★★★
文芸誌「群像」に掲載された、ミステリから離れた作品。 恋愛と小説を巡る、祈りの物語。
SFやファンタジーのような断片的な短編が挟み込まれていますが、 これは主人公の書いた作品の断片ということなんでしょうか。 例によって、奇妙な擬音や、句点抜きでひたすら繋がっていく文とか、 作中の主人公が書いている小説のタイトル奇妙奇天烈なものばかりだとか、 舞城節とも言える表現は健在。
他の作品に比べると、テーマが明確な分メッセージはストレートに伝わってきました。
(2008.06.24)
★★★
大学に通い始めたぼく(語り部)。 クラスメイトの巫女子ちゃんに誘われて、クラスメイト4人の誕生会に参加することに。 しかしぼくと最後に言葉を交わした智恵ちゃんは、翌日死体となって発見された。 一方、京都の街を恐怖に陥れていた無差別連続殺人鬼の正体は、 ぼくを鏡写しにしたような男だった…。
戯言シリーズ第2弾。なるほど、基本パターンが段々つかめてきました。 探偵役であるぼくは、真相自体は早い内に見抜いているのに、それを積極的に解決しようという意思がないんですね。 事件の構造自体に探偵役が取り込まれてしまう後期クイーン問題みたいな側面もあるんでしょうか。 で、一応の決着をみるものの、最後に最強の請負人が全てを引っくり返して去っていく、と。
しかし本来もっと重い話になりそうなところ、出てくる人物がエキセントリックな奴ばかりなので、 そこら辺が中和されているような感じもしました。
(2008.06.22)
★★★☆
21歳の久里子は、特に目的もないままファミレスのバイトに明け暮れる毎日。 いつもファミレスの決まった席に座る国枝老人と、ひょんなことから知り合いに。 会う度に印象の変わる国枝老人には、意外な秘密が…。
近藤史恵先生の新シリーズ。フリーター久里子の一人称で語られます。 探偵役の国枝老人自身がとても謎が多き人物、という点がちょっと変わってます。 特に第3話で明かされる衝撃の真実。 これは、シリーズ化は無理なんじゃ?と思いましたが、 続編もあるようですね。
(2008.06.15)
★★★
ヒト型ロボットが実用化された社会を舞台に、 「知能とは何か?」「人間と機械との境界は何か?」という問題を解き明かそうと様々な試みが行われる、 瀬名先生得意の「最先端科学をモチーフにした、ちょっとフィクションSF」。
チューリングテストやら、中国人の部屋、と言った、人工知能に関する様々な話題が出てくるので、 一種の情報科学系読み物としても楽しめます。しかし後半、話が哲学の方へ及ぶと、 さすがについていけなくなるかなあ。「物理的制約を超えたネットワーク上で生まれる知能は、 人間の知能を越えるのではないか?」みたいな思考実験は面白かったんですが。
で、この話の中でしきりに参照されている、ケンイチを巡る密室の事件ってのは、 どうやらアンソロジー「21世紀本格」の中に収録されている模様。 これ、まだ文庫落ちしていないみたいですね。
(2008.06.12)
★★★★
《古典部》シリーズ第3弾。いよいよ神山高校文化祭、通称「カンヤ祭」が開幕。 古典部では文集「氷菓」を売ることにしたのだが、手違いで200部も発注してしまった。 何とか売るために奔走する古典部の4人。しかしそんな中、 各クラブでどうでもいい物が盗まれれ、犯行声明文が置かれて行くという連続盗難事件が。 この事件を解決して古典部の知名度を上げることはできるのか。
好奇心の塊・千反田える、省エネ主義・折木奉太郎、データベース・福部里志、 漫研兼任・伊原摩耶花。4人のそれぞれの一人称で書かれているパートが交互に訪れるのが新鮮。 各人が一体どんなことを考えて、どんな行動を取っているのかがよくわかります。 特に千反田えるパートは、なるほど、こんだけ色々関係ないことを考えていたら、 傍目にはおっとりしているように見られるだろうなあ、と。
さて、このシリーズ始まった時からの大きなイベントであったカンヤ祭も無事終わったわけですが、 まだこのシリーズは続くんですよね。人間関係の発展も含めて楽しみです。
(2008.05.25)
★★★
メフィスト賞受賞作家・佐藤友哉の、「新潮」誌に掲載されたという、 ちょっとミステリとは違った趣向の短編集。
