★★★☆
《あかずの扉》シリーズ第4弾。なんとカケルが作家デビュー!? 時を同じくして、《あかずの扉》研究会には依頼人が。 その頃後動さんと咲さんは首吊塔の中に閉じ込められて…。
序盤の電車クイズから始まって、自殺する人形、死体の消失、バラバラ殺人、 …と本格のプロットが目白押し。 序盤の鳴海さんパートと後動さんパートが交互に訪れる展開も、 緊張感が持続して良い効果を生んでいますね。
そして後半の推理(仮説)の連続と、繰り返されるどんでん返しは、 まさに本格推理の醍醐味ですね。
キャラクター物として読んでも面白いシリーズですが、 本格としてのバックボーンがしっかりしているなあ、 という印象を深めました。
ところで作中で触れられていた「アポトーシス荘」「クロックワーク湖」 はその内出るんでしょうかね?どうも《あかずの扉》シリーズはこの 「マリオネット園」を最後に出ていなくて、 「私立霧舎学園」シリーズが始まっているようですが…。
(2005.09.28)
★★★☆
森江春策シリーズ初の短編集。高校生の時に初めて「探偵」をしてから、 大学生、事件記者を経て、弁護士に至るまでの幅広い事件が集められてます。
元々発表された時期もバラバラな短編を、時系列順に並べて、 最後に短編集ならではの仕掛けを施した書下ろしを追加。 この手の仕掛けは「僕のミステリな日常」以来よく見ますけど、 大抵短編を書く時に仕掛けを入れておくもの。 それに対して、この作品では、既に書いてしまった短編を集めて、 後から「インターミッション」と最終章を追加して何とか仕掛けを盛り込んでます。 まあ後から追加しているだけに、ちょっと無理矢理感が漂わないでもないですが、 それでも良くやった方でしょう。登場人物の名前なんて、 そこまで考えて名づけたわけでもないだろうに、よくこじつけたなあ。
それにしても森江春策の職業が転々としているのは、 初期の頃、作者があまり深く考えていなかっただというのは笑えるなあ。 確かに、最初の作品を読んだ時に、まさかこの地味な探偵役が、 ずっと続くとは想像だにしませんでしたからねえ。
(2005.09.23)
★★★
千葉千波の事件日記シリーズ、第2弾。今回は長編(というか中編)です。
密室、取り出せない鍵、消失、etc.と本格っぽい仕掛けは満載なんですが、 どうも作り物っぽい感じがぬぐえないなあ、と思っていたら、 やっぱり真相もそんな感じでした。まあそれなら仕方ないか。
個人的にはおまけのパズルが少なくてちょっと残念だったかなあ。
(2005.09.19)
★★★
「六枚のとんかつ」の蘇部健一の長編。 里中真智子の氏のイラストが要所に挟まれている、という意味では、 「動かぬ証拠」の発展版と言えるかも知れませんね。
曽祖父の代に布部家を襲ったミイラ男の伝説。主人公正男の近辺に繰り返し現れるミイラ男。 果たしてその正体は?
里中先生のイラストがポイントなんですが、でもそんなに効果的な使われ方でもないよなあ、と思っていました。 でも解説に書かれていた「最後のオチ」の意味がわからなくて、 ネットで調べてみてようやくわかりました。 うーん、確かに「火刑法廷」とまではいかないけど、 なかなか味わい深いラストではありますね。
次はどんな仕掛けで驚かせてくれるのか、楽しみです。
(2005.09.15)
★★★
私はこの事件の証人です。
同時に、犯人です。
そして、犠牲者でもあります。
それどころか、探偵役でもあります。
加えて、ワトソン役も務めます。
もちろん、記録者でもあります。
さらに、濡れ衣を着せられる容疑者でもあります。
最後に、共犯者でもあるのです。
「探偵=証人=被害者=犯人」という、「一人四役」を作り出した古典「シンデレラの罠」 に対する挑戦というかオマージュ作品。なんと倍の「一人八役」に挑戦してます。
舞台は劇団「O-RO-CHI」。孤島での合宿、という古典的な舞台で、 主役を争う二人の看板女優。愛憎渦巻く中、火事が起こり、 後には黒焦げの遺体と、記憶を失った女優が…。
