推理小説の部屋

ひとこと書評


Re-born はじまりの一歩/伊坂幸太郎・瀬尾まいこ・豊島ミホ・中島京子・平山瑞穂・福田栄一・宮下奈都 (実業之日本社文庫)

★★★  

若手人気作家中心のアンソロジー。テーマは「再生」。

「再生」がテーマだけに、前向きになれる作品が多かったです。 特に「あの日の二十メートル」と「残り全部バケーション」が良かったかな。

(2010.12.18)


収穫祭(上)(下)/西澤保彦 (幻冬舎文庫)

★★★  

1982年夏、台風で橋が流され孤立した首尾木村で鎌を凶器として用いた大量殺人が発生した。 当時中学生だった生き残り、ブキ・カンチ・マユちゃんの3人は、 事件後トラウマから当時の記憶を失ってしまう。 そして9年後、当時の事件を模した猟奇殺人が再び起こる…。

ノンシリーズ。サイコ殺人物かと思いきや、 事件の真相が全く違う形で終結し、 真犯人はわからないまま当事者達の一人称で事件が再検討されていくという構成。 一人称にも関わらず当時の記憶を失っているために、 肝心の部分はわからないまま展開していく、というのが面白いですね。

西澤先生のフェティシズム趣味というかが前面に押し出されていて、 「性と死は隣り合わせ」って感じでしょうか。 「収穫祭」のタイトルの意味は、読後ようやくわかります。

「2007年」のその後も見てみたいなあ…。

(2010.12.11)


カーの復讐/二階堂黎人 (光文社文庫)

★★★  

二階堂黎人が送る、ルパンのパスティーシュ。 古代エジプトの王の墓を荒らす者を襲う「カー」の呪いにルパンが挑む。

現代の子供たちにかつてのミステリを読む楽しみを、というコンセプトで発刊された、 少年少女向け「ミステリーランド」シリーズの1冊。 二階堂黎人で「カー」と言ったら、誰もがジョン・ディクスン・カーを連想すると思いますが、 そこも計算のうちのようで。 「カー」をタイトルに冠するだけの密室トリックがメインに据えられてます。 本家ルパンを実は読んだことなかったりする私ですが、 雰囲気だけで楽しめました。

(2010.11.25)


光と闇の旅人II 時空の彼方へ/あさのあつこ (ポプラ文庫ピュアフル)

★★★  

暗き夢に閉ざされた街に続く、 「光と闇の旅人」シリーズ第2弾。 猫の姿で昔言葉でしゃべる「おゆき」の物語。

江戸の長屋。幼い頃に父親を亡くし、母の手一つで育てられた聡明な少女・おゆき。 母は闇を恐れ、「必ず夕七つまでには帰ってくるように」おゆきに繰り返し言い含めていた。 そんなおゆきが、段々と力に目覚めていく…。

これはこれで単独で成立していて、一つの物語として楽しめますね。 次巻、ついにおゆきと結祈の銀の剣と金の剣が合わさって、 最終決戦となるわけですね。

(2010.11.20)


木漏れ日に泳ぐ魚/恩田陸 (文春文庫)

★★★  

最初から最後まで、男女2人しか出てこない会話劇。 同居していた2人の別れを迎えた最後の夜。 交わされる会話は、1年前に亡くなったある男を巡る事件。 果たして導き出される真相は…?

お互いに相手が1年前の事件の犯人ではないかと思い込んでいる状態。 韓流ドラマばりのドロドロな状況?かと思いきや、 少しずつ記憶の糸が解れて真相が明らかになっていく…という構成。

真相が明らかになってからの男と女の温度差が、 結構一般的な男女の差を象徴していたりして。

(2010.11.17)


プラスマイナスゼロ/若竹七海 (ポプラ文庫ピュアフル)

★★★★ 

神奈川の架空の田舎町・葉崎を舞台に繰り広げられる「葉崎コージーミステリ」シリーズ、 数えてもう第5弾になるそうです。

成績優秀・品行方正だが不運の神に愛されたお嬢様・天知百合子(テンコ)、 成績最低・品性下劣な極悪腕力娘・黒岩有理(ユーリ)、 成績・運動能力・容姿・身長体重バストヒップに靴のサイズまですべてが全国標準という「歩く平均値」崎谷美咲(ミサキ)、 の3人が高校時代に出逢った事件の数々を納めた連作短編集。

