★★★
『工学部』の『助教授』で、後に『ミステリを書く』ことになる、 水柿くんの日常を描いた、ノンフィクション的エッセイ。
一応「フィクション」ということになってますが、 どう見ても森博嗣の自伝的エッセイにしか見えません。
本作だけだと、結局ミステリを書くところまで行ってないんですが、 まだ続編があるようで、楽しみにしておきます。
(2004.12.24)
★★★
1970年のクリスマスイブ。20歳になったばかりの4人の若者は、 大きな秘密を共有することになる。 それから10年ごとに再会する4人の前に、「秘密」が大きな影を落としていく…。
クライム・サスペンスの体裁をとっていますが、実は大きな仕掛けが。 いや、これ言っちゃうとネタバレになっちゃうんで、 何も知らずに読んだ方がいいと思います。 どう考えても説明がつかないいくつかの事柄に、 ちゃんと説明がつくところはスゴいと思いました。 いや、ちょっと反則気味ですが。
しかし、これが井上夢人さんの、今のところ最後に出ている単行本らしいですね。 そんなに寡作な作家さんだったとは。
(2004.12.14)
★★★
「地響きがする――と思って戴きたい。」
この書き出しで始まり、さまざまな有名国内ミステリのパロディとなっている連作短編集。
「おやくそく」がいくつか。書き出しは冒頭の一行、太った人または力士が必ず出てくる、
出てくる女性編集者は狂暴である、
48手の最後の一つは使われない、
「小説家」が出てきて次の作品とメタな関係になっている、などなど。
普段の京極夏彦さんの作品からすると、こういうギャグ色の強いパロディ作ってのは、 かなり新鮮ですね。有名な作品ばかり(「忠臣蔵」以外は全部読んだことあった)ですが、 なかなかうまくパロっていたと思います(「理油」あたりになると、もはや原型留めてないですが…)。 しかし単なるパロディに留まらず、短編同士にメタな関係をリンクさせたり、となかなか凝ったつくりになってます。
中に出てくる時事ネタやアニメネタ・ゲームネタが、ちゃんと書き直されているのに感心しました。 単行本の時は「どすこい(仮)」、新書版の時は「どすこい(安)」、 そして今回の文庫版では「どすこい。」となってます。 句点は完結の意味でしょうか。
(2004.12.10)
★★★
Vシリーズ長編。紅子と練無が招待された、超音波研究所のパーティー。 保呂草と紫子も残る羽目になり、さらに七夏までが…。
シリーズの中では地味な方に位置される話かも。 いや、保呂草が「仕事」をしてない、という意味で、 恐らくこの話を丸々飛ばしてしまって次の巻に行っても、 あまり影響ないかも。あ、でも紅子の過去らしき回想シーンが出てくるから、 もしかすると重要な話なのかも。
立松の使えなさ(および、七夏からの信用のされなさ)に笑いました。
(2004.11.27)
★★★
有栖川有栖編集、古今東西の短編鉄道ミステリを集めたアンソロジー。
本格あり、SFあり、幻想小説あり、サスペンスあり、ショートショートあり、 漫画あり、犯人当てクイズ企画あり、と非常にバリエーション豊かな内容で、 楽しめました。
中でも良かったのはウイリアム・アイリッシュの「高架殺人」、 ホラーに属する?「4時15分発急行列車」、ショートショートの「0号車」、 そして最後の犯人当て「箱の中の殺意」ですかね。
(2004.11.20)
★★★
女探偵・葉村晶のハード過ぎる1週間。
行方不明の女子高生探しから、自己中探偵の逆恨み、 親友のひっかかりそうな結婚詐欺師、アパートでのストーカー騒ぎ、etc.,etc.…。 足が完治していない葉村に、次から次へと襲い掛かる難問。 まあ、断りきれない本人にも問題があるとはありますが。
しかし、せっかくいい感じになっているのに、 全く頼ろうとしない晶。そこで弱みを見せればイチコロなのになあ。 春が来る日はまだ遠いか…。
(2004.11.07)
★★★☆
「神麻嗣子の超能力事件簿」シリーズの番外編、という位置づけ。 作品のトーンもコメディ色の強い本編とは大分趣が異なり、 快楽殺人鬼の一人称によるサイコサスペンスといった感じ。
タック&タカチシリーズの「スコッチゲーム」や「依存」などでも繰り返し取り上げられてきた 「親子」をめぐるトラウマがメインテーマとなっており、 そういう意味ではタック&タカチシリーズの一編としてもおかしくないようなプロット。 しかしそこに唯一の「超能力」を絡めることで、本格ミステリとしても見事に昇華されてます。 いや、この「真相」には驚きました。全ての伏線が収束していく快感を味わえました。
しかし本作では神麻さんが写真だけ出てくるんですが、そこだけ浮いてたなあ。 劇画の中に突然アニメ絵の女の子が出てきたような違和感。 この殺人者が最終章に現れて、その息子が神麻さんの最大の「敵」となるそうなんですが、 ホントにハッピーエンドになるんでしょうかね?