「一人八役」という無茶を成立させるため、 少々強引な設定と思わないこともないですが、サクサクと読めました。
途中からきっとこうなんだろうな…と思いつつも、 でも最後のオチにはやっぱり驚かされたので、満足しました。
しかし今年は鯨統一郎さんの文庫がいっぱい出るなあ。
(2005.09.15)
★★★☆
高校一年生となった小鳩君と小山内さん。お互いに「小市民」として生きようと誓い合った、 互恵関係にある二人だが、周囲が彼らを謎に巻き込む。 目立ちたくないのに謎を解いてしまう「名探偵の性」に悩む小鳩君。
ジュブナイル系日常の謎、ライトコメディというところでしょうか。 死者が出たりはしない、「日常の謎」系のミステリですが、 主人公が名探偵になりたくない、と拒絶しているのが変わってますね。 しかし何よりも小山内さんのキャラが秀逸。 引っ込み思案でいつも小鳩君の影に隠れているような彼女ですが、その本性は…! これ、NHKあたりのドラマで見てみたいかも。かなり演技力を要求される役ですけど。 是非シリーズ化して、小山内さんの過去編も読んでみたいものです。
ところで、この米澤穂信さん。どうやら他の作品もジュブナイル系が多いようですが、 角川スニーカー文庫の2冊は既に絶版になっているみたいですね。
(2005.09.10)
★★★☆
※「鴎」の字は本当は囲いの中に口3つなんですが、 文字参照使わないと出せないみたいなんで「鴎」で通します。
自らの死を悟った森鴎外。何者かに襲われ、谷から転落した瞬間、 80年後の渋谷へとタイムスリップしていた…。
渋谷の「主」の女子高生たちに助けられた鴎外が、現代に来たということを理解し、 あっという間に順応していく様がなかなか愉快。 元々色々なことに興味を持っていたらしいので、 確かにこれくらい順応性の高い人だったのかも知れませんが、 ホームページまで作り出したりラップに乗せて歌ったり、ともう何でもアリ。
タイムスリップしてしまったことによって過去の歴史が変わってしまうタイムパラドックス問題は、 「タイムスリップを知っている人だけ記憶が変わらない」というルールで乗り切っています。
設定自体はSF風ですが、 「昭和初期の作家達はなぜみんな早死になのか」という謎を解くミステリに。 例によって色んな文献から仮説をこじつけるという鯨節が炸裂。
登場人物たちのキャラクターが活き活きとしていて面白かったです。 まあ、私がタイムトラベルものが好きだというのもあるんですけど。 この「タイムスリップ〜」はシリーズ化されているらしいので楽しみ。
(2005.09.03)
★★★
交通事故を境に、短期記憶を長期記憶に移す能力を失った「前向性健忘」にかかった研究者。 十四年前の放火事件とそれに関係した人々が次々と殺されていく。 果たしてこれらの事件は偶然なのか?それとも…。
映画「メメント」やジョジョの奇妙な冒険第6部のスタンド「ジェイル・ハウス・ロック」ですっかり有名になった、 直前の短期記憶を失ってしまう「前向性健忘」。 最先端の科学ネタをミステリに応用する北川歩実先生は、 早速これをミステリに応用してきました。 といっても、主人公ではないところがポイント。
北川歩実先生の作品によくあることなんですが、 どうにも登場人物にいまいち感情移入できないんですよね。 今回の場合だと一応語り手である主人公が一番常識人ってことなんでしょうが、 それでもいまいち婚約者に隠したりとかの思考回路とかついていけないところあったなあ。
最初はちょっと退屈な感じでしたけど、終盤にかけての盛り上がり方は結構良かったですね。
(2005.08.28)
★★★★☆
グレゴリオ症候群…一度発症すれば止める術はなく、徐々に体の機能が低下し、 やがて死に至る死の病。重い宿命を負って生まれた時生。 時生がいよいよ死を迎える間際、父親の拓実が語り始めた20年前の真実とは?
