★★★
「~檸檬」が家族をテーマにしていたのに対して、こちらは「恋愛」をテーマにした3編の短編を収録。
「私はあなたの瞳の林檎」は、実の母から虐待を受け自己肯定感の低いメンヘラ気味の彼女に初恋をし、そのまま純愛を貫く男の子の話。
「ほにゃららサラダ」は、芸術大学で才能溢れる男の子と恋仲になったものの、その才能に打ちのめされて別れを選んだ女の子の話。
「僕が乗るべき遠くの列車」は、なぜか15歳で死ぬと思い込んでいて何事にも意味を見出せなかった男の子が、その本質を見抜いた女の子二人と三角関係(?)になる話。
「林檎」と「檸檬」が2ヶ月連続刊行で、対になっていたんですね。逆の順に読んでしまったので「檸檬」の意味がわからなかったのでした。 こちらの「林檎」は女の子の名前なのでちゃんと意味がありました。
(2021.11.27)
★★★
小説を元にした楽曲を歌う、というコンセプトのYOASOBI。その元となった小説集の文庫化。 「夜に駆ける」「あの夢をなぞって」「たぶん」「アンコール」「ハルジオン」の元小説を収録。
「夜に駆ける」の元小説、「タナトスの誘惑」と「夜に溶ける」、 「あの夢をなぞって」の元小説「夢の雫と星の花」、 「たぶん」の元小説「たぶん」、 「アンコール」の元小説「世界の終わりと、さよならのうた」、 「ハルジオン」の元小説「それでも、ハッピーエンド」を収録。
MVのイメージ通りのものと、小説読んでみて「え、そういう話だったの?」ってものがありますね。 「ハルジオン」なんかはかなりそのまんま(絵を描くシーンとかは何かのメタファーかと思っていたら、本当に絵を描く子でした)。 一方「あの夢をなぞって」は予知夢のSFものだったとは。
(2021.11.23)
★★★
家族を巡る短編3編を収録。
「トロフィーワイフ」は、完璧な姉とそれに反発する妹の話。
「ドナドナ不要論」は、病気を機にまるで別人のように変わってしまった妻に困惑する夫の話。
「されど私の可愛い檸檬」は、常識的な判断がすぐに出来ずに流されながらも、ナチュラルに女の子を引き寄せて傷付けてしまう男が、デザイナーを目指そうとするもいつの間にかコーヒー屋の店長に収まる話。
何となく共通したテーマがありそうな3本。3つ目の表題作のタイトルは意味がわかりませんでした。檸檬出てこないし。生まれてくる子供の名前が檸檬なのかな?
(2021.11.18)
★★★☆
双子の優我と風我。暴力的な父親、無関心な母親に育てられ、幸せではなかった彼らだったが、 誕生日に限り、2時間に1度お互いの位置が入れ替わる、という特技(?)を持っていた。 世の中にはびこるどうしようもない不条理に、些細な力で立ち向かう。
「特殊能力」が余りに使い勝手が悪く、しかも制御もできず強制的に発動する能力なので、 一体これで何ができるの?という感じなんですが、制約とルールを駆使して立ち向かって行きます。 重めの話で、救われない人も多いんですが、それでもラストは少しほっこりします。
(2021.11.13)
★★★
誰も最後まで読んだことがない、読んでる途中で消えてしまうという謎の本「熱帯」。 本の謎を語るが解いてはいけない「沈黙読書会」、「熱帯」の謎を解こうと集まった「学団」、 著者の佐山尚一と親交があった謎の女性・千夜、その彼女に誘われ京都に赴いた池内から白石の元に届いたノート、 「満月の魔女」とは、「魔王」とは……?
