★★★
「タイムスリップ」シリーズ。今回は香葉子とうららが平安時代へタイムスリップ。 ただし、今までのタイムスリップと違い、体ごとタイムスリップするのではなく、 それぞれ紫式部と清少納言の精神へと入り込んでしまう、 リプレイタイプのタイムスリップとなってます。
正史では死ぬはずではなかった藤原道長の密室殺人事件を解き明かす、 というのがストーリーの縦糸。そこに、源氏物語で、書かれたけど幻となったのではないかと思われる章や、 題名だけで中身の無い章の謎などに、鯨先生独自の解釈を加えた説が繰り広げられます。
歴史改変を巡る2大勢力の争い、みたいなのよりは入り込みやすいですかね。
(2013.12.26)
★★★
「都会のトム&ソーヤ」シリーズ第2弾。 マラソン大会の途中で抜け出して、映画研究会の作った応募用のフィルムを届ける 「大脱走 THE GREAT ESCAPE」と、TVの企画で幽霊屋敷に潜入した二人を襲う謎 「深層の令嬢の真相」の2本の中編に、番外編「栗井栄太は夢をみる。」 と「保育士への道 THE WAY OF THE HOIKUSHI」を収録。
「究極のゲームを作る」という目的は一応忘れてはいないようですが、 なんかそこに向かって進んでいる感はあまりないですね。
創也が、「天才少年」から段々と天然大ボケキャラに変わっていってますね。
(2013.12.22)
★★★☆
講談社「ミステリーランド」向けのジュブナイル作品。 登場人物も小学生で、小学生の身の回りの冒険が描かれています。 しかし、そこには一味苦い隠し味が……。
5年生になった高見森(しん)は、父の転勤で北九州の社宅へと引っ越してきた。 腕白が過ぎて乱暴者扱いされてきた森は、友達なんか必要ない、くらいのつもりでいたのだが、 隣のココちゃん、竹ちゃん5兄弟、黙っていれば美少女なのに喋ると訛りで台無しのあや、 そして謎の少年パック。社宅に住む子供たちとパックの間には大きな秘密があり……。
表面的な謎や事件は軽目でいかにもジュブナイルなんですが、 その裏に潜む秘密が重いですね。こういう名探偵の姿もあるのか、という感じです。 続編は、いずれ書かれるでしょう。
(2013.12.18)
★★★
乙一の「ホラー作家名義」である山白朝子のデビュー作。
「怪談」のカテゴリになるんでしょうか。「乙一」名義作品でもホラーっぽい作品は多かったですが、 より「投げっぱなし」感が強いかも知れません。中でも一番不条理感が強いのが「鬼物語」でしょうか。 逆に一番ミステリっぽいのが「鳥とファフロッキーズ現象について」ですかね。 「黄金工場」は、「世にも奇妙な物語」でヴィジュアル化もできそうな感じ。
(2013.12.15)
★★★★
長崎県五島列島のある中学校の合唱部。産休に入る顧問の音楽教師の代理でやってきた美人ピアニスト柏木を目当てに、 それまで女子しかいなかった合唱部に男子が入部した。 練習を真面目にしない男子と対立が深まる女子。 柏木は、NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)を目指して課題曲「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」にちなみ、 十五年後の自分に向けて手紙を書くように部員たちに宿題を課した。 出産と共に死んだ母を捨てて愛人の元へ逃げた父のせいで男性不信な女子中学生・ナズナ、 自閉症の兄を持ち教室ではいつも透明になろうと心掛けている「ぼっち」の達人・サトル。 2人の視点で語られていく。
ところどころに挿入される「十五年後の自分に向けた手紙」が、 伏線にもミスリードにもなっていて、ミステリ的な演出を強めていますね。 登場人物も個性豊かで楽しめます。サトルが報われる展開がいいですね。
著者紹介みたところ、「中田永一=乙一」ってのはオープンになったんですね。
(2013.12.15)
★★★☆
中田永一2番目の作品集。
「百瀬、こっちを向いて。」では、基本的に高校生が主人公でしたが (体は21歳でも心は16歳のまま、というのも含めて)、 こちらはもう少し大人になった話も多くなってますね。
また、「交換日記はじめました!」の和泉遥とか、「吉祥寺の朝比奈くん」の朝比奈くんとか、 ちょっとダメ人間っぽい人が出てくるのもいいですね。
ミステリ的趣向も相変わらず凝らされていて楽しめます。
(2013.12.08)
★★★★
中田永一初の作品集。「百瀬、こっちを向いて。」「なみうちぎわ」 「キャベツ畑に彼の声」「小梅が通る」の4編を収録。
