推理小説の部屋

ひとこと書評

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―／上遠野浩平×荒木飛呂彦
賢者の贈り物／石持浅海
スナッチ／西澤保彦
Rのつく月には気をつけよう／石持浅海
君の望む死に方／石持浅海
スコーレNo.4／宮下奈都
きのうの世界(上)(下)／恩田陸
図書館戦争シリーズ(6) 別冊図書館戦争II／有川浩
QED 諏訪の神霊／高田崇史
モンスターズ／山口雅也
ZOKURANGER／森博嗣
数学的にありえない(上)(下)／アダム・ファウアー
単純な脳、複雑な『私』／池谷裕二
図書館戦争シリーズ(5) 別冊図書館戦争I／有川浩
荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論／荒木飛呂彦
ねじまき少女(上)(下)／パオロ・バチガルピ
チヨ子／宮部みゆき
チョコレートコスモス／恩田陸
SPEED／金城一紀
儚い羊たちの祝宴／米澤穂信

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―／上遠野浩平×荒木飛呂彦 (集英社)

★★★☆　

ジョジョ25周年／荒木飛呂彦30周年企画、〝VS JOJO”シリーズ刊行第1弾。第1弾は上遠野浩平、舞台は第5部。ブチャラティ達と袂を別ったフーゴのその後は？

本誌登場時、「ウイルス散布による一撃必殺」という、とても味方とは思えない能力に、「一体どうやって活躍させるんだろうか」という読者の心配はやはり的中し、一戦しただけであっさりと仲間の座から退いたフーゴ。その後、ディアボロを倒し、ボスの座に就いたジョルノから、フーゴへとある依頼が…。

全体的に、フーゴへの愛に溢れる作品になってました。登場するオリジナルのスタンド能力も、なかなか工夫されていて楽しめました。

このシリーズ、第2弾は西尾維新、第3弾は舞城王太郎で続くようです。

(2011.09.30)

賢者の贈り物／石持浅海 (PHP文芸文庫)

★★★☆　

「金の斧銀の斧」や「シンデレラ」など、誰もが知る童話をモチーフにした、現代の日常ミステリを集めた短編集。共通するのは、黒い長髪が似合うしとやかな女性・磯風さん？

日常の謎系のミステリを、限られた手掛かりから推論を重ねて、真相に辿り着く、という、展開です。なぜかどの作品にも脇役（でも重要な役）として「磯風さん」という女性が登場しますが、風貌は共通しているものの、学生だったりOLだったりシングルマザーだったりと様々。ただ、彼女の存在によって、「連作短編集」として一本筋を通している感はあります。

(2011.09.28)

1977年、婚約者に会いに高知を訪れていた22歳の奈路充生は、銀色に輝く奇妙な雨にうたれ、意識を失う。再び目を覚ました時、31年の時が経過し、体は別の人格に乗っ取られていた。銀色の雨は、皮膚から入り脳を奪う異種生命体だった。高知を中心に数百万の人が人格を奪われ、「ベツバオリ」と呼ばれ、元の人格が目覚める状態を「サシモドシ」と呼ばれるようになった。「サシモドシ」によって受けたストレスにより体に癌が発生し、命を落とすベツバオリがほとんどであるという。果たして奈路達は、このピンチを乗り越えられるのか？

人格を奪う宇宙人なのに、免疫力が低くて、やたらと健康的な食生活をしているのが面白かったです。突飛な設定ですが、起こる連続殺人もちゃんとベツバオリが絡んでいて、一本筋が通ってます。

しかし神麻嗣子シリーズ以外のノンシリーズのSF新本格って、かなり久しぶりな感じがします。

(2011.09.19)

Rのつく月には気をつけよう／石持浅海 (祥伝社文庫)

★★★☆　

長江と熊井、夏美の3人は大学時代からの飲み仲間。うまい酒と肴、さらに最近はゲストを招いてその話をネタに盛り上がる。そんなゲストの話に秘められた真実を、「悪魔に魂を売って頭脳を買った男」長江の推理が解き明かす…。

いわゆる安楽椅子探偵もの。謎は恋愛ネタが多いのが特徴でしょうか。ちょっと強引では…と思う論理展開もありますが、伏線の張り方の巧みさもあって、納得させられてしまいます。また、連作短編ならではの、シリーズ全体に対する仕掛けも用意されてます。

