推理小説の部屋

ひとこと書評


私の家では何も起こらない/恩田陸 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

★★★☆ 

小さな丘の上に立つ二階建ての古い家。この家には代々「幽霊屋敷」の噂が絶えず、 さまざまなマニアが訪れる。いわく、アップルパイが焼けるキッチンで殺しあった姉妹、 子供をさらって塩漬けの瓶詰めにしたメイド、 床下の動かない少女の隣で自殺した殺人鬼の美少年、 二階の窓に見える青いドレスの女……。

一つの「家」をテーマにした連作短編集。作品間で補完され合うエピソードが秀逸ですね。 メタな終わり方がいかにも恩田さんらしかったです。

(2013.03.30)


深泥丘奇談・続/綾辻行人 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

★★★☆ 

深泥丘奇談の続編に当たる連作短編集。 前作以上に、好き勝手やっている感が出てます。

特に「ホはホラー映画のホ」とか「ソウ」は、一歩間違えばギャグですけど、 この世界観の中で大真面目にやられると、それはそれでアリなんですよね。 そういう意味で、とても包容力の大きな世界観――のような気がします。

(2013.03.27)


バイバイ、ブラックバード/伊坂幸太郎 (双葉文庫)

★★★★ 

「五股」をしていた星野一彦が、 〈あのバス〉に連れて行かれる2週間の猶予での望みは、 五人の恋人達に別れを告げることだった。 そんな彼の見張り役は、2m・200kgを越えるハーフの大女・繭美だった。

会話の軽妙さがたまりませんね。5人5様の反応も面白いです。 五股でだらしない主人公も、なんというか、生真面目で憎めない性格なので、 コメディタッチながらもほんわかとさせられますね。

(2013.03.23)


隻眼の少女/麻耶雄嵩 (文春文庫)

★★★☆ 

母を殺したのが父だと知り、その父を殺した傷心の大学生・静馬は、 死に場所を求めて栖苅村へとやって来た。そこで出逢ったのは、 牛若丸のような衣装に身を包み、自らを「探偵」と名乗る隻眼の少女・みかげだった。 静馬とみかげは、琴折家の女系継承者「スガル」の後継者を狙った、 連続殺人事件に巻き込まれていく……。

田舎の旧家で起こる連続殺人事件。犯人は身内の中にいる。 探偵役もまた、母親から異能の能力を受け継いだ少女。 と、本格ミステリのフォーマットに乗っ取っているのですが、 浮かび上がる真相はどこかズレた感じなのが、やはり麻耶さんらしいところですね。

第2部と真相を知ると、第1部の絵柄がまるで違って見える構成が見事でした。

(2013.03.21)


シティ・マラソンズ/三浦しをん (文春文庫)

★★★  

三浦しをんさんの「純白のライン」(ニューヨークマラソン)、 あさのあつこさんの「フィニッシュ・ゲートから」(東京マラソン)、 近藤史恵さんの「金色の風」(パリマラソン)、の3作を収録したアンソロジー。 元々はアシックスがWebサイトで募集したキャンペーン向けの書き下ろしだったようです。

テーマはそれぞれ違っているのですが、「走ることに向き合って再生していく」 というところは共通になっているところが面白いところですね。 プロットで言うと、三浦さんが真っ当に♂×♀なところに対して、 あさのさんは相変わらずの♂×♂で、近藤さんは♀×♀になっているあたり、 何とも個性が出ていて面白いな、と思いました。

(2013.03.12)


マドンナ・ヴェルデ/海堂尊 (新潮文庫)

★★★  

ジーン・ワルツと同じ時系列を、 「代理母」であるみどりの視点から描いたもう一つの物語。

娘である「冷徹な魔女(クール・ウイッチ)」理恵のことが、 いまいち理解できず、言われるがままに代理母を引き受けたみどりが、 お腹の子が成長するに従って段々と考え方もしっかりしてきて、 反撃していく様子が面白かったです。

(2013.03.09)


強い力と弱い力/大栗博司 (幻冬舎新書)

★★★★ 

「重力とは何か」に続いて、 強い力と弱い力が発見された経緯、自発的対称性の破れ、 昨年見つかったヒッグス粒子、などについてわかりやすく解説。

いまだに「理論」と呼べるものではなく、さらに未知の謎がまだまだ残っているんですね。 勉強になりました。

(2013.03.03)