どれも青春の1ページが切なく、時に痛くなるほど描かれています。 会話のやり取りも軽妙で切れがありますし、 ミステリ的な趣向も凝らされていて飽きさせません。 さすが○○先生……って一応覆面作家ということになっているらしいのですが。
(2013.12.03)
★★★☆
大学の研究施設から盗まれた「生物兵器」。雪山に埋められたそれは、雪が融け、 気温が上昇すれば空気中に散乱し、人々を死に至らしめる代物だった。 「埋められた場所を知りたければ3億円を支払え」 しかし事件は思わぬ展開を見せ……。文庫書き下ろし。
身代金の受け取り方がポイントになるタイプのミステリか……と思って読み進めていくと、 犯人が事故死してしまう、という展開に驚愕。まあ、そういうことも無くは無いだろうけど。 そしてどこに埋められていたのかわからない状態から探すハメになる、という展開に。 登場人物それぞれの思惑が絡み合って、次から次へと思いがけぬ展開になるところはさすがです。
(2013.11.28)
★★★★
Webで素人の小説を募集して、それを乙一がリメイクするという企画、 「オツイチ小説再生工場」で生まれた6編の作品を収録。
どれも仕上がりは乙一先生らしい仕上がりになってます。 「小説家のつくり方」「青春絶縁体」のイタい感じとかとっても乙一っぽですね。 「コンビニ日和!」はコメディですし、「ワンダーランド」はかなりホラーチック。 「王国の旗」は主人公の冷めた感じがいいアクセントになってます。
そしてラストの「ホワイト・ステップ」は、白乙一らしさの集大成ともいうべき作品。 パラレルワールドものなんですが、とても読後感を爽やかなものにしてくれてます。
活字中毒の潮音さんが色々と絡んできて良いですね。
(2013.11.24)
★★★
かつて暴力と恐怖で「覇王」として君臨した祖父。今は亡き祖父の直系として、 「覇王」を目指していたはずの「僕」は、いつしか「肉のカタマリ」に堕していた。 19歳となった「僕」の全力の反撃が始まるのだが……。
「覇王」にならなくては、という思いに反して、肉体労働に励み、 妊娠した妻と少女の待つ家に帰って食べて寝る日々に満足してしまっているところは、 焦燥感と満足感のギャップが相まって、切羽詰っているはずなのに笑えます。
(2013.11.20)
★★★☆
「謎解きはディナーのあとで」の続編。ブームが続いているうちに売ろう、 という出版社の魂胆なのでしょうか、単行本から文庫化までの時間が短くて、 文庫派には助かります。
段々と執事の影山に対する毒舌の身構えが出来てきた麗子。 しかしそんな麗子の意表を突くタイミングで不意に繰り出される毒舌に、 段々とリアクションも大きくなってるのが笑えます。
基本影山は、話を聞くだけで推理する安楽椅子探偵物のフォーマットですが、 今回は、聞き込みをしていた喫茶店にいたり、犯行現場を麗子と見に行ったり、 と活動的な面も見せています。
(2013.11.17)
★★★★
古い写真館付き住居に引っ越してきた花菱家。その長男・英一は、 ひょんなことから、持ち込まれた「心霊写真」の謎を解く羽目になる。 謎を解くことになった英一は、やがて封印していた家族の問題と向き合うことに……。
全4話からなる物語。出てくるキャラクターが皆活き活きとしていますね。 心霊探偵モノ?かと思いきや、家族の問題と向き合うエピソードが積み重ねられていて、 最後はそれらが見事に繋がる構成にうならされます。読後のせつなさ感も甘酸っぱいですね。
ドラマでやっていた方を先に観ていたので、セリフが神木隆之介の声で再生されました。 あのドラマも結構重要なところは省かずにやってくれてたんですね。
(2013.11.12)
★★★☆
新人文芸編集者・都。昼間はできる雑誌編集者なのだが、 酒が入ると色々と……。そんな彼女の、酒と校正刷の日々。
お仕事小説の体裁で、文学の薀蓄なんかも散りばめつつ、 しかしやはりメインは酒とつまみでしょうか。 失敗談の数々も含めて、楽しめました。
(2013.11.06)
★★★☆
女性のお仕事応援小説アンソロジーの第3弾にして完結篇。 今回のお仕事は「美術品輸送・展示スタッフ」「災害救急情報センター通信員」「ベビーシッター」 「農業」「イベント会社契約社員」「新幹線清掃スタッフ」。
今回も作品間のリンクがところどころに見られるところが面白いですね。 「農業」のヒロインはゑいさん86歳で、今シリーズ最高齢です。
(2013.11.03)
★★★☆
極北クレイマーの続編。 救急診療を辞めた極北市民病院と、極北市・雪見市の救急診療を一手に引き受ける極北救急救命センター。 ドクターヘリは、崩壊寸前の地域医療を救うことができるのか?
