推理小説の部屋

ひとこと書評


イマジン?/有川ひろ (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

幼い頃に見た「ゴジラ vs. スペースゴジラ」で地元の別府タワーが出てきたことで、 「テレビの中の世界」と「現実」とが繋がり、映像制作を志すようになった良井良助(いいりょうすけ)。 しかし最初に就職しようとした映像制作会社が計画倒産してしまい、 巻き込まれた良助も業界にいられないように。 歌舞伎町のゴジラ像の下でバイト生活を続ける良助の運命が「朝五時、渋谷、宮益坂上」で動き出す。

映像制作会社を舞台としたお仕事小説。「製作」は資本を出す側(テレビ局やxx製作委員会)で、 「制作」はロケハンやエキストラ、仕出しの手配等雑用全般を引き受ける側、なんですね。

同じ作者の「空飛ぶ広報室」をパロディにした「天翔ける広報室」が出てくるのが面白かったです。 とすると、主演の喜屋武七海は、同じ沖縄出身の新垣結衣のイメージでしょうか。

(2024.11.18)


スティグマータ/近藤史恵 (新潮文庫)

★★★☆ 

「サクリファイス」「エデン」 「サヴァイヴ」に続く、白石誓を語り手としたロードレースシリーズ第4弾。

かつて輝けるチャンピオンだったが、ドーピングによってロードレース界を追われた「墜ちた英雄」メネンコがツールに戻ってきた。 チカは彼からあるチームメイドが監視して欲しいと依頼を受ける。 来年のチームもまだ決まっていない中、チカは周囲の思惑に巻き込まれていく。

クライマーかつアシスト、ということで中々日の目を見ることのないチカ。 今回は日本で活躍する伊庭もツールに参戦し、ライバルチームながらお互いを意識してレースを進めます。

(2024.11.18)


エレジーは流れない/三浦しをん (双葉文庫)

★★★  

山と海に囲まれた餅湯温泉。さびれた観光地で暮らす高校2年生の怜には、饅頭屋の「おふくろ」と、 リゾート会社社長の「お母さん」の二人の母親がいた。 脳筋の友人・竜人と心平、美術部の大人しい丸山、旅館の跡継ぎ藤島、等、 騒がしい友人に囲まれながら、怜の青春が紡がれていく。

「母親が二人いる」という怜の出生自身が最大の謎となっている今作ですが、 男子高校生のバカバカしい日常に薄められて、シリアスになり過ぎない程度でいい塩梅ですね。

(2024.11.04)


灰の劇場/恩田陸 (河出文庫)

★★★  

ある日目にした、大学の同級生で同じ家に住んでいた中年女性二人が多摩の山奥で心中をした、という新聞記事。 その記事は、作者の胸に「棘」のように刺さっていた……。

二人の女性の生き様を想像で描くフィクションパートの「1」章と、 それを創作する作者の心情を記したノンフィクションパートの「0」章が交互に挟まる、という構成。 さらに後半になると、その小説をベースにした舞台化までされるという「(1)」章まで登場 (こちら、まだ小説ができていないんだからフィクションだと思います)。

文庫版あとがき読むと、色々と事実と符合するところもあったりなかったり。 確かにすべてを知ってしまっては書けなかった小説かも知れませんね。

(2024.10.22)


シャルロットのアルバイト/近藤史恵 (光文社文庫)

★★★  

「シャルロットの憂鬱」に続くシャルロットシリーズ第2弾。

トイプードルの迷子の王子を保護したり、向井の謎の学生とコンタクトしたり、ペンションで迷子札が行方不明になったり、 子犬のしつけ教室にアルバイトに行ったり、天使と悪魔の子犬を預かったり、と色々ありましたが、 シャルロットもいたずらは大分息をひそめ、「お姉さん」として見守るポジションになってきましたね。

(2024.10.14)


桜ほうさら(上)(下)/宮部みゆき (PHP文芸文庫)

★★★☆ 

江戸の本所深川を舞台とした時代劇シリーズの1つ。主人公は上総国搗根藩から江戸に出て来て富勘長屋に住み込む笙之介。

笙之介の母・里江は「強烈な」人で、兄・勝之介はそんな母の期待に応えるべく立派な武士として育っていった。 一方の笙之介は、父に似て、剣技はさっぱりのおっとりお人好し。 しかしある時、その父が収賄の疑いで訴えられた。全く覚えがないが、自分が書いたとしか思えない証文を前に、 苦悶する父は、やがて切腹の道を選ぶ。父の汚名を晴らすため、「他人の筆跡を完璧に真似ることができる職人」を探すため、 笙之介は江戸の町で写本の仕事をするのであった。