「ぼく」が転入してきた神戸の小学校で行われていたゲーム。それは、 異形の連続殺人鬼・牛男の次の犯行を予測し合うことだった。 しかしゲームはやがて意外な展開を見せ…。《表題作》
表題作を初めとして、「子供たち」がテーマの短編6編を収録。
兄弟3人だけの閉じた世界とは?《大洪水の小さな家》
悲運の死を遂げた少女の美しい死体が招くあまたの死《死体と、》
教室で突然始まった大虐殺。4人の高校生に理由なんてなかった。《慾望》
どんな絶望も人形と一緒の6歳の僕を潰すことはできない。《生まれてきてくれてありがとう!》
苦痛から人形になることで逃げてきた少女が戦いを決意した時…《リカちゃん人間》
《鏡家サーガ》シリーズでも時折見られる異常性や残虐性の成分を抽出したかのような作品の数々。 痛くて救いの無い感じの作品が多いです。 ミステリというフィールドから飛び出したということで、 今後の幅の広がりに期待したいですね。
(2008.05.22)
★★★
目が覚めたとき、仮面をつけた男がベッドにいた。 「私」は自分が何者かわからないまま、何とか状況を把握しようとするのだが…。
主人公が記憶喪失となっていて、アイデンティティ含めて回復する、というタイプのミステリ。 しかしそのパートナーとなる男性が、よりにもよって前向性健忘(10分程度前の短期記憶を覚えてられない症状)だから事態はややこしい。
というわけで、かなり恣意的に複雑なシチュエーションにおける「私」を巡る物語なのですが、 当然のごとく散りばめられた断片には罠が仕掛けてあり、一筋縄ではいきません。
でもちょっと捻りすぎて正直何だかなあ、と感じてしまいました。 トリックにこだわり過ぎていて、肝心のプロットがいまいちのような。
(2008.05.20)
★★★☆
不思議な力を持つ「常野の一族」が登場する、常野物語シリーズの一つ。 今回は短編ではなく、20世紀初頭のある村を舞台に、少女だった一人の女性の回想録、という形を取っています。
「お屋敷」の旧家の末娘・聡子は、病弱なため大人になるまで生きられないと言われていた。 そんな聡子様の話し相手として選ばれた峰子は、お屋敷に出入りする様々な人々と関わっていく。 そんな時、お屋敷を訪れた4人の家族は、他の人々とは異なる力を持っていた。 そしてそれは聡子様にも…。
少女時代の描写が余りにものどかで幸せそうに描かれているがために、 エピローグが切な過ぎます。本当に幸せなこととは何なんだろう、とか考えさせられますね。
(2008.05.20)
★★★
経理課一筋37年で警視庁を定年退職した木野塚氏は、ハードボイルド探偵に憧れ探偵事務所を開設する。 しかしグラマーな秘書を、と思っていたのに、来たのはボーイッシュな桃世。 殺人事件を!と思っていたのに、来る依頼は、金魚の誘拐やら、犬の恋煩いやら、ばかり。 ハードボイルドを目指す木野塚氏に、明日はあるのか?
樋口有介さんの「ハードボイルド・パロディ」シリーズ。 ハードボイルド自体をパロディにしています。 いつも見当違いの推理をして、真相は桃世が解決、というパターンも面白い。
連作短編になっていて、実は桃世の正体は…みたいな展開もあったり。 次作にどうやって繋がるのか、楽しみです。
(2008.05.18)
★★★
17歳の高校生・葉山が迎えた夏休み。田中くんや、親戚の晶子、加藤さん、 気だるい夏休みは過ぎていく・・・。
ノスタルジックな青春小説。主人公のキザなセリフが、とても高校生には思えないけど、 何とも樋口有介的だなあ、と思いました。
(2008.05.11)
★★★
猿若町捕物帳シリーズ第3弾、初の連作短編集。 3つの短編が入ってますが、千蔭の十五歳下の義母・お駒の従姉妹であるおふくを巡る、 一冊通じての仕掛けもあり、連作短編としても楽しめる構成になってます。
女形・巴之丞などのレギュラーキャラがヒントをくれる、という展開もおなじみ。 シリーズを通しては、花魁の梅ヶ枝の本意がどこにあるのかも気になるところですね。
(2008.05.06)
★★★
