★★★
不幸を呼び寄せる体質の光太郎。先輩・七瀬の強引な勧誘により、 廃部寸前の文芸部に誘われた光太郎は、小説を書かなければ廃部、という逆境に追い込まれる。
特殊な執筆ソフトと、二人で5〜10枚ごとに交代で執筆する、という特殊な方法で書かれたそうです。
文芸部メンバーのその後が書かれているのがいいですね。ござるやめた途端にモテまくる先輩とか。 ここまで晒したってことは、続編はないんでしょうけど。
(2017.07.02)
★★★☆
「平成のエラリー・クイーン」による、裏染天馬シリーズ第2弾。 今回は新聞部が水族館取材中に起きた、サメの水槽に死体が落とされるというショッキングな殺人事件を巡る推理。 アリバイが無い容疑者は11人。「11人いる!」が言いたかっただけちゃうんか?という気がしないでもないですが。
語り部として、普通だったら天馬の幼馴染で、新聞部部長の香織を設定しそうなもんだと思うんですよね。 好奇心旺盛ですし、高校の新聞部とはいえ、卓球部よりは事件に巻き込まれる可能性は高そうです。 しかし敢えて部外者である柚乃を語り部に設定することで、天馬に翻弄される感と共に、 シリーズキャラクターとしての天馬の謎を解明する、という縦糸を用意できたのは大きいですね。
犯人解明までのロジックには、動機は一切考慮されません。 しかしその犯人解明後に行われる動機を巡る一幕も、一工夫されているのがこのシリーズ。 今回も意外な動機が仄めかされてます。
このシリーズ、次作は「図書館の殺人」ということで、「○○館の殺人」で進めていくつもりなんでしょうかね。 これも「館」シリーズ?
(2017.06.25)
★★★
数学をベースにした対話劇。第1巻は特に何かが起こるわけではないのですが、 今後「フェルマーの最終定理」や「ゲーデルの不完全定理」やらが 出て来るらしいので、期待しています。
(2017.06.19)
★★★
少し心の病にかかった子や人たちの短編集。
加納朋子さんらしく、最後はちゃんとほっこりしたところに着地するので、 安心して読めます。
解説を読んで初めて知ったのですが、 加納さん自身、急性白血病に罹って、そこから復帰されたのですね。 これからも作品楽しみにしています。
(2017.06.19)
★★★☆
放課後、体育館で、放送部の部長が刺殺された。密室状態の体育館で、 女子卓球部部長に嫌疑がかかる中、卓球部員・柚乃は、学校一の天才でアニメオタクのダメ人間・裏染天馬に真相の究明を依頼する。
「平成のエラリー・クイーン」との異名を持つらしい青崎有吾先生のデビュー作。 まさにクイーンばりのロジックで追い詰めていくタイプの本格ミステリ。 英語題が「THE BLACK UMBRELLA MYSTERY」となっているように、 トイレに捨てられていた一本の黒い傘を巡る論理で犯人を特定していくところは見事。 「読者への挑戦」もついています。
(2017.06.11)
★★★★
江上&有栖シリーズの短編集その1。江上シリーズは、あと長編1つ、短編集1つで完結らしいです。
一番古い作品が1986年の有栖川有栖先生のデビュー作。27年越しでまとめた短編集らしいです。次の短編集は30年越しになることが既に確定とか。
1年生として入ったばかりのアリスが英都大学推理小説研究会入部から、「月光ゲーム」を経て、2年生になったところでのマリアの入部までがまとめられています。
発表順ではなく、時系列順に並んでいるので、アリスと共に時の流れを感じられます。 また、長編に繋がるネタ(宗教団体人類協会とか)が書き加えられたりして、 シリーズ構成に厚みを加えていますね。
最後の長編と短編集も楽しみです。
(2017.06.04)
★★★
魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?に続く魔法使いシリーズ第2弾。
いわゆる「倒叙モノ」というやつで、先に犯人側の犯行描写があり、 刑事側がどうやって犯罪を立証するか、というのがポイント。 しかしここで魔法使いが絡むことで、
犯行→魔法による自白→刑事による証拠固め→追い詰められて自白→悪あがきの逃亡→魔法による制裁
というパターンで進んでいきます。
しかし椿姫は益々ダメになってますね。聡介も普段はまともなんですが、椿姫のようなドS熟女キャラが出てくるとフェチズム全開になってまともじゃなくなるし……。
マリィの正体は結局不明のまま、家政婦として住み着いています。まだシリーズは続きそうです。
(2017.05.29)
★★★
黒ダイヤを盗む、というルパンからの予告状。 警護のためにホームズと輪堂鴉夜が召喚された。 さらに保険屋「ロイズ」諮問警備部や、教授一行も現れて、ダイヤ争奪の「夜宴」が始まった……。