意外ともてるのに、全く自覚がない笙之介の朴念仁ぶりがもどかしいですが、 「桜の精」和香との出逢い、そしてその妖精とは程遠い性格も含めて、 登場人物たちが活き活きしていますね。 先に「きたきた捕物帖」を呼んでいるので、差配の富勘や貸本屋の治兵衛など、おなじみのキャラも出てきます。

今後の「きたきた捕物帖」シリーズに、笙之介が(別の名前で)出てくる可能性もあるのかな、 とちょっと楽しみになりました。

(2024.10.09)


シャルロットの憂鬱/近藤史恵 (光文社文庫)

★★★  

元警察犬のジャーマンシェパードのシャルロット。大型犬ながら6歳の女の子は、浩輔・真澄夫妻の元へやってきた。 いたずら好きで食いしん坊だが、賢いシャルロットが巻き起こす、日常ミステリ。

たまに不思議な行動を取るシャルロットの謎を解くと事件が解決する、という仕掛け。 シャルロットが離せれば即事件解決なのになあ、は言っちゃいけないか。 続編も出ているようなので楽しみです。

(2024.09.24)


透明な螺旋/東野圭吾 (文春文庫)

★★★☆ 

戦後すぐの昭和と、平成の時代、上京したての女の子が男と出逢って……という場面が二重写しになるプロローグ。 やがて、男の銃殺死体が海で発見され、行方不明届けを出していた同居人の女が姿を消した……。 草薙と内海は、意外なところから湯川の名前に辿り着く……。

ガリレオシリーズといえば、犯人が科学トリックを使って、それを湯川が解き明かす、というのが定番ですが、 今回は科学トリックは登場せず。あれ?何でだろう、と思っていたら、 今回は湯川学のルーツに迫る「湯川学 オリジン」みたいな話だったんですね。 これは確かに科学トリック無しでも1回はやっておかないといけないか。

短編「重命る(かさなる)」も収録。真相はミステリでは良くあるパターンの一つではあるものの、 それをせざるを得ないシチュエーションをキチンと作り上げるところはさすがだなあ、と。

(2024.09.19)


子宝船 きたきた捕物帖(二)/宮部みゆき (PHP文芸文庫)

★★★☆ 

きたきた捕物帖の第二弾。 「子宝に恵まれる」と評判の宝船の絵が、いつの間にか弁天様だけ降りようとしている絵にすり替わっていた事件を追う「子宝船」、 一家三人で営む小さな弁当屋が毒殺された事件が起きる「おでこの中身」、 その解決篇「人魚の毒」の三編を収録。

文庫屋として独り立ちするために、職人やら絵師やらをその人柄とコネで開拓していく北一。 様々なキャラクターの素性が明らかになってきて、賑やかになってきました。 一作目では謎だった欅屋敷の「若君」とようやく逢うことができた北一はとびきりのサプライズを受けます。 相棒の喜多次は、どうやら忍の一族の出身らしい、など。

これまでの時代劇物の全伏線を回収していくシリーズになるようで、楽しみです。

(2024.09.10)


きたきた捕物帖/宮部みゆき (PHP文芸文庫)

★★★☆ 

宮部みゆきの新時代劇シリーズ。岡っ引き・千吉親分の末の見習いだった北一は、 文庫売りで生計を立てていた。福笑いやすごろく等に関わる不思議な事件に関わるうちに、 差配の富勘が拐かされる事件が起こり、釜炊きの喜多次と出会う。

足が速い以外は特に取り柄のない北一ですが、人の出会いには恵まれているのか、 色々助けてもらいます。一方、謎多き喜多次は、能ある鷹という感じで、底が知れません。 そんな対照的な二人が(必要な時だけ)バディを組む、という関係が面白いですね。

(2024.09.02)


わたしの本の空白は/近藤史恵 (ハルキ文庫)

★★★  

気づいたら病院のベッドに寝ていた「わたし」は、自分が何者なのかもわからず、記憶を失っていた。 「夫」と名乗る男性が会いに来ても、本当にこの人を愛していたのか自信が持てない。 しかし夢の中で出てくる綺麗な顔の男性だけは、愛していたことを確信するのであった。