しかし何と言っても、肴と酒のシーンが美味しそうですよね。チキンラーメン生喰いはちょっと挑戦してみたくなりました（健康に悪そうですけど）。

(2011.09.15)

君の望む死に方／石持浅海 (祥伝社文庫)

★★★★　

扉は閉ざされたままに続く、倒叙三部作の第2弾。

余命六ヶ月というガン告知を受けたソル電気社長の日向は、創業仲間である境陽一の息子である梶間に、自らを殺させる道を選んだ。境を殺した過去を持つ日向は、梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させようと、周到に幹部候補を対象にした研修の舞台を作り上げた。しかしゲストに招いた女性・碓氷優佳の存在が誤算の始まりで…。

倒叙物でもかなり異例で、なかなか事件が起きません。殺される者・日向と、殺そうとする者・梶間の視点が交互に現れますが、どちらからも優佳の脅威が伝わってきます。倒叙という制約の中でもこれだけの作品ができるんですね。三部作完結編も楽しみです。

(2011.09.10)

スコーレNo.4／宮下奈都 (光文社文庫)

★★★☆　

一人の女性が少女から大人へと成長する過程と共に、家族、恋愛、仕事、結婚というそれぞれの課題にどう向き合い、成長していくかを描いた物語。

中学生、高校生、大学～就職、社会人、という4つの章から構成されており、それぞれの章でもそれなりに完結していますが、全体を通して長編にもなっているという構成。明るく自由奔放な妹・七葉と常に比べてしまい、恋愛にも何事にも自信が持てない麻子が、それでも自分の好きな物を見つけて成長していく様が丁寧に描かれています。良作でした。

(2011.09.08)

きのうの世界(上)(下)／恩田陸 (講談社文庫)

★★★　　

上司の送別会から忽然と姿を消した一人の男。彼は一年後、遠く離れた町で死体となって発見された。周りに凶器は無く、また町のはずれの「水無月橋」の上で死んでいた彼の死を予告するかのような地図が見つかったことから、殺人事件かと騒然となる町。3本の塔が立つ町に隠された秘密とは？

章ごとに視点が変わり、徐々に事件の輪郭と、町の秘密が明らかになっていきます。町の秘密の方はかなりの大仕掛けですが、それに比べると事件の真相の方はちょっと肩透かし気味だったかも知れません。

上巻で「あなたは」という二人称視点の記述がところどころあって、どんな仕掛けがあるんだろうか、とちょっと期待しながら読み進めていったのですが、特にそれほど仕掛けがあるわけではなかったですね…。ちょっと残念。

(2011.08.28)

図書館戦争シリーズ(6) 別冊図書館戦争II／有川浩 (角川文庫)

★★★☆　

図書館戦争シリーズ、番外編も含めた完結編。

堂上と郁の結婚以降の話を収録。メインはやはり、柴崎と手塚の話でしょうか。柴崎が巻き込まれる事件って、郁のと違って、武力で直接ではなく、陰湿な事件が多いので、何というか精神的にクるものがありますねー。まあ、しかし最後の壁を崩すためには、ここまでの事件が必要だったのかなあ、という気もしますが。

5ヶ月間、楽しませていただきました。これで終わりかと思うとちょっと淋しいですね。

(2011.08.26)

QED 諏訪の神霊／高田崇史 (講談社文庫)

★★★　　

坂を滑り落ちる巨大な御柱に男たちが群がる「御柱祭」。 75頭もの鹿の生首が捧げられた「御頭祭」。長野・諏訪大社に伝わる奇祭に秘められた秘密とは？

ここのところ「～ventus～」やら「毒草師」やら「～flumen～」やらが続いてたので、ノーマルの「QED」は久しぶりな印象。

巻末のあとがきによれば、QEDシリーズも残すところあと3作らしいですね。まあ外伝とかスピンオフとか色々とできそうではありますが。

(2011.08.22)

モンスターズ／山口雅也 (講談社文庫)

