻斬りを巡る連続殺人事件の影に隠された20年前の因縁。富くじで身を持ち崩した男と救われた女。剣の腕は抜群だが容姿に難があり女心のわからない同心の信之輔と厄介者の大叔父・源右衛門。「おでこ」こと三太郎の産みの母親と、女を「仕立て上げる」ことを道楽とする主人。さまざまな物語が進行して行きます。

上巻から下巻に掛け、計21章からなる長編「おまえさん」と、 100ページ程度の中編「残り柿」「転び神」「磯の鮑」「犬おどし」からなる構成。前作「ぼんくら」「日暮らし」が短編から入って、最後の長編に繋がる、という構成だったので、こちらが逆に長編があって、その後の後日談みたいな話を短編で語るのかと思っていたのですが、違っていました。全部で1つの長編を構成しています。後ろの中編も、そんなにキリがいいところで終わってなくて、むしろヒキが毎回凄いので、なんでわざわざ別タイトルになっているのかよくわかりませんでした。

さらに最後の初出一覧みたら、小説現代で連載されていたのに、最終章「犬おどし」だけは書き下ろしになってます。ということで、小説現代で読んでいた人は、最後の最後で「この続きは単行本で読んでね」って放り出されたってことでしょうか。なんてあこぎな。

(2011.10.06)

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