行方不明の父を探すため、女子高生・美波は今日もアルバイトに精を出す。 武熊さんの紹介で「寝ているだけで一晩五千円」というおいしいバイトに飛びついたものの、 やっぱりそんなにうまい話はないわけで…。なんと密室殺人事件の容疑者に。
元はライトノベルらしい「激・アルバイター 美波の事件簿」シリーズの第一弾。 主人公・美波は、気が弱くついついとんでもないバイトを引き受けてしまい、 事件に巻き込まれる女子高生。親友の直海は、刑事を父に持つチャキチャキの江戸っ子娘で、 直感で推理を思いつくタイプ。もう一人の友人かの子は、ミステリマニアのお嬢様で、 古今東西のトリックに精通している。 ピンチに陥った美波を助けようと間違った推理を披露しまくる二人。 探偵役は隣に住む「美波の天敵」・大学生の修矢。この面々がレギュラーのようです。
ライトながら、ミステリとしては本格のフォーマットに則ってます。 ちょっとキャラクター達があまりにも類型的過ぎるきらいはありますけど、 まあ軽く読む分にはありかな。
(2008.05.05)
★★★
7編の短編を収録したSF短編集。
アキバ系カップルに世界崩壊の危機が迫る「シュレディンガーのチョコパフェ」。 サイボーグとなった男の悲哀を描いた「奥歯のスイッチを入れろ」。 生体ロケットに隠された秘密とは?「バイオシップハンター」。 物質文明を超えたところにある言語文明とは?「メデューサの呪文」。 ついに可能となったタイムトラベルだったがそれは人類滅亡への序曲だったのか?「まだ見ぬ冬の悲しみも」。 人の意識とは何なのか?「七パーセントのテンムー」。 SF作家たちはどこからその着想を得たのか?「闇からの衝動」。
どれもかなりハードでコアなSFネタを扱ってます。 「まだ見ぬ冬の悲しみを」なんかオチに繋がる理屈がよく理解できなかったり…。 それでも面白かったですけど。
(2008.05.04)
★★★
ガールズ・ブルーの続編。 理穂たちも高校3年になり、進路を決める時期を迎えた。 しかし夏休みが終わっても決まらない理穂。 果たして彼女たちの選択は?
会話ベースで、どんどん話が逸れていくところが味ですね。 ついにカッコの中で段落変えたよ!
意外と身持ちの堅い理穂、相変わらず一途な睦月、 何も考えていないようで実は結構考えていた如月、 皮肉屋な割にまんざらでもなさそうな美咲、 それぞれの今後も気になりますが、続編はあるのかな?
(2008.04.29)
★★★
シリーズ全体:★★★★
「スカイ・クロラ」シリーズ、最終巻。全ての謎が解き明かされる……のか?
時系列的には、この「クレィドゥ・ザ・スカイ」から、第1巻の「スカイ・クロラ」に繋がるわけですが……一番謎が多い。 このシリーズ、主人公はクリタ・カンナミ・クサナギ、と3人いたわけですが、 最大の謎は、この「クレィドゥ」の「僕」は一体誰なんだ??という点でしょうか。 まだ読み返していないから何とも言えませんが、 どうも誰か一人だと仮定すると、どこかで矛盾が起きそうな感じですね。 鍵はどうやらキルドレの特殊性にありそうな感じ。 記憶や人格の一部が移植できるとか、そんな設定があったりするんでしょうか。
長編シリーズとしてはこれで終わりですが、短編がいくつか出る計画があるようで、 そちらを読めば謎が解けるんでしょうか。益々謎が深まったりして…。
(2008.04.26)
個々の巻を単体で読むと色々と不満も多いのですが、 シリーズ通して読むと、何と言うか、雰囲気というか、世界観というか、 そこら辺の統一感が何とも完成度が高くて、心地よいですね。 また、時系列的に完結編に当たる「スカイ・クロラ」を一番最初に持ってくる叙述的な仕掛けや、 一人称でありながら毎巻ごとに主人公が交替する主観による仕掛け、 さらにはそこを逆手にとって「クレイドゥ・ザ・スカイ」では主人公は誰なのか?という謎など、 ミステリ的な仕掛けもシリーズを通して見るとよく出来ていてるなあ、と感じます (謎は残るんですけど)。 そういう意味で、シリーズ全体としての評価は、単体での評価よりも高くなりますね。
(2008.05.05)
★★★
鏡家サーガ第3弾。次男、鏡創士のターン。