ホームズやルパン、オペラ座の怪人、ポワロ、モリアーティ教授といった名探偵・怪盗も同じ世界観の中に同居しているのが何とも魅力的です。
しかし1巻に比べるとトリックの割合が小さくなって、バトルメインになってしまったのはちょっと残念。 まあ、ルパンがどうやってあの鉄壁の警備から盗み出すのか、というところは面白かったですけど。
敵対勢力の一つに「ロイズ」というのが出てきましたが、これはオリジナルなんですかね。 やっぱり他の作品のキャラを使っている以上、勝手に殺すわけにもいかないんで、 こういうオリジナルキャラも必要、と。
今回のメタネタは「リンゴ3個分」ですかね。これってキティちゃんの体重でしたっけ。 「一頭身」は見事な返しでした。
次巻は人狼との対決となりそうです。吸血鬼と並ぶ怪物界の伝説。 楽しみですが、1巻が2015年12月、2巻が「2016年初夏」と予告されていたのに10月リリースだったことを考えると、 3巻は今年中に出るかな?くらいに思っていたほうがいいですかね (2巻で懲りたのか、3巻のリリース時期は明言するのを避けた模様)。
(2017.05.19)
★★★★
19世紀末、妖怪や怪物といった人外の者たちが跋扈していたが、文明の進展と共に世界的に「人外狩り」が進行するような世界。 日本から来た怪物事件専門の「探偵」、「鳥篭使い」一行が、ヨーロッパで吸血鬼や人造人間が絡んだ不可能犯罪と対峙する。
不死の美少女・輪堂鴉夜、半人半鬼・青髪のお調子者・真打津軽、無表情なデレないツンデレメイド・馳井静句。 1巻ということもあり、彼らの正体は?というところも含めての紹介になってます。 キャラクターがなかなか魅力的。
キャラと世界観に目を奪われがちですが、中身がしっかりと本格ミステリしているところがいいですね。 手垢のついたトリックでも、こういう世界観に放り込むことで、また別の輝きを放つという。 キャラとトリックとバトルのバランスが非常にいいなあ、と思いました。
あと、ところどころに含まれる現代ネタを意識したメタギャグがいいですね。 今巻だと「コーンポタージュ味のアイスが食べたい」あたりでしょうか。
(2017.05.19)
★★★
物語のプロットを実際の役者が演じ、読者本人に物語の登場人物としての体験を提供する「ディリュージョン社」。 本を一切読まないにも関わらず、ディリュージョン社の新人エディターとして働くことになった森永美月は、 「不可能犯罪小説を体験したい」という読者の要求に答えるために、 天才作家・手塚和志と共に「陸の孤島」となる別荘舞台を用意する。 しかし台本にない事件が次々と起こり……。
本格ミステリの「お約束」を、いちいち美月にツッコませるところが、 セルフツッコミみたいで面白いですね。
メタレベルのミステリを、ミステリ初心者を据えることで、わかりやすく解説することに成功しています。
(2017.05.14)
★★★☆
鎌倉にある民家と区別のつかない目立たない純喫茶「一服堂」。極度に人見知りの店主、 ヨリ子さんこと安楽椅子(あんらく・よりこ)。しかし猟奇殺人事件の間違った推理を聞くと、 ヨリ子の性格は一変、性格も口調も変わって、鋭い推理を披露するのであった。
意外にも講談社は初めてなんですね。ユーモアミステリの雄・東川先生の新シリーズ。 春、夏、秋、冬、の4編それぞれが、十字架張り付け×密室、十字架張り付け×アリバイ、 バラバラ死体×アリバイ、バラバラ死体×密室、という趣向。 しかしなぜこんなことを?(Why done it)がトリックの肝(How done it)と密接に結びついていて、 ちゃんと本格ミステリしているあたりが東川さんならではですね。
連作としての仕掛けもあって、これだと続編はないのかな、という気もしますが、 なかなかよくできた短編集でした。
(2017.04.30)
★★★
Xシリーズ第4弾。資産家の百目鬼家で、老夫婦が殺された。 半年間犯人がわからないまま、遺品の整理をしていた椙田探偵事務所だったが、 百目鬼家の関係者が次々と殺される連続殺人事件へと発展。 果たして誰が何のために?
真鍋君が永田さんの行動にドギマギしている様子がなかなかに新鮮です。 森作品だと、加部谷さんみたいに積極的な女子側の心は描写されますが、 男子側はなかなか描写されませんからね。犀川先生や海月は別格として、 山吹クラスでも一般人からすると仙人みたいだし。 そういう意味で、真鍋君の反応はとっても新鮮でした。
この後、「サイタ×サイタ」が9月文庫化され、「ダマシ×ダマシ」が7月にリリースされて、 それが完結編のようです。文庫で読めるのは2年後かな?