獣の樹/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

西暁町で十四歳くらいの「僕」が馬から生まれた。 記憶のない「僕」は「成雄」と名付けられた。 鬣を持っていた「僕」は誰よりも速く走ることができた。 蛇に乗る少女・楡を守るために、成雄は走り続ける。

舞城王太郎作品にしばしば登場する(「SPEEDBOY!」もそうでした)、 鬣を生やして速く走ることができる「成雄」。 福井に神話として伝わる「風神ナルオトヒコ」から取られたらしいですが、 彼が主人公の長編です。

「馬から生まれた」出生の秘密、蛇を操る少女との出逢い、 などファンタジーな展開かと思うと、研究所が現れて、 遺伝子操作によるキメラが登場して、推理する場面があったかと思えば、 テロが勃発して、と先が読めない怒涛の展開。

成雄って、究極生物カーズだよね……。

(2013.03.02)


邪馬台国殺人紀行 歴女学者探偵の事件簿/鯨統一郎 (実業之日本社文庫)

★★★  

「すべての美人は名探偵である」に続く、 「邪馬台国は〜」シリーズの早乙女静香とそのライバル翁ひとみ、 「殺人メルヘン」シリーズの桜川東子の3人の美女が競演するシリーズ。 ウォーキングサークル「アルキ女デス」を結成した3人は、 邪馬台国ゆかりの地を訪れ、歩き、温泉に入り、名物料理に舌鼓を打つ。 しかし必ず殺人事件に巻き込まれ……。

2時間ドラマ・トラベルミステリー「美人学者温泉紀行露天風呂殺人事件」みたいなノリの作品ですね。 事件の真相よりも、途中で披露される歴史の新解釈の方に興味を惹かれたかも。

(2013.02.23)


カッコウの卵は誰のもの/東野圭吾 (光文社文庫)

★★★★ 

往年のトップスキーヤー緋田宏昌、その一人娘の風美は、類まれなるスキーの才能を見せる。 しかし彼は、妻の死を機に、風美が彼の実の娘ではなかったことを知っていた……。

東野さんの初期の「スポーツサイエンスミステリ」に、 「プラチナデータ」の遺伝子を組み合わせたような、 スポーツサイエンスミステリです。

起こる事件の見え方はとても複雑で絡み合っているのですが、 基本登場人物の中に真の悪人がいないのが、 読後感をとても爽やかなものにしてますね。 特に最初は関係者から嫌われまくりの科学者・柚木が、 前半と後半で全く受ける印象が変わってくるのが面白いな、と思いました。

(2013.02.21)


しらみつぶしの時計/法月綸太郎 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

ノンシリーズ短編集。ハードボイルド物のパスティーシュあり、パズルあり、 幻想譚あり、とバラエティ豊かな作品集。 「二の悲劇」のプロトタイプ版となる初期作品をボーナストラックとして収録。

「使用中」……変則密室物。作家自身が力説していたシチュエーションが再現されているところに皮肉を感じますね。
「ダブル・プレイ」……交換殺人をテーマとした倒叙物。一捻りされてます。
「素人芸」……ホラー的展開かと思いきや、ちゃんと論理に落ちるところがのりりんらしいと思いました。
「盗まれた手紙」……古典的テーマに暗号破りのロジックで挑んだ作品。面白かったです。
「イン・メモリアム」……ショートショート。
「猫の巡礼」……現代の幻想譚。猫好きな人にはたまらない?
「四色問題」……パスティーシュにして、ダイイングメッセージ物。
「幽霊をやとった女」……ハードボイルドのパスティーシュ。
「しらみつぶしの時計」……論理パズル。らしい作品です。
「トゥ・オブ・アス」……出てくる探偵が「法月林太郎」なので、??という感じだったのですが、プロになる前の初期作品だったということで納得。

祥伝社文庫から出るのは「二の悲劇」以来らしいです。どんだけ寡作なんだか……。

(2013.02.17)


山手線探偵2 まわる各駅停車と消えた初恋の謎/七尾与史 (ポプラ文庫)