記憶喪失モノといえば、記憶を取り戻していくプロセスがメインになるものが多いですが、 この作品では誰が本当のことを言っているのかわからない状態で話が進んで行き、 主人公と一緒に彷徨う感じを体感できます。 途中に視点の異なるキャラの章が挟まり、益々謎が深まっていくという……。

(2024.09.02)


新謎解きはディナーのあとで/東川篤哉 (小学館文庫)

★★★☆ 

一旦3までで完結した「謎解きはディナーのあとで」の新シリーズが開幕。 新米で天然の若宮愛里が後輩ちゃんとして加わり、 風祭警部と愛里ちゃんのWボケにツッコミが追いつかない麗子が見所です。

相変わらずスーパー執事であり安楽椅子探偵の影山も、物理トリックの再現までやってくれたりとパワーアップしています。 シリーズ楽しみです。

(2024.09.02)


いのちのパレード 新装版/恩田陸 (実業之日本社文庫)

★★★  

恩田陸の異色短編集いのちのパレードの新装版。 もう14年前になるんですね。完全に中身を忘れていたので、再読でも楽しめました。

(2024.08.13)


サマーゴースト/乙一・loundraw原案 (集英社文庫)

★★★☆ 

まさかの「線香花火」×「幽霊」作がもう一作。こちらは原案・loundraw、ということですが、

自殺志願者サイトで知り合った高校生3人、友也と涼とあおい。 彼らは都市伝説の「サマーゴースト」の噂を確かめるべく、 郊外の飛行場跡地で線香花火を灯したところ、彼らの目の前に女性の幽霊が現れた。

短いながらまとまってます。「死に近い者のみが認識できる」という設定がいいですね。

(2024.08.10)


歌の終わりは海 Song End Sea/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

XXシリーズ第2弾。前回は「Fool Lie Bow」で「風来坊」でしたが、 今回は「Song End Sea」で「尊厳死」。

小川探偵事務所に持ち込まれた依頼は、著名な作詞家・大日向慎太郎の浮気調査。 しかし人嫌いでほとんど家から出ない大日向に浮気の兆候は全く見えない。 家の出入り口に監視カメラを仕掛けてしばらく経った時、 慎太郎の姉・沙絵子が自殺した。しかも車椅子だったはずの沙絵子が、5mもの高さで首を吊って。

XXシリーズの特性なんですかね?小川さんと加部谷さんとの不毛な微笑ましいやり取りはいいのですが、 謎は特に解決されないです。そしてそれを良しとする空気がありますね。 西之薗さんが登場してのラスボス感というか、もう任せておけば大丈夫感が何とも言えないですね。

(2024.08.10)


短編七芒星/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

「奏雨」「狙撃」「落下」「雷撃」「代替」「春雷」「縁起」の7つの短編を収録。

2文字のタイトルだけだと内容思い出せなくなりそうなので、簡単なメモ。

奏雨
刑事の友人であり相談役でもある奏雨が、連続殺人犯の背後に「あの映画」(ダブルミーニング)があることを見抜く話。
狙撃
天才スナイパーの弾丸はたまに消滅し、遠隔地にいる悪人の心臓の中から見つかる話。
落下
引っ越してきたばかりのアパートで毎晩同じ時間に落下音が聴こえるのはなぜ?
雷撃
幼い頃に拾ってきた石に取り憑かれてしまった少年が、クラスの高身長サバサバ女子に相談する話。
代替
悪意の塊とでもいうべき恐るべき子供と、それを客観的に見つめる視点。だがある時その「悪意」が死んで意識が入れ替わり……。
春雷
考えなしだが行動力だけはある兄が、さらわれた彼女の弟を取り返すために、愛犬のストームと疾走する話。
縁起
生まれてきたばかりの弟を取り戻そうとやってくる豚の神様とお父さんが戦う話。

ジャンルもバラバラですが、どれも「舞城王太郎み」があります。 関西弁による会話、突然発現する不条理や不可思議、すべてが決着するわけではないが、 何となくの落としどころで納得する登場人物たち、等々。

(2024.07.23)


一之瀬ユウナが浮いている/乙一 (集英社文庫)