ちょっと形を変えたタイムスリップ物。 単行本では「トキオ」だったのが改題されたようです。 息子がダメ親父を救うために過去に現れた、というところでしょうか。 基本的にタイムトラベル物が大好きな私としては、もうたまらないテーマです。 父親の出生の秘密と、元彼女の行方、という2つの糸を軸に物語りは展開していきます。
しかしこの親父のダメっぷりもすごいなあ。 ここまでダメだと確かに息子としては辛いだろうなあ。
しかしこれ、トキオがいなかったら、未来は変わっていた、 ということはトキオは生まれていなかった、ということになりそうな…。 つまり最初からトキオが過去に干渉することが前提となって歴史が設定されていた、 ということでしょうか。 まあ、ここら辺は深く考え出すとタイムパラドックスにハマってしまうので、 そういうもんだと割り切るしかないのかも知れませんけどね。
(2005.08.20)
★★★☆
神麻嗣子の超能力事件簿シリーズ・短編集。 長編が出ないまま、短編集ばかり出てますが、 おかげで作品内時間は大分過ぎている模様で。 一番大きな伏線は、新担当・阿呆によると思われる、集団催眠・記憶改竄?ですかね。
今回も作品ごとに視点が能解警部だったり、神余響子だったり、第三者だったり、とバリエーション豊か。 超能力がある世界、となると何でもありになりそうですが、 そこは「超能力を使った場所と回数は計測可能」という制約を入れることで、 うまく回避していますね。 脇道になりそうな日常会話やら回想やらが、動機の解明につながっていたりする構成もうまいです。
(2005.08.14)
★★★
いきなりプロローグで石動戯作が殺されるシーンから始まるという衝撃のオープニング。 そして名探偵・水城優臣シリーズが、実は実際に起きた事件を元に書かれたノンフィクションだったことを知った名探偵・石動戯作は、 水城優臣シリーズの未完のままの最後の作品「梵貝荘事件」を再検証する仕事を請け負う。 小説の記述と実際の証言との照合をしていくうちに、ある食い違いに気づいた石動。 そして…。
館シリーズを含めた新本格へのオマージュ、らしいです。いまいち引用箇所とかわかりませんでした。 過去の事件の記述と現在の記述とが交互に現れるという構成は、 館シリーズでもおなじみの手法。
そして明かされる真相は…まあ「衝撃!」というほどではなかったにせよ、 心地よく騙されました。 ただ、事件そのものの方がちょっといまいちじゃありませんか?いくらなんでも…。
さらにボーナストラックとして、密室本として書き下ろされた「樒/榁」も収録。 確かにこの作品は水城シリーズの一編としてこの作品と共に収録するのが一番しっくり来るような気がします。
(2005.08.11)
★★★
女王の百年密室の続編。 っていうか、シリーズ物だったんだ。どうやら三部作ということのようです。 僕・サエバ・ミチルとウォーカロンのロイディのコンビが繰り広げる、近未来SF密室殺人。
いや、やっぱりここでも密室(?)殺人が絡んできます。そこまでこだわらなくても…という気もしますが。 正直、前作のオチとかいまいち忘れてしまったので、すんなり入り込めなかったんですが、 どうもウォーカロンってのは私が想像していたよりもずっと人間に近い形をしているらしい。 前作では、なんかキャタピラがついているロボットみたいなイメージで読んでました。 だって階段とか苦手っぽい描写があるし。
本作の焦点は密室殺人…ではもちろんなくって、人間とは何か、ウォーカロンとの境目は何か、 といったところ。「ウォーカロンは人間を殺せない」といった、ロボット三原則のようなルールも設けられてます。
ただ、どうも世界に入り込むまでに時間がかかるんですよね。 前作の感想を読み返したら、読了に2ヶ月くらいかかったとか書かれてるし。
(2005.07.27)
★★★
「六人の超音波科学者」の土井研究所が再び舞台に (というか、あれからわずか1週間後の話)。 地下のハッチの奥の密室には、他殺死体が。 一方、地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたという事件も…。 地下と宇宙、二つの「密室」殺人を結ぶ鍵とは?
今までこのシリーズの時代設定を意識したことはなかったんですが、 スペースシャトルが実用化される前の話ということは、結構前なんですね。 20〜25年くらい前?言われてみれば誰も携帯電話とか使ってないか…。
いよいよ次巻の「赤緑黒白」にてVシリーズも完結のようですね。 シリーズに仕掛けられたトリックとは一体何なんでしょう。 ちょっとわかりかけた気もするんですが…。 まあ、楽しみにしておきます。
(2005.07.19)
★★★☆
恩田陸さんの、連作でない、初の短編集。 「六番目の小夜子」番外編や、「夜のピクニック」プロローグを含む、 ファンにもうれしい短編集です。
「春よ、こい」
誰か、何周目なのか、何世代目なのか、解説してくれませんかね?
「ある映画の記憶」
これはどこかで読んだことがあるなあ、と思ったら「大密室」でしたか。
「ピクニックの準備」
「夜のピクニック」のプロローグらしいです。
「夜のピクニック」はまだ読んでいなんですが、
こういうイベント(夜中かけて歩く)自体は結構全国であるみたいですね。
「国境の南」
読み始めとオチとのギャップに一番驚いた、というか、予想だにしていなかったので、
かなり衝撃を受けました。
「図書室の海」
「六番目の小夜子」の関根秋の姉、夏のエピソード。
あらためて「サヨコ」って魅力的な設定だなあ、と再確認。
バリエーション豊富なんですが、なんというか「匂い」が一緒というか、 なんとなく共通したものを感じる短編集でした。
(2005.07.08)