★★★　　

山口雅也のノンシリーズ短編集。「ミステリーズ」「マニアックス」に続く、「M」シリーズ第3弾。ちなみに第4弾は「マーダーズ」になる予定だそうです。

中編として、ドッペルゲンガー譚の「もう一人の私がもう一人」、匣をめぐる幻想譚「箱の中の中」、そして表題作でもある「モンスターズ」。そのほかに短編が3篇。

短編でも「仕掛け」を仕込んでいるあたりが山口先生っぽいですね。どれもそれなりに面白かったのですが、「箱の中の中」は、オチにもう一捻り欲しかったかなあ、という気もします。

(2011.08.18)

ZOKURANGER／森博嗣 (光文社文庫)

★★★　　

「ZOKU」「ZOKUDAM」に続く、「Zシリーズ」第3弾にして完結編？

これまでと登場人物は同じなんですが、なぜかみんな大学の准教授や助教になっていて、前作までの設定は無かったことにされているようです。「研究環境改善委員会」という謎の委員会で、色違いのユニフォームを作るハメになり、お互いに妄想したりなんなりしながら、何かに備えて訓練を重ねる日々。

結局、レッドとグリーン以外の「能力」が何なのかもわからないままだし、出動もしないままで終了しているし。まさに史上最大の肩透かしというか。

(2011.08.16)

数学的にありえない(上)(下)／アダム・ファウアー (文春文庫)

★★★★　

一瞬であらゆる確率を計算できる数学の天才ケイン。しかし癲癇の発作が酷くなり、大学の職を失い、ポーカーで生計を立てる日々。そんな時、絶対に勝てるはずの勝負で大敗し、$11000の借金を背負ってしまう。金と病気の問題から、特別な癲癇治療の被験者となることに同意したケインだったが、そこで投与された薬のせいで不思議な能力に目覚める…。

ノンストップ・SFサスペンス。謎の能力を手に入れるケインと、元CIAの女スパイ・ナヴァの2人主人公と言ってもいいくらいで、 SF的な部分と銃や格闘のアクションが見事に融合していて楽しませてくれます。ケインの能力も、ジョジョで言うところの大統領のD4Cとディアボロのエピタフを混ぜたような感じで、枝分かれしていく複数の可能性のある未来が同時に見える中、その中の1つを選び取って進んでいく、という感じの能力で、相対性理論や量子力学、確率論、などを織り交ぜて理論付けしてあり、面白かったです。

(2011.08.12)

単純な脳、複雑な『私』／池谷裕二 (朝日出版社)

★★★★　

最新の脳科学の研究家が、母校で高校生を相手に行った4日間の特別授業を本に起こしたもの。

知らなかったことや、今まさに明らかにされようとしていることまで含めて、色んなことがわかって面白かったです。

また、おまけの動画コーナーも楽しめました。本当、脳って不思議ですね。

(2011.08.05)

(2011.08.18追記)
中で紹介されていた「コホーネンの自己組織化マップ」が面白そうだったので、シミュレータをJavaScriptで作成してみました。

図書館戦争シリーズ(5) 別冊図書館戦争I／有川浩 (角川文庫)

★★★☆　

ベタ甘モード全開の番外編第1弾。こちらの「I」には、堂上と郁のその後を中心に収録。

多分普通はこういうのって、本編を読んだファンが想像して同人誌とかで書いたりするもんじゃないかと思うんですが、そこを作者本人がやってしまうあたりが、さすが自称「大人のラノベ作家」有川浩さんです。

(2011.07.27)

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論／荒木飛呂彦 (集英社新書)

★★★　　

「ゾンビ映画は癒しだ！」という独特の価値観で荒木飛呂彦先生が100篇のホラー映画を語る。

「アイ・アム・レジェンド」とか、一般にはホラー映画扱いされていない作品も含めて、色々と見どころを紹介してくれてます。見たことない映画でも大丈夫。

(2011.07.26)

ねじまき少女(上)(下)／パオロ・バチガルピ (ハヤカワ文庫))

★★★　　

近未来SF。温暖化により海面が上昇し、化石燃料は厳密に使用量をコントロールされ、遺伝子工学が進み過ぎ、「カロリー企業」と呼ばれる少数の企業に作物を全てコントロールされ、突然変異を繰り返す病気に怯えながら暮らす「縮小」の時代。他の国家が次々と「カロリー企業」の軍門に下る中、タイ王国だけは厳密な「遺伝子操作生物」の輸入禁止による水際対策と、独自の「種子バンク」により遺伝子操作病に耐性を持つ作物により、踏みとどまっていた。そして輸入を厳しく取り締まる環境省と、外国との貿易を再開したい通産省の間の対立は深まっていくのであった…。