★★★★☆

高校2年生の夏休み、幼馴染の一之瀬ユウナが死んだ。喪失感に襲われた日々を送る大地だったが、 大晦日、鎮魂のつもりでユウナの好きだった線香花火に火をつけた。 すると、宙に浮かんだユウナが現れた。彼女の姿は、大地にしか見えないらしい。 しかも線香花火が消えてしばらくするとユウナも消えてしまう。 もう製造元がつぶれてしまった貴重な線香花火のストックを駄菓子屋で確保した大地は、 ユウナに様々な場所を見せるために奔走するのだが……。

「夏と花火と私の死体」でデビューした乙一にとって、まさに自己本歌取りというか、原点的作品ですね。 ユウナがジャンプを始めとする少年漫画好きで、将来も漫画に関わる職業に就きたい、という夢を持っていたあたりも好感が持てます。 2時間映画にするにはちょうどいいくらいの題材なんじゃないかなあ。

(2024.07.23)


野球が好きすぎて/東川篤哉 (実業之日本社文庫)

★★★  

熱狂的なスワローズファンの父に「つばめ」と名付けられ、 その父とともに警視庁捜査一課の刑事を務める神宮司父娘(「親子鷹」ならぬ「親娘燕」らしい)。 なぜか遭遇するのは熱狂的な野球ファンによる変な事件ばかり。

実は野球ファン(しかも広島カープの熱狂的ファン)らしい東川篤哉先生の新シリーズ。 カープが25年ぶりにリーグ優勝した2016年から始まり、1年に1話、その年のペナントレースの話題や順位の話も盛り込んで、 最後は全身赤く染めたカープ女子が安楽椅子探偵として謎を解決する、という連作短編です。 実際にあった試合展開がアリバイの証拠(あるいはアリバイトリック)になっているあたりが面白いですね。 2021年以降も続いているようです。

(2024.07.09)


たまごの旅人/近藤史恵 (実業之日本社文庫)

★★★  

幼い頃から外国に憧れてきた(が、ケチ堅実な教師である両親の元、ほとんど外国に行かせてもらえなかった)遥。 仕事をしながら色んな国へ行ける!ということで、念願の海外旅行の添乗員になった。 しかし現実は色々と厳しく……。

お仕事モノ連作短編集。新人が向かうにはあまりにも厳しい環境だったり、ワガママなお客さんだったり、 色々大変ですね。この手の話は、ため込んだストレスを、ラストでいかにカタルシスに変えられるか、 なのですが、全体的には若干ストレス>カタルシス、だったかなあ。 ラストの話でコロナ禍に突入してしまい、添乗員の仕事そのものがなくなってしまうのが切ない。

(2024.07.09)


黒牢城/米澤穂信 (角川文庫)

★★★★ 

直木賞受賞作。有岡城を舞台に、黒田官兵衛が安楽椅子探偵を!?

織田信長に叛旗を翻し有岡城に立て籠もった荒木村重のもとに、黒田官兵衛が降伏を薦めにやってきた。 村重は官兵衛を返すでもなく殺すでもなく、地下牢へと幽閉する。 そして官兵衛に、有岡城内で起こる不思議な事件の謎を解くように求めるのであった。

あまり日本史詳しくないのですが、結構忠実になぞっているんですかね。 時代小説の中に安楽椅子ミステリを落とし込んで、ちゃんと本格ミステリになっているところはさすがです。

(2024.07.09)


白鳥とコウモリ(上)(下)/東野圭吾 (幻冬舎文庫)

★★★★☆

弁護士・白石健介の遺体が発見され、捜査線上に浮かんだ倉木達郎は、愛知の金融業者殺害事件と繋がりのある人物だった。 その愛知の事件では、逮捕された容疑者が獄中で自殺し、真相はわからないまま時効となっていた。 そんな時、突然倉木が二つの事件の真犯人であると自白。 しかし容疑者の息子と被害者の娘は、倉木の言動に違和感を覚える。

被害者の娘と容疑者の息子、という似ているようで対極的な立場の二人を「白鳥とコウモリ」にたとえています。 一つの嘘がまた別の嘘を呼んで……という負の連鎖と、事件の構図がひっくり返っていく様はさすがでした。

(2024.06.15)


おもみいたします/あさのあつこ (徳間文庫)