と言っても、語り手は、鏡創士ではない、3人。 鬱屈した生活を送るフリーター、 狂気の檻に囚われた画家、 世界に満ちた悪意と戦う小学生。 全く接点の無い3つの視点が、やがて絡み合っていく構成は想像通り。 しかしそこには当然のごとく仕掛けが施されています。
しかし鏡創士、途中まではかなりまともな人物として描かれているんですが (いや、もちろん性格は鼻持ちならないんですが)、 やっぱり鏡家の人間だったか…。
(2008.04.22)
★★★☆
怪笑小説・毒笑小説に続く、 東野圭吾さんのユーモア短編集第3弾。
作家と編集者を巡る冒頭の連作短編4編に始まり、エロやらSFやら心霊やら、 ジャンルを問わない短編が揃ってます。 中では、やはり冒頭の作家連作、特に「選考会」が出色の出来でした。 「笑わない男」のオチの決まり方も素晴らしい。 「シンデレラ白夜行」のセルフパロディっぷりも良かったです。
(2008.04.22)
★★★
絶海の孤島「鴉の濡れ羽島」。島の主人・財閥令嬢の赤神イリアに招待された5人の天才達。 その中の一人、天才・技術屋の玖渚友の付添いでやってきた語り部のぼく(いーちゃん)。 一癖も二癖もある連中ばかり集まった中、やがて首切り死体が…。
「戯言シリーズ」文庫化開始。これから隔月で続々と文庫化されるようです。 テーマは「天才」なんでしょうか。 まあとにかく出てくるのが、変人というか普通の感覚じゃない連中ばかり。 語り部の「ぼく」が一番一般人視点に近いんだろうけど、 それでもかなり屈折しているし、なんかとんでもない過去もありそうだし…。
メイントリックはなかなか大胆だなあ(色んな意味で…)と思いました。
(2008.04.19)
★★★☆
ジュブナイル向けの徳間デュアル文庫で刊行されていたマリオネット症候群に、 書き下ろしの「クラリネット症候群」を収録した中編集。
多分、語感だけでタイトルは決めたんでしょうが、ちょっとしたSF展開がアクセントになっている、 なかなか骨太な暗号ミステリになってました。 切羽詰った展開なのに、どこか緊張感の無いやり取りも良いですね。
しかし後書きで「著者の特異な女性観の反映と思われる一定のバイアスがかかっており、 それが独特の味わいになっていることは否定できない。」って、やっぱり突っ込まれてるなあ。
(2008.04.15)
★★★
ブライダル情報サービス会社「グロリフ」は、恋愛相手の相性を数値で選び出すGP(グラフィック・フェロモン)理論に基づく科学的なシステムを導入していた。 ところが最高のカップルと見做された者同士の間でトラブルが続出。 果たしてGP理論の奥に隠された秘密とは何なのか?
超科学ミステリを得意とする北川さん、今回は異性間の相性を数値化するGP理論という設定を持ち出して来ました。
しかしこの話、冒頭の謎はなかなか魅力的なんですが、そこから事態はどんどん転がっていき、 推理が組み立てられては壊され、また新たな証言が出てきて…という具合で、 最初の謎は完全に吹っ飛んでしまうんですよね。 出てくる人物みんな信用ならないし。 これだけファミレスの場面ばっかり出てくるミステリも珍しい。
このどんでん返しの連続は、連載作品だったことと関係あるんでしょうが、 個人的にはちょっとやり過ぎ感が。あまりに色々と詰め込み過ぎて、 結局主題がぼやけてしまった感が否めませんでした。
(2008.04.12)
★★★
QEDシリーズ。今回は岡山に飛んで、凶事を知らせ、鳴ると主人が死ぬという大釜にまつわる密室殺人事件、 および民話の桃太郎に隠された秘密を暴く、という構成。 最初に章タイトルを見た時に、頭文字がA,T,C,G,Uになっているから、 これはDNA絡みなのかな、と思ったら予想通りでした。
例によって現実の事件の方はかなり強引。テーマに絡めつつ、不可能犯罪を構成するのは大変だとは思いますが。 今回、探偵役のタタルが最後になるまで登場せず、 しかも来て話を聞くなりいきなり解決してしまうので、 いくらなんでもその安楽椅子探偵ぶりはないだろう、とも思ったり。
奈々との仲もちっとも進展しませんね。まあ、進展させてしまうと終わってしまうので、 そういうわけにもいかないんでしょうが。妹の沙織が出るようになってから、 大分そこら辺のツッコミが厳しくなっては来ましたが。
(2008.04.01)