推理小説の部屋

ひとこと書評

カラット探偵事務所の事件簿1／乾くるみ
春の魔法のおすそわけ／西澤保彦
キラレ×キラレ CUTTHROAT／森博嗣
極北クレイマー(上)(下)／海堂尊
ディスコ探偵水曜日(上)(中)(下)／舞城王太郎
猫と針／恩田陸
十二の嘘と十二の真実／あさのあつこ
シアター！2／有川浩
女王国の城(上)(下)／有栖川有栖
雲の上の青い空／青井夏海
ダイイング・アイ／東野圭吾
あの頃の誰か／東野圭吾
ゴールデンスランバー／伊坂幸太郎

カラット探偵事務所の事件簿1／乾くるみ (PHP文芸文庫)

★★★　　

乾くるみの短編新シリーズ。本格好きの探偵・古谷と、ハードボイルド好きの助手・井上の2人だけで開設された、「謎解き専門」の探偵事務所。

暗号と暗合。言葉遊びが全編に散りばめられていて、良く作るなあ、と感心させれます。ちなみにFile.4のラストの「神の火」では、私も「そっちか」と呟きました(笑)。

時系列順につけられた「File#」の1～5と、とんで20を収録。少なくとも3巻分は出る、ということでしょうか。ラストでは作者の仕掛けに驚かされること請け合い。

(2011.04.01)

春の魔法のおすそわけ／西澤保彦 (中公文庫)

★★★　　

独身44歳の女流作家・鈴木小夜子は、酷い二日酔いのまま電車を降りた。昨夜の記憶がない小夜子の手元には、2000万円の入ったバッグが…。やけになり2000万円を使い切ろうとした小夜子の前に、美青年が現れる。

酒と記憶を巡るミステリ？小夜子の一人称で進むのですが、ゲロはするは腹は下すは、女性だからと言って容赦ないですね、西澤さんは。

さまざまな疑問や謎が最後の章できちんと回収されるあたりは、さすがです。

(2011.03.27)

キラレ×キラレ CUTTHROAT／森博嗣 (講談社文庫)

★★★　　

Xシリーズ第2弾。満員電車の中で女性が背中を切られる連続事件が発生。事件の犯人と誤認された知り合いから依頼され、鷹知と小川は事件の捜査を開始する。ただの無差別愉快犯かと思われた事件だったが、4人の被害者に意外な共通点があった。そして事件は急展開を迎え…。

小川と真鍋の会話が段々面白くなってきました。西之園さんも出てきたりして、過去のシリーズとの関連も深くなってくるのかも知れませんね。事件自体は、サイコホラーチックな展開がなかなかハラハラさせられました。

(2011.03.24)

極北クレイマー(上)(下)／海堂尊 (朝日文庫)

★★★☆　

財政破綻にあえぐ極北羅堂。赤字五ツ星の一つ・極北市民病院に赴任した今中は、やる気のない医師や職員たちの現状に愕然とする。そこに謎の派遣女医・姫宮がやってきて、さらに医療事故を刑事事件として立件しようとする司法の思惑が働き…。

「氷姫」姫宮に、桜宮を去った「血塗れ将軍」速水、警察庁の「無声狂犬」斑鳩、産婦人科の権威・清川吾郎、とこれまでの「桜宮サーガ」の登場人物がそれぞれ重要なパートを務めています。そして「ブラックペアン 1988」に出ていて存在感抜群だった世良医師が、再生屋として再登場（下の名前をよく覚えてませんけど、あの世良先生ですよね？）。なるほどこういう役割があったんですね。

(2011.03.19)

ディスコ探偵水曜日(上)(中)(下)／舞城王太郎 (新潮文庫)

★★★　　

迷子専門の外国人探偵・ディスコ・ウェンズデイは、6歳の山岸梢と暮らしていた。しかしある日、11年後の17歳の〝梢”が未来からやってきて梢の体を乗っ取ってしまった。女の子の魂が盗まれる「パンダラバー」事件、円筒形の館で推理を披露した名探偵が次々と目に箸を突っ込まれて死んでいく「パインハウス」事件を経て、名探偵は時空を超える力を身につけていく…。

3巻に渡る大作。閉ざされた館に密室殺人事件、そして名探偵、と舞台は本格ですが、本格どころかミステリの枠を超え、SFでもあり、哲学的でもあり、もはや何でもアリという感じ。しかしそれでも「伏線が一つに繋がる」という一点において、本格らしさを残しているとも言えるかも知れません。まあ、時空捻じ曲げるあたりからは正直ついていけませんでしたが。

ディスコの行動原理の根底に子供たちに対する愛があること、ジョーカー的存在の水星Cの超越っぷり、騒がしいけどやたらと理解の良いエンジェルバニーズの面々、といったあたりがアクセントになっていて、最後まで飽きずに読めました。

(2011.03.10)

猫と針／恩田陸 (新潮文庫)

★★★　　

劇団「キャラメルボックス」で講演された戯曲の脚本を文庫化。喪服を着た5人の男女が織りなす「その場にいない人の話をする」密室劇。

「中庭の出来事」など、演劇に興味がある作者が、ついに本物の演劇脚本に挑んだ作品。本編に加え、まだ本編が欠片も出来ていない時点で書かれた公演チラシと公演パンフレットに寄せられた文、さらに公演後に日記と照らし合わせて如何に修羅場だったかを振り返る文「『猫の針』日記」を収録。