★★★  

新シリーズ?5歳の時に光を失ったお梅。揉み療治を生業とするお梅だが、 彼女には目が見えない分、色々と見えていた。 相棒の犬・十丸と、天竺鼠の「先生」と共に、身体でだけではない「凝り」の原因をほぐしていく。

あらすじを読んだ時には、「日常系」の連作短編かな、と思ったのですが、全体通して一つの話でした。 まだまだ謎が多いお梅の周辺。続編もリリースされるようで、楽しみです。

(2024.06.09)


スキマワラシ/恩田陸 (集英社文庫)

★★★☆ 

古道具屋を営む太郎と散多。散多には物に触れるとその記憶が見えるという不思議な力があった。 しかし記憶が見える「物」の条件はよくわからない。ある日既に亡くなっている若き日の両親と思わしき記憶を見たことから、 二人はその条件を追及し始める。鍵は「タイル」と「転用」? 解体現場で目撃されるという少女の都市伝説との関係は?

何とも不思議な読み味の作品でした。セリフに「」を使わないのも特徴的。 途中から出てくる醍醐覇南子(ダイゴハナコ)もかなり印象的なキャラクターですね。

(2024.06.09)


冬季限定ボンボンショコラ事件/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★★ 

「小市民」シリーズ長編もいよいよ完結編。 高校生活の終わりが見えてきた12月、小鳩くんは交通事故に遭い、入院してしまう。 しかし必ず映っているはずのコンビニの監視カメラには、車は映っていなかった。 小鳩くんは入院しながら3年前の出来事を思い出す……。

中学3年生の時の、ひき逃げ事件を機に知り合った小鳩くんと小山内さん。 「小市民」互恵関係の始まりを描く「小市民エピソード0」と、 現在のひき逃げ事件を二重写しにして進めていく展開。 小鳩くんがなぜ今のような性格になったのか、その経緯も良くわかります。

最後はかなりハードな展開になって、小山内さんがどこまで計算していたのかわからないのですが、 狼の本性が垣間見える感じでした。

エピローグの振り返り加減からしても、長編としては終わりっぽいのですが、 「巴里マカロンの謎」のような、 国名シリーズならぬ都市名シリーズで短編集が発売される可能性はあるのかな、 と思っています。

(2024.05.23)


掟上今日子の裏表紙/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

掟上今日子さんが逮捕された。しかも密室の中で強盗殺人で? 「冤罪製造機」の刑事・日怠井(ひだるい)と、 「冤罪体質」にして忘却探偵の「専門家」でもある隠館厄介(かくしだてやくすけ)の二人で、 牢獄の中で安楽椅子探偵ならぬ電気椅子探偵を気取る今日子さんの手足となって真相を究明する。

睡眠を脅しに使う今日子さんがえげつない。そして捕まっていても今日子さんは今日子さんだったのでした。

(2024.05.03)


パラダイスガーデンの喪失/若竹七海 (光文社文庫)

★★★  

湘南の架空都市・葉崎を舞台としたコージーミステリ、10年ぶりの新作。 しかし探偵役は葉村晶ではなく、警部補の二村貴美子。

色んな人の色んな思惑が交錯して次々と事件が連鎖していくところは「ドミノ」チック。 「今は誘拐犯を刺激するから逮捕するな」という謎指令が下っている中で、 一気に4人も逮捕してしまうとか、勝手に自白始めてしまうとか、ドタバタぶりが面白かったです。

都合よく「良く似た他人」が出てきたりしますが、ちゃんと理由付けされてました。

(2024.05.03)


幽霊絵師火狂 筆のみが知る/近藤史恵 (角川文庫)

★★★  

料理屋「しの田」のひとり娘真阿は、胸の病で外出することを禁じられていた。 そんな中、幽霊絵師・火狂が店に居候することになる。彼には人には見えないものを見る力があるようだった。 やがて真阿も火狂の絵に呼応するかのように不思議な夢を見るようになり……。

時代としては明治になるんですかね。江戸の文化が残りつつも、 新たな時代に向けて動き出している時代。

歳は離れているものの、真阿と興四郎の関係が、お互いリスペクトがあっていい感じだなあ、と思いました。

(2024.04.24)


コロナ漂流録 2022銃弾の行方/海堂尊 (実業之日本社文庫)