「千夜一夜物語」と同じような入れ子構造を持つ小説。読んでいる内に自分の立ち位置が揺らいでくるような感覚を味わえます。
(2021.10.23)
★★★☆
23年前の少女殺害事件で逮捕されたが無罪となった男。3年前に失踪した女性の遺体が見つかったことから、 逮捕されたが、今回も証拠不十分で釈放されてしまう。そして街のパレード当日、その男が殺された……。
文庫の裏側のあらすじを読んだ時に思浮かべたのは「オリエント急行?」なんですが、 それだと物理学者の出番はないよなあ、と思って読み進めていたら、なるほど殺害方法が物理トリックなんですね。 最後さらに一ひねりしてありました。
(2021.10.11)
★★★☆
護と徹子、二人の幼馴染を巡る物語。
「フラット」は護視点の物語。護から見た徹子は、地味でおとなしく、たまに奇怪な行動をとることもあるけど、人から頼まれると嫌と言えないお人好し。 そんな徹子がエリートと結婚した、という報を受けたところで「フラット」は終了。
「レリーフ」は徹子側から見た物語。護視点から見て色々と謎だった徹子の行動の意味がわかる、 という仕掛けになっています。伏線回収が気持ちいいですね。
(2021.09.26)
★★★☆
桜宮サーガの中でも一番人気のバチスタシリーズ、白鳥・田口コンビの「その後」を描いた短編集。3編の短編と1編の中編を収録。
「双生」は、碧水院の双子女医・すみれと小百合が田口先生の下に研修に来る話。 「星宿」はオレンジ病棟の小児科で手術を拒否する子供の「南十字星が見たい」という願いを叶えるために、 便利屋・城崎が奮闘する話。 「黎明」はホスピス棟に入ることになったすい臓がんの妻を何とかして救いたい夫の視点から描いた物語。
そして表題作「氷獄」は、バチスタ事件の裁判を描いた物語。ツイていない新人弁護士・日高正義の視点を通して、 田口、白鳥、斑鳩、彦根、といったオールスターキャストが出てきます。
完結してしまったと思っていた白鳥・田口のシリーズですが、こうして短編集でもいいから、 また続きを見てみたいですね。
(2021.09.24)
★★★☆
「ラプラスの魔女」の前日譚となる連作短編。カオスを一瞬で未来予測できる羽原円華が、さまざまな問題を解決していく。
スキージャンプの時の理想的な向かい風、不規則に揺れるナックルボールのキャッチング、 川で流された子供とそれを助けに飛び込んだ大人の行く先、険しい崖から滑落死した男は自殺だったのか?、 と言った、ラプラスの力を持っていないと解決できない数々の事件を通して円華の力が発揮されていきますが、 語り手は鍼灸師のナユタ、というところが工夫されています。 そして、ちゃんと「ラプラスの魔女」に繋がっているんですね。
(2021.09.05)
★★★
国名シリーズ10作目。「クイーンのフルハウス」を意識したような、中編3編と超短編2編という構成。
「船長が死んだ夜」は3人の容疑者から犯人を絞り込むオーソドックスな犯人当て。
短編「エア・キャット」は火村が翌日に起こる事件のカギを予言していた?という謎。
表題作「カナダ金貨の謎」は珍しい倒叙もの。カナダ金貨が現場から消えていたのはなぜか?の一点突破で犯人を追い込んでいくところはさすが。
短編「あるトリックの蹉跌」は火村とアリスが大学で出会った時の話。ファンサービスっぽい作品ですね。
「トロッコの行方」はトロッコ問題を事件に応用した作品。
(2021.08.30)
★★★
文庫書下ろしのアンソロジー。コロナ禍を舞台にした作品もあります。
乾くるみのはいつもながらトリッキーな一作。読み返してみたくなること必至。
米澤穂信のは、雪山で遭難した二人のうちの一人が殺されていて、 犯人は明らかに見えるのに凶器が見つからない、というもの。
芦沢央のは、コロナ禍による休業を背景にした小編。
大山誠一郎のは、一種の倒叙モノにも関わらず容疑者にはアリバイがある、という謎。
有栖川有栖のは、江神さんとアリスシリーズの短編。パズル研に論理パズルを仕掛けられた推理研が、 パズルを解いただけで飽き足らず、その背景設定まで盛り込んでしまう話。 久しぶりに推理研の面々のやり取りを見られて楽しかったです。
辻村深月の作品もコロナ禍における上京した大学生をターゲットにした今時な設定の作品。 途中まで嫌なことになりそうだな、と思って、実際なるんですけど、読後感は爽やかでした。
(2021.08.26)
★★★
ジビエを得意としながら自信を無くしたフレンチシェフと、ハンターとの、ジビエバディもの(そんなジャンルがあるのか謎ですが)。
「日常の謎」というほどの謎が起きるわけではないので、ミステリに分類しにくいですね。 ハンターの大高が、なぜ人嫌いなのか、なぜ誰かに狙われているのか、といった辺りが物語の主軸の謎ではありますが。 続編も書けそうな感じではあります。
出てくる料理がどれも美味しそうです。
(2021.08.13)
★★★☆
高校の図書委員・堀川と松倉の二人の男子による「日常の謎」系ミステリ。 全ての物語に何らかの形で本と鍵が関わっています。
図書委員として特に親しくもなかった二人の関係が、いくつかの事件を通じて深まっていくという、 連作短編ならではの仕掛けが効いています。シリーズ化される模様。
(2021.08.04)
★★★
エラリー・クイーンがいとこ同士の二人のペン・ネームであるのは有名ですが、 その2人が交わした手紙を解説と共に紹介。 とりあげる作品は中期クイーンの代表作、ライツヴィルものの「十日間の不思議」、 ミッシング・リンクものの傑作「九尾の猫」、そしてハリウッドを舞台とした「悪の起源」の3作。
いやあ、しかしこんなに仲が悪くてよくこんなに続きましたね。 まあ、このぶつかり合いがあって数々の名作が生まれたのかもしれませんが……。 いとこ同士ってのも、簡単にコンビ解消できずに離れられなかった理由なんだろうなあ。
(2021.08.03)
★★★
Gシリーズ後期三部作の第2弾。χとXは似ているけど、ψとYって似てないよな、と思いましたが、 ギリシャ文字の最後の3文字を使っているんですね(最後はωの悲劇)。
「ヨーク・ハッタ―」をもじって八田洋久とか、本家を踏まえた内容になってます。
時代設定が大分未来になっているようで、既存キャラだともう島田文子くらいしか出てきません。 「χの悲劇」は島田文子視点でしたが、今回外の視点から島田文子見ると、ただひたすらに怪しいですね。
(2021.07.12)
★★★☆
2000年から突然過去へとタイムスリップした「僕」。そこは父がまだ生きており、殺される前の世界だった。 事件を未然に防ぎ、望まぬ結婚をした姉を救うことはできるのか?