本編は、戯曲になっても「恩田節」が染み出てますね。幕ごとの引きの強さも相変わらずで、先の展開が見えない状態で練習を重ねた役者さん達の苦労と興奮が伝わってくるようです。

しかし日記を読むにつれ、戯曲の脚本書くのって大変なんだなあ、と思いました。

(2011.02.17)

十二の嘘と十二の真実／あさのあつこ (徳間文庫)

★★★　　

24章からなる連作短編？「十二の嘘と十二の真実」と、短編「崖の上」を収録した、短編集。

奇数章で語られる、ある国の后と侍女「ツル」の話と、偶数章で語られる、老婆の一人称で語られる断片的な物語。関係あるようでないようで、同時進行して行く物語が、最後に見事に融合して着地します。

「崖の上」も含めて「人間の醜さ」を徹底的に描いた、という感じでしょうか。後味の苦めです。

(2011.02.16)

シアター！2／有川浩 (メディアワークス文庫)

★★★☆　

「シアター！」の続編。有川浩クラスになっても、続編が出せるかどうかは売上次第なところがあるんですねー。というわけで、前作が好評だったからか刊行された続編。どうやら次の3巻で完結、ということになりそうです。

負債額300万円を自力で返すための2年間の返済期限。劇団「シアターフラッグ」は、さまざまなトラブルはありながらも、なんとか負債を返していた…。

すっかり「司の人生相談劇場」みたいな様相を呈しているのが面白いですね。「大人のラノベ」らしく、劇団内恋愛関係もいろいろと進んでいるようで。前巻で掘り下げが足りなかったスズやゆかりなども大分キャラが深められた感じです。

個人的には、司相手に大真面目に「ドジっ娘属性」の解説を始める茅原に爆笑でした。

(2011.02.08)

女王国の城(上)(下)／有栖川有栖 (創元推理文庫)

★★★★☆

「学生アリスと江神二郎」シリーズ長編第4弾。前作「双頭の悪魔」から実に15年と7か月ぶりに書かれた新作！文庫化も前作が1999年ですから12年くらい経ってます。綾辻行人さんの「館シリーズ」も大概なリリースペースですけど、あちらはもうシリーズ8作目まで行ってるのに対して、こちらはまだ4作ですからね。

前作は囚われの身になったマリアをEMCの面々が救い出す、という内容でしたが、今作は江神さんが行方不明に。どうやらUFOを信じる新興宗教〈人類教会〉の聖地・神倉に行ったらしいのだが…。

今作も、黒数字で始まるアリス視点のパートと、白数字で始まるマリア視点のパートがあり、途中分かれての逃亡劇パートを効果的に盛り上げています。特に17章のラストはなかなか感動的でした。

犯人指摘のロジックも、言われてみると驚くほどシンプルで、これが江神シリーズの魅力ですよねー。

さて、次の長編はついにこのシリーズの完結編になるようです。その前に短編集も出るみたいで。これまで断片的には読んできているのですが（モチ先輩の失恋話とか）、まとめて読んでみたいですね。とにかくこのシリーズと付き合うには忍耐力が必要ですので、ひたすら待つことにします。

(2011.02.05)

雲の上の青い空／青井夏海 (PHP文芸文庫)

★★★　　

元私立探偵、今はしがない宅配便ドライバーの寺坂脩二が、配達先（あるいはオフ時）で出会った5つの事件を収録。

いわゆる「日常の謎」系に属するミステリですが、元私立探偵という設定からか、主人公の一人称による語り口からか、ちょっとハードボイルドっぽい雰囲気もあります。

ガキやPTAや引きこもりやらに振り回されながらも、なんだかんだ言ってフォローしてやる脩二の人の好さがいいですね。

(2011.01.26)

ダイイング・アイ／東野圭吾 (光文社文庫)

★★★☆　

最初タイトルを「ダンシング・アイ」と誤読してしまったのは内緒だ。

交通事故の加害者と被害者に焦点を当てた話。加害者目線で話は進むのですが、その主人公が頭を殴られて事故当時の記憶を無くしてしまっているので、話がややこしくなってます。

途中、着地点がSFなのか、超科学なのか、はたまたホラーなのか、見当がつかずに戸惑いましたが、一応最後は現実的な線に落ちてきた……のかな？

(2011.01.22)

あの頃の誰か／東野圭吾 (光文社文庫)

★★★　　

「わけあり」で今までどの短編集にも収録されていなかった短編を集めた短編集。

ダイイングメッセージをめぐる古典的作品「シャレードがいっぱい」、
二重人格の少女が犯した殺人「レイコと玲子」、
かつて犯した罪に一生追われることになった男の末路とは…「再生魔術の女」、
「秘密」のプロトタイプ短編「さよなら『お父さん』」、
「本格」に対するアンチテーゼ・「名探偵」シリーズが生まれるきっかけともなった「名探偵退場」、
「お題」のキーワードを元に即興で作られたショートショート「女も虎も」、
甘い言葉に乗ってしまった男の末路…「眠りたい死にたくない」、
「結婚はするけど、子供は作らない。」約束に秘められた夫の秘密とは…。「二十年目の約束」。

本人が気に入らなかった作品も入っていますが、そんなに気にするほど酷い出来ではないですよねー。しかし携帯がまだ珍しいバブルの頃の作品、ってのは時代を感じますね。

(2011.01.16)