★★★  

「山手線探偵」の続編。 初恋の人に似た小学生を探して欲しいというおばあちゃんの依頼を受けた「やまたん」は、 70年前の事件の真相を暴くことになる。

伏線が非常にわかりやすいので、真相は途中で読めてしまったのですが、 健三のキャラクターも含めて色々とツッコミどころ多い連中が揃っているので、 楽しく読めました。

(2013.02.09)


重力とは何か/大栗博司 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

四つの力のうち、最も弱く、いまだにしかし統一できていない「重力」について、 最新の研究を含めて解説。

マクロな一般相対性理論と、ミクロな量子力学とが融合して、 超弦理論へと発展していく様は面白いですね。

(2013.02.09)


堀アンナの事件簿2 安楽椅子探偵と16の謎/鯨統一郎 (PHP文芸文庫)

★★★  

「堀アンナの事件簿」の続編。 前作は「A」〜「G」までの短編集でしたが、 今作は「H」から一気に「W」までのショートショートに。 内容も日常の謎から殺人事件まで、バラエティ豊かです。

何かもう色々決着ついたっぽい感じもするんですが、 残る「X」「Y」「Z」もいつか書かれるんでしょうか。

(2013.02.09)


今宵、バーで謎解きを/鯨統一郎 (光文社文庫)

★★★  

「九つの殺人メルヘン」「浦島太郎の真相 恐ろしい八つの昔話に続く、 桜川東子とヤクドシトリオの酩酊安楽椅子探偵シリーズ第3弾。 今度のモチーフはギリシャ神話。

事件説明前のマスターたちヤクドシトリオの会話が、 シリーズを重ねるごとにどんどんくだらなくなっていくような……。

今後もシリーズが続くとして、収録話数が9→8→7、と減ってきているので、 菜9弾になると1話収録(つまり長編?)でおわってしまうんでしょうかね。

(2013.02.05)


植物図鑑/有川浩 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません、躾のできたよい子です―ー」
思わず拾ってしまった行き倒れのイケメンは、家事万能のスーパー家政夫で、 しかも重度の植物オタクだった。そんな「イツキ」との奇妙な同居生活が始まった……。

植物の豆知識もですが、何と言っても作られる料理が美味しそうですね。 そして有川さんならではの甘々ラブコメぶりっは相変わらずで、 ほんわかとさせてくれます。

(2013.01.30)


QED 出雲神伝説/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ、ラス前。「出雲」といえば島根、という常識を覆す謎に迫る。

密室殺人もあるんですが、それは完全なるおまけという感じで。 いつも通りなんですが、タタルと奈々の関係に少しは進展があったんでしょうかね? ラストの「flumen」が、何とも思わせぶりな未来を提示しています。 完結編が楽しみです。

(2013.01.27)


美女と竹林/森見登美彦 (光文社文庫)

★★★  

幼い頃から竹林に魅せられていた森見登美彦氏が、竹林経営を夢見て竹林に挑む。 さらに竹林と美女とは等価交換可能という法則を打ち出し、 本上まなみさんとの対談まで実現させる。登美彦氏の妄想に歯止めはかかるのか?

竹林をテーマにした連載、ってのもかなり無茶ですよね。 竹林を刈りに行けない状態で、ひたすら妄想力だけで突っ切る力技が凄いです。

(2013.01.24)


みんなのふこう〜葉崎は今夜も眠れない/若竹七海 (ポプラ文庫ピュアフル)

★★★☆ 

葉山のローカルFM局・葉崎FMで放送される人気コーナー「みんなの不幸」に、 毎月送られてくる不幸な17歳の女の子・ココロちゃんの近況。 天然でドジで常に災厄を呼び寄せるココロちゃんは、 しかし前向きでめげない性格で、いつしか「みんなの不幸」の人気キャラとなっていた。 しかしココロちゃんの災厄絡みで巻き込まれるのは悪人ばかりで、 次から次へと新たな悪事が暴かれていき……。

ココロちゃんの予測不能な不幸の連鎖ぶりに最初は笑ってみていられるのですが、 段々と裏に悪意の存在が感じ取られて笑えなくなって来ます。 しかし次から次へと息もつかせぬ展開であっという間に読めました。 葉崎は色々と退屈しない街ですね……。

(2013.01.09)


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