盛りだくさんな内容。第1部は、今中視点で地域医療の問題点を描写。 第2部は、「将軍」速水の取り仕切る救命救急センターを今中視点で描写。 第3部は、ドクターヘリを巡る優先順位の問題を、パイロット・CS・ドクター・ナースそれぞれの立場から議論させ、 第4部では、ドクタージェットのトライアルフライトを通じて、「再生請負人」世良先生自身の再生の物語を。
盛りだくさんな内容で、テーマがちょっとぶれてしまった感もありますが、 色々な問題があることはよくわかりました。
(2013.10.29)
★★★
常に執事やメイドや運転手を連れ、「貴族探偵」を名乗り、 自身は紅茶を飲みながら女性を口説き、執事たちの集めたデータを元に推理を始めるのかと思いきや、 推理すら配下の者に任せて終わり、という異色の貴族探偵が活躍(?)する短編集。 5編を収録。
「こうもり」に使われている叙述トリックは、一読ではわかりませんでした。 なるほどなあ……。 一般的に叙述トリックは、「叙述トリックが使われている」 ということ自体がネタバレになってしまうので、普通はこんなこと書けないんですが、 今回のこれに関しては書いたところでネタバレにはなり得ないかと。
(2013.10.23)
★★★☆
もしきのうに戻って一日をやり直せたら……そんな7つのシチュエーションを集めた連作短編集。
蘇部さんの作品を読んだことある人ならば想像ついていると思いますが、 話は全て独立というわけではなく、話同士がリンクしてます。 大きく3つの話に収束するのかな?
(2013.10.20)
★★★
10年ぶりに送られてきた高校同窓会名簿で、同級生だった奏絵の住所が消えた。 その瞬間、鳴沢は連続殺人鬼と化した。彼の計画の目的は一体何なのか……?
単行本時タイトル「彼女はもういない」を改題。 殺すに続く、城田理会警視シリーズ第2弾。 連続強姦殺人事件が倒叙形式で記述され、犯人も犯行方法も読者にはわかっているのに、 肝心の動機、どうしてそんなことをするのか?というのがさっぱりわからない、 という状態で、犯人サイドと警察サイドの描写が積み重ねられていきます。
相変わらずのぶっとんだ執着心から来る動機と、それをさらに覆す驚愕の結末。 西澤保彦さんのダークサイドが存分に発揮された作品ですね。
(2013.10.19)
★★★☆
真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた……。
……というたった7行のあらすじから生まれた2つの物語。 有川浩による小説版と、 成井豊によって舞台化された演劇版……に着想を得て執筆された「Parallel」版の2本を収録。
同じあらすじから、こんなにも違う物語が生まれるんだ、 という楽しみ方ができます。私の好みは、やはり小説版かな?
(2013.10.13)
★★★☆
「鯉ヶ窪学園高校探偵部」シリーズ短編集……なのですが、今回出てくるのは副部長の霧ヶ峰涼。 多摩川部長・八橋・赤坂の3馬鹿トリオとは絡みません。 代わりに学校そばのお好み焼き屋さんとか、祖師ヶ谷大蔵と烏山千歳の私鉄沿線刑事コンビとか、 お馴染みのキャラクターは出てきます。
短編ながら、捻りが効いていて、真相がわかったと思いきやそこからまた二転三転するアクロバティックなところは、 ユーモアミステリに見せかけながらも本格テイストを忘れない東川先生の持ち味ですね。
次の「探偵部への挑戦状」では3馬鹿との絡みも見られそうなので、楽しみです。
(2013.10.12)
★★★☆
億万長者の老人が森江法律事務所へ遺言書作成の相談に訪れた帰途、 密室状態の袋小路で殺害された。雪の舞った路上には、犯人の物だけでなく、 被害者本人の足跡さえ残っていなかった。 遺言と共に託された一冊の書物には、世界の様々な舞台の謎の物語が綴られていた。 ヴェニスを思わせる水に囲まれた都市を舞台にしたアリバイトリック、 海賊の若き船長と姫を巡る錯誤のミステリ、 北京における裏切り者の錯乱、 アフリカの秘境における幻の鎧武者の襲撃、 西部を舞台にした容疑者である保安官の謎の死、 ドイツを出てアメリカへ向かう飛行船における密室殺人。 これら六つの物語が導く真相とは?
時代も国も全く異なる6つの物語を書くのは大変だったろうな、と思います。 どの物語もそれぞれ魅力的な謎があり、また微妙に残される謎があり。 それらの残された謎が、現代の事件の解決へと繋がる構成は見事です。
(2013.10.08)
★★★★
「グラスホッパー」に続く、殺し屋大集合小説第2弾。
一人息子をデパートの屋上から突き落とされ、その復讐に燃える中年アル中殺し屋の木村、 その息子を突き落した張本人で中学生とは思えぬ悪意の固まりである王子、 文学好きの蜜柑と機関車トーマス好きの檸檬のコンビ、 実力はあるものの信じられないほどツキに見放された何でも屋「天道虫」こと七尾。 東北新幹線「はやて」の中は、東北の実力者「峰岸」の依頼で動く殺し屋たちといくつかの死体で溢れていた……。
「鯨」「蝉」は名前しか出てきませんが、「令嬢」は壊滅させられ、 その「令嬢」のオーナーだった「寺原」を殺したとされる「ススメバチ」は現役、 さらに「押し屋」である「槿」はまだまだ健在であるということで、 「グラスホッパー」や「魔王 JUVENILE REMIX」の読者は、 より一層楽しめると思います。
「Lady Beetle」はテントウムシで、「MARIA」は相方の真莉亜と掛けているとすると、 この小説の主人公はやはり七尾、ということでいいんですかね?
(2013.10.02)