(2004.10.29)
★★★★
「倒錯のロンド」「倒錯の死角」に続く、「倒錯」シリーズ三部作完結編。
前から読める「首吊り島」と、後ろから読める「監禁者」、 そして袋綴じの「倒錯の帰結」の三部構成。 「監禁者」の方は本を引っくり返して読むという、 ちょっとカバーを付けないと電車の中で読むのははばかられる構成。 さらに、「首吊り島」と「監禁者」のどちらからでも読み始められるそうです。
「首吊り島」の方は、乱歩ばりの孤島で繰り広げられる連続密室殺人。 舞台設定もベタですが、なかなかに読ませます。 密室トリックの方も、確かにいままでになかったかも…。
「監禁者」の方は、折原さんお得意の叙述系作品。 主に2人のパートが交互に挟まれていって、でもどこか違和感を感じて…。 こちらはまあ作中で「作者」が自虐的に言っているように、 折原さんの作品で何度も読んだことのあるようなシチュエーション、 文体ではありますが。 ただ、そんな自虐的な文を入れることで、 さらに眩暈のするようなメタな世界へと読者を連れて行ってくれます。
そして、この2つのパートが互いに絡んで、完結編へとなだれ込む構成は見事。 折原さんのデビュー作の「密室」物と、代表作である「叙述」を、 組み合わせて一つの作品に仕上げたところが見事だと思います。 まさに折原一さんの代表作と言ってもいいんじゃないでしょうか。
ただ、文庫の装丁だとカバーが逆さまに対応してないのがいまいち。 これは単行本やノベルス版の装丁の方が凝ってていいですね。
(2004.10.22)
★★★
死体の冷めないうちにに続く、 新・大阪市を舞台とした「自治警特捜」シリーズの第2弾。
前回捕まえたはずの「知性を持った野獣」小野瀬一雄が、 列車消滅のマジックで手に入れた放射能廃棄物を使って、 大阪環状線の内側を「町ごと」ジャックしてしまった…。
架空のパラレル大阪を舞台とした「自治警特捜」シリーズ。 このシリーズ読むと、現実の警察・官僚と重ね合わせて暗澹たる気持ちになるんですが…。 まあ、とにかく各キャラがそれぞれ魅力的に動いていて楽しめました。 でも、メインの犯罪自体は、どうも大掛かりな割にいまいち目的が見えないというか…。
ああ、でも毎回見せ場が用意してあって、そういう意味では連載向きの作品だな、とは思いました。
(2004.10.11)
★★★
北川歩実さん初の短編集。
北川歩実さんといえば、一見SFとしか思えないような状況や最新科学をプロットに組み入れたミステリが持ち味ですが、 この短編集のテーマは「アイデンティティ」。ということで、 従兄弟だったり、双子だったり、異母兄弟だったり、他人の空似だったり、 ネット上のヴァーチャルな人格だったりするんですが、 とにかくアイデンティティを揺るがすような作品が盛りだくさん。 短編にも関わらずどんでん返しもふんだんに盛り込まれていて、 なかなか読み応えがありました。 ただ、これって北川作品全般に言えるんですけど、 登場人物に基本的に嫌な奴が多いんですね…。
オチの切れ味って意味で「婚約者」が一押しかな。
(2004.10.02)