★★★  

「コロナ○○録」シリーズ3部作、完結編。

田口先生がついに学長室に!(部屋だけ) 桜宮サーガ年表によれば、「チームバチスタの栄光」は2006年の出来事らしいので、 新型コロナの2020年には14年が過ぎているわけで、 それくらいの役職についていてもおかしくはないということですかね。

(2024.03.31)


居酒屋「一服亭」の四季/東川篤哉 (講談社文庫)

★★★  

「純喫茶『一服堂』の四季」に続く「一服○」シリーズ第2弾。 正直前作忘れているんですが、「続編は難しいだろうな」と感想で書いてありました。 しかし「二代目安楽椅子(ヨリ子)」という離れ業を使うことで、まさかの続編が誕生。

鎌倉にある、見た目普通の住居としか思えない居酒屋「一服亭」。 女将の二代目・安楽椅子(ヨリ子)は、初対面の人には気絶してしまうほどの人見知りという、 全く接客業に向かないタイプだった。しかし、料理を作りながら聞いている情報を元に、真相を言い当てる……。

東川篤哉先生お得意のユーモアミステリでありながら、猟奇殺人が絡む、というのは前作と同じ。 料理を出して間違った方向に推理を誘導した上で罵倒する、って初代でもありましっけ? ささやかな叙述トリックもありました。

(2024.03.25)


修羅の家/我孫子武丸 (講談社文庫)

★★★  

晴男は中年女性・優子に強姦殺人の現場を目撃され、彼女の家に連れて行かれる。 そこには男女10人ほどが「家族」として暮らす異様な家だった。 一方、区役所で働く北島は、変わり果てた初恋の女性・愛香と再会する。

晴男視点の章と、北島視点の章が交互にある構成ですが、そこに仕掛けが。 フィクションかと思ったら、ベースとなる実在の事件があったのですね。

(2024.02.18)


世界で一番透きとおった物語/杉井光 (新潮文庫)

★★★★☆

電子書籍化不可能と言われる話題作。

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去。浮気相手の子として生まれ、父親と会ったこともない藤阪燈真は、 ひょんなことから父の遺稿「世界で一番透きとおった物語」を探し求めることに……。

いやー、びっくりしました。仕掛けに気づいてからは「マジかよ……」の連続。 何言ってもネタバレになりそうなので多くは語れませんが、 こんな可能性があるんだな、と思いました。

(2024.01.28)


ムシカ 鎮虫譜/井上真偽 (実業之日本社文庫)

★★★☆ 

スランプに悩む音大生グループが、夏休みに小さな無人島を訪れる。 その島「笛島」は、音楽にまつわる神「オセサマ」がいて、音楽に関するご利益があるという。 しかしその島には、人間を襲う凶悪な虫たちが生息していた……。

「その可能性はすでに考えた」「探偵が早すぎる」などの超絶探偵を生み出してきた井上真偽の、新作。 これまでの作風と違って、パニックホラーの様相。しかし中盤、「探偵役」と「悪役」が登場し、 そこからは「伝承の謎」を論理的に解決していくあたり、本格のテイストはちゃんと盛り込まれています。

(2024.01.21)


夜の向こうの蛹たち/近藤史恵 (祥伝社文庫)

★★★  

小説家でレズビアンの織部妙は、美人と評判の新人作家橋本さなぎの処女作に嫉妬していた。 しかし本人に会ってみると違和感を覚える。彼女が惹かれたのは、さなぎの「秘書」をしているという初芝祐のほうだった……。

3人の女性による心理的な駆け引きの物語。途中で「ゴーストライター?」という推測は誰でも覚えると思いますが、 真相はその斜め上を行ってました。

(2024.01.21)


畏れ入谷の彼女の柘榴/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

舞城王太郎先生の短編集。タイトルからすると、「されど私の可愛い檸檬」 「私はあなたの瞳の林檎」に続くフルーツシリーズなんでしょうか。

記憶にないのに突然妊娠した妻の秘密とは……?表題作「畏れ入谷の彼女の柘榴」。
40年ほど前に行方不明になった子を探すと人語を離す猿といたずら好きの蟹が現れた?「裏山の凄い猿」。
他人の心残りを昇華する役目を持つ不思議な家に生まれた三きょうだいの話「うちの玄関に座るため息」。 の3編を収録。

どれもちょっと不思議な現象と、会話劇で成り立っている物語。 登場人物が何か欠落していて、それを会話の中で自覚していく、という構成が共通しているようです。

(2024.01.04)


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