タイトルが思いっきり変わっているのと、中身を完全に忘れていたので、読了するまで気づきませんでしたが、 かつて「異邦人 fusion」というタイトルで発売されていた文庫の改題&別出版社からの再販でした。 文庫本って発売されて10年も経つと絶版になってしまうので、 こうして別の版元から再販されるというのはよくあることなんですが、改題するなら元のタイトルを少しは残して欲しいですね。 物理的な本を手に取れれば、奥付を見て確認できるんですが、ネットで買う場合には確認できないんで、 ちゃんと明記しておいて欲しいですね。
内容ですが、SF新本格らしく導入されたルールがちゃんとトリックや犯人特定に活かされているところがさすがだなあ、と。 今読んでも全く古くないどころか、ジェンダーに関する考え方なんかはむしろ今の方がふさわしいかも知れないですね。当時は早過ぎた?
(2021.06.10)
★★★
小説家である「私」の元に届いた「わたしと友達ふたりの、三十年にわたる関係は絶対あなたの興味を引くと思います」という手紙。団地で育った幼馴染の友梨と里子。東京から越してきた転校生・真帆。 3人の関係は、中学生になると共に大きく変わり……。
非対称な交換殺人?まあ、実際に捕まっているので完全な交換殺人にはなってないんですが、 そんな不思議な殺人の連鎖が続いていく、奇妙な友情の物語です。 依頼者と、実行者と、受益者が、それぞれずれているところが面白いですね。
(2021.05.25)
★★★★
人狼を求めて、「夜宴(バンケット)」「ロイズ」そして「鳥籠使い」が集結。 人狼が現れるというその村では、4か月に1度少女が喰い殺される連続殺人事件が。 一方その崖下の人狼村でも鏡写しのような事件が起きていた……。
人狼という人外の存在を投入しながら本格ミステリ風味にちゃんと仕上がっています。好みです。 推理にもちゃんと設定が活きているし、トリックは素直に驚きました。
ロイズ側もついにNo.1が出てきたり、まだまだ争いは続きそうですが、1・2巻から3巻刊行までかかったこの時間を考えると、 完結するのはいつになるんでしょうかね……。
(2021.05.19)
★★★☆
掟上今日子の忘却探偵シリーズ第6弾。隠館厄介が依頼したのは、「恋の呪い」の解明? いつになく今日子さんに嫌われてしまった厄介だったが、そんな今日子さんが提案してきたのは究極の「ズル」だった……。
起きる度に記憶がリセットされるという、忘却探偵の特性を活かした裏技が炸裂してました。 厄介にしてみれば、たまったものではないでしょうが……。
(2021.05.01)
★★★
人類最強の請負人・哀川潤が活躍する短編集、「人類最強」シリーズ。
前作「人類最強の初恋」もそうでしたが、タイトルから想像されるようなロマンチックな話にはならず、ひたすらバトル展開です。 もう普通の人類では相手にならないので、前作は宇宙人と対峙したり、月に行ったりしましたが、 今作でも「熱愛」では炎の生命体と対峙し、「純愛」では深海1万メートルへ。 SFじみてきましたね。
(2021.03.23)
★★★☆
誘拐されてた舞田ひとみがJKになって誘拐事件を推理!?
語り手は高校中退の引きこもり・馬場由宇。向かいのアパートで見かけるオレンジ色の髪の毛の女の子・ポニョが、 虐待されているのではないかと疑い、炎天下のパチンコ屋の駐車場で放置されていたポニョを誘拐してしまう。 しかし……。
誘拐に誘拐が重なる多重誘拐を扱った連作。 あの舞田ひとみがちゃんとしたJK(大分普通のJKとはかけ離れた生活ですが)になっているのが感慨深いですね。
(2021.02.07)
★★★
伊賀ももと上野あおによる女子高生探偵コンビ「桃青コンビ」による新シリーズ。
伊賀の里の謎解きイベントや、美術室での殺人事件に遭遇。冷静沈着低血圧で観察眼も優れたあおと、 普段は的外れな推理ばかり披露するがいざというときは直感で怪しい部分を見抜くもものコンビで、 解決していく。ももの兄が現役の警察官で事件の情報を入手できる立場、というのもポイントですね。
ちょっと普通の女子高生にしては、殺人事件に遭遇しすぎじゃないかという気もしますが……。 コナン君が金田一少年かよ。
3話目はコンビ結成に関わる中学時代の「エピソード0」。これまで明かされることのなかったあおの内面が描かれることで、 なぜこの凸凹コンビが続いているのかがわかる仕掛けになっています。
(2021.02.02)