(2017.04.23)
★★★★
有頂天家族の続編。赤玉先生の二代目が英国から帰朝したところから、様々な騒動が巻き起こります。
矢一郎の結婚と偽右衛門就任、矢二郎の変身能力の復活、弁天と二代目の対決、などを軸に進んでいきます。
これまで超越的存在でジョーカーのようだった弁天が、それよりも強い存在である二代目が帰ってきたことで、人間らしくなったところが前作との大きな違いですかね。
矢三郎の元許嫁の海星が頑なに姿を見せようとしない理由も明らかになりました。
(2017.04.16)
★★★★
「ヴォイド・シェイパ」シリーズの完結編。
いきなり冒頭でゼンが斬られ、記憶を失うところから始まる、という衝撃の展開。 しかしその「忘れる」ことが鍵となり、一段成長するところがうまい展開ですね。
ラストは色々と想像を刺激されるエンディングでした。ノギさん、幸せになれるといいなあ。
(2017.04.09)
★★★
赤い糸の呻きで登場した「ぬいぐるみ刑事」がシリーズ化。
ミステリマニア刑事とか、キャリアウーマンだけど……刑事とか、仲間もかなり濃いキャラ揃いですが、 やはりぬいぐるみのことになると真剣度が変わるという音無警部はちょっと変わってますかね。
(2017.04.09)
★★★★
野良猫のナナは、事故に遭って瀕死の自分を助けてくれたサトルと暮らし始める。 しかしある事情からナナを手放さざるを得なくなったサトルは、 引き取り手を探す旅に出る。銀色のワゴンに乗って一人と一匹の旅が始まる。
人間視点(主に回想)と猫視点(主に現在)が交互に挟まれる構成が面白いですね。 意外と色々と深く考えて行動しているところがしたたかな猫らしいです。 悲しいはずの別れも湿っぽくならないのは、この野良猫上がりのナナのキャラクターに寄るところが大きいですね。
(2017.03.04)
★★★
パリの女優に、ミラノのピアニスト。有名人が絞殺される連続殺人事件。 両方の事件の現場に両手を縛られ拘束されていたのは、とんでもない美少年リオンであった。 リオンは「神が殺した」と証言。かつて大学の寮で同室であり、 今はインターポールに勤めるレナルドは、リオンの秘密を探り始める……。
そこにいたはずのない自分に連続殺人の嫌疑がかかる。さらには決定的な証拠が? ということで、不可能犯罪にどうやって決着をつけるんだろう、と思ってたら、 やられました……。森さんもこんな叙述トリック使うんですね。
(2017.02.10)
★★★
またまた東川さんの新シリーズ。今度は南武線沿線、武蔵溝ノ口。 といっても主人公が住んでるのは隣の武蔵新城だったりするわけなんですが。
母が世界的に有名な探偵、父が全国的に有名(?)な探偵、という探偵一家に生まれたお嬢様アリサ(10歳小学校四年生)は、 自らを「探偵」と名乗り、なんでも屋の橘良太を「良太」と呼びすてにして、 コキ使うのであった。
溝ノ口、武蔵新城、武蔵小杉、といったローカルな舞台に、 アリサが推理を繰り広げる新シリーズ。まあ、言ってしまえば、 いつもの東川作品なんですが。 ドラマ化もされたようです。
(2017.01.29)
★★★
妻と娘を殺した男の動機、それは「本が増えて家が手狭になったから」という衝撃の理由だった。 ノンフィクション作家の「私」が取材を続けていくうち、その男の周りには不審な死がいくつもあることが判明し……。
とても引き込まれる題材ではあるんですが、最後結局なんだかはぐらかされたようなオチに着地してしまって、 それはそれでわかるんですけど、ちょっとスッキリしなかったかな、という印象。
(2017.01.29)
★★★☆
火村と有栖シリーズ短編集。中編から短編まで、バラバラな長さの短編5本を収録。
「古物の魔」は凶器を巡るロジック一発で犯人を突き崩す王道の本格。 「燈火堂の奇禍」は安楽椅子もの。 「ショーウィンドウを砕く」は火村ものでは珍しい倒叙モノ。 ドラマにも採用されてましたね。 「潮騒理髪店」は、日常の謎を電話だけで解く、という趣向。 ラストの「怪しい店」は、名前もわからない犯人がロジックで特定される、 というギミックが見事な王道。
しかしこれ、もしかしてアリスとコマチって、ちょっといい感じになってたりします?
(2017.01.17)