設定がきちんと説明されずに話が進むので、瘤病やチビスコシスやニッポン・ジーンハック・ゾウムシや象牙甲虫やイエローカードやグリーン・ヘッドバンドが何物なのか、ということは会話などから推察するしか無いわけですが。

ねじまき少女の話と、工場で発生した新種の病気と、環境省と通産省の対立の話が、平行して進んでいきながら、最後交わるのかと思いきや、あまり交わらずに終わってしまった感じ。特に新種の病気は、カタストロフィの予兆なのかと思ったんですが、結局どうなったんでしょうね？

(2011.07.26)

チヨ子／宮部みゆき (光文社文庫)

★★★　　

これまでの短編集に入れられてこなかったノンシリーズの中短編を5編収録。しかしノンシリーズにも関わらず「ホラー＆ファンタジー」というくくりでくくれるため、それなりに統一感がある不思議な短編集になってます。

どれも、現実の事件は事件として存在して、その一方で「すこしふしぎ」な現象が、特定の人にだけ起こる、という物語。現代劇、時代劇、SF・ファンタジーを、バランスよく手掛ける宮部さんならではの作品、という感じがしました。

中では一番ほのぼのテイストの表題作「チヨ子」が良かったですね。

(2011.07.15)

チョコレートコスモス／恩田陸 (角川文庫)

★★★☆　

伝説の映画プロデューサー・芹澤が開く異色のオーディション。女優2人だけの映画のオーディションに参加したのは、大学で芝居を始めたばかりの地味な少女・飛鳥だった。しかし彼女には、観察した人物に「なりきってしまう」才能があった。舞台の暗がりの向こう側を目指す彼女の前に現れたのは…。

脚本家・神谷、大学の演劇サークル付きの座付き作者・巽、役者一家の中で育った新鋭の人気女優・響子、3人の視点が入れ替わりながら進んでいきます。 3人がそれぞれ「飛鳥」という少女の天才っぷりを描写していく、そのエスカレートっぷりも面白かったです。

「中庭の出来事」といい、「猫と針」といい、最近の恩田陸さんの作品って、結構芝居・演劇づいてますよね。有川浩さんといい、演劇には女流作家を惹きつける何かがあるんでしょうか。

中で出てくる劇中劇、原作を特に知らないんですが、それでも楽しめました。あとがきを読んで「ガラスの仮面」のオーディションのシーンが面白くて、それを再現してみたいと思った、みたいなことが書いてあって、なるほどなあ、と。

「ダンデライオン」「チェリーブロッサム」と続く3部作になるようです。楽しみです。

(2011.07.11)

SPEED／金城一紀 (角川文庫)

★★★☆　

ザ・ゾンビーズ・シリーズ第3弾。今度の主人公は進学校に通う女子高生。姉のように慕っていた家庭教師の女子大生が自殺したことから、彼女の日常は一編する。自殺の真相を突き止めようとする彼女に魔の手が…。拉致されそうになったところに現れたのは、 4人の救世主たち。

「フライ，ダディ，フライ」もそうでしたが、第三者視点で語られると、ゾンビーズの面々も随分と頼もしく見えるもんですね。ちゃんと修行の成果が発揮されるところとか、お約束もしっかりと踏まえた上で、笑わせて、泣かせてくれます。

最後に語っていた「友達が巻き込まれた沖縄の事件」ってのはまた別の話なんでしょうね。

(2011.07.03)

儚い羊たちの祝宴／米澤穂信 (新潮文庫)

★★★　　

「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの祝宴」の5つの短編を収録。互いの物語に直接の関係はありませんが、唯一上流階級の娘たちが詩に耽る「バベルの会」が共通して出てきます。

手記や告白といった形で語られる物語が、終盤キレイに引っくり返る様が見事。残酷な寓話、といった趣です。どれもブラックですが、やはりブラックさで抜きんでているのは「玉野五十鈴の誉れ」ですかね。ラスト1行が黒過ぎる……。

(2011.07.01)

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