内容も、オカルトから安楽椅子、叙述、まで かつページ数もバラバラで、バリエーション豊富で、飽きさせません。 何より3人のキャラクターが絶妙で、会話だけでも面白くて引き込まれます。

文庫版のみに収録されたという書き下ろし「卒業旅行」まで、楽しませていただきました。

(2010.11.13)


第九の日/瀬名秀明 (光文社文庫)

★★★  

ケンイチとレナのロボットミステリシリーズ、短編集。

「デカルトの密室」 で初登場したケンイチとレナですが、その中で触れられていた「最初の事件」 が、この作品集に収められた「メンツェルのチェスプレイヤー」がその事件だったんですね。

人間とは、ロボットとは、心とは、といった哲学的な問いに対する思考実験なんですかね。 正直難し過ぎて、途中からついていけなくなりましたが…。

(2010.11.13)


北村薫のミステリびっくり箱/北村薫 (角川文庫)

★★★  

江戸川乱歩が「探偵作家クラブ」の会報に残した足跡を追い、 毎回1つのテーマに対して専門家とミステリ作家をゲストに迎えて送る、対談集。 お題は「将棋」「忍者」「手品」「落語」「嘘発見器」などなど。

北村さんのミステリに対する愛が溢れた対談集。歴史的な興味と、 普遍的なミステリに対する興味と、両方を満たしてくれます。

(2010.10.28)


いのちのパレード/恩田陸 (実業之日本社文庫)

★★★  

3ヶ月ごとに掲載されていた短編14編に、書き下ろしの1編を加えた、 恩田版「異色作家短編集」。

ジャンルもホラーからファンタジーからミュージカル(?)まで、 多岐に渡ってます。

東西が分断された日本を舞台にした「橋」、
宝くじの当選者を狙うのは誰?「当籤者」、
教え子の衝撃の告白「あなたの善良なる教え子より」、
走り続ける「王国」の正体は?「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」、
人に必要とされなくなった「ひらめき」が向かった先は?「夜想曲」、
などが印象に残りました。

(2010.10.22)


白銀ジャック/東野圭吾 (実業之日本社文庫)

★★★☆ 

「ゲレンデに爆弾を仕掛けた」。 スキー場の客およびスキー場としての評判そのものを「人質」として取る、 前代未聞の脅迫事件。果たして犯人はどうやって身代金を受け取るつもりなのか?

東野さんの好きな「スキー」を題材にした、一風変わった誘拐物。 といっても、人が誘拐されているわけではなく、スキー場そのものが人質に取られている、 という点が変わってます。途中ところどころ感じる違和感や疑問符が、 真相がわかるにつれて氷解していく様は見事。 ラストはちょっととってつけた感が無くも無いですが、 ハッピーエンドは嫌いじゃないです。

(2010.10.15)


ハッピーエンドにさよならを/歌野晶午 (角川文庫)

★★★  

短編集。11の作品が収録されていますが、中にはショートショートといってもいい作品も含まれてます。 そしてタイトルどおり、ハッピーエンドにならない作品ばかり。 特にショートショートほどブラックなオチが用意されてます。 ジャンルもミステリからホラーからサスペンスから豊富で、 オチでサプライズが用意してある作品もあり、 ベテランならではの「技」を堪能できる作品でした。

(2010.10.09)


聯愁殺/西澤保彦 (中公文庫)

★★★☆ 

連続無差別殺人事件で、唯一生き残った梢絵。なぜ自分は狙われたのか? 犯人の身元もわかっているのに、その行方も、動機もわからないまま4年が過ぎ、 彼女が頼ったのはミステリ作家や警察OBなどで構成された推理集団「恋謎会」だった…。

西澤流、「毒入りチョコレート事件」+ミッシングリンク物。 一見何の関係も無さそうな被害者たちの共通点は何だったのか? 様々な仮説が構築されては壊されていきます。

しかしこの作品の本領はそんな「本格っぽい枠組」を易々と壊してしまう解決編にて発揮されます。 読み進めていくうちに細かく積み重なってきた伏線や疑問符が一気に解消する様は、 まさにミステリの醍醐味ですね。

(2010.10.02)


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