推理小説の部屋

ひとこと書評


荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟 (集英社新書)

★★★  

「映画の面白さはサスペンスにあり!」。いわゆるサスペンス映画に限らず、 アクションやSF、果ては子供向けのアニメにまで、面白さの鍵はサスペンスにある、 とする荒木先生の分析記録。「ジョジョ」に活かされているところも多数あり、 なるほどと感心させられます。

日本の昼メロの「真珠夫人」「牡丹と薔薇」が入っているのが面白かったです。 昼ドラとか観るんだ……。

(2013.06.29)


レヴォリューションNo.0/金城一紀 (角川文庫)

★★★  

「ザ・ゾンビーズ」結成前夜を描いた、エピソード0。そしてシリーズ完結篇。

これで終わりってのはちょっと淋しいですね。いくらでも書けそうな題材なんだけどなあ。

(2013.06.29)


燦(4)炎の刃/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

「闇神波」が動き出し、その魔の手はついに燦の故郷にいる篠音にまで及ぶ。 圭寿の兄の側室だった静門院は、魔性の女らしい。 そしてついに伊月の元にも……。

久しぶりに篠音が出てきたと思ったら、速攻拉致られました……。ヒロイン……。

(2013.06.29)


三つの名を持つ犬/近藤史恵 (徳間文庫)

★★★☆ 

売れないモデルの都は、愛犬エルとの暮らしをブログに続くことにより人気が出始め、 エルと一緒の仕事が増え始める。そんな中、不慮の事故でエルは死んでしまう。 エルの代わりの犬を探す都は、やがて大きな秘密を抱えることになる……。

都視点の第1部と、彼女の秘密を知り強請ろうとする江口視点の第2部の2部構成。 第1部のサスペンス感がたまりませんね。 小さな嘘を隠そうとしてさらに大きな嘘を重ねていく羽目になる、泥沼スパイラル。

そして2部になると都が客観的に描写されるせいか、1部ほどの切迫感はなく、 それでもじんわりと包囲網が狭まって行くような感覚があります。 秘密にも、絶望にも、希望にもなる、そんな素敵なラストでした。

(2013.06.22)


赤い糸/蘇部健一 (徳間文庫)

★★★★ 

「赤い糸で結ばれたふたりが出逢うまでの物語です……。」という帯のキャッチコピーに、 嘘偽りはありません。

「六とん」で培われた、「ページをめくると脱力絵オチ」という技法を駆使しながら、 「赤い糸」を巡る様々な物語が展開されていきます。 大体は脱力系のオチなんですが、しかしそのオチも実は周到に計算されていたことが、 読み終わるとわかります。特に最終話は、初読では理解できなかったところもありましたが、 読み返してみると、なるほど巧いな、と。

「恋愛」「ミステリ」「ギャグ」「叙述」のバランスが非常に良く取れている短編集だと思います。

(2013.06.19)


浜村渚の計算ノート 4さつめ 方程式は歌声に乗って/青柳碧人 (講談社文庫)

★★★  

短編集4冊目、長編入れると5冊目。 今回のテーマは「確率」「折り紙と展開図」「二乗とルート」「未知数と一次方程式」。

ここに来てまさかのドクター・ピタゴラスの退場と、 狂言回し役だったはずの武藤の「お兄ちゃん」が現れ新ボスの座につくなど、 黒い三角定規との関係にも変化の兆しが見えてきています。

しかし数学ネタは尽きないだろうから、その気になればいくらでも続けられそうではありますね。

(2013.06.19)


浜村渚の計算ノート 3と1/2さつめ ふぇるま島の最終定理/青柳碧人 (講談社文庫)

★★★  

シリーズ初の長編。もちろんテーマは「フェルマーの最終定理」なんですが、 他にも「クラインの壺」やら「パスカルの三角形」やら数学ネタが満載。

(2013.06.16)


浜村渚の計算ノート 3さつめ 水色コンパスと恋する幾何学/青柳碧人 (講談社文庫)

★★★  

3冊目。今回扱っているテーマは、「クレタ人のパラドックス(論理学)」「三角関数」 「プラトン立体」「無理数と黄金比」。

意外とあっさりと催眠に対する対策はできました。さらに鈴という新兵器もあるようですが。

個人的な興味もあって、やはり論理パズルが一番面白かったですね。

(2013.06.08)


浜村渚の計算ノート 2さつめ ふしぎの国の期末テスト/青柳碧人 (講談社文庫)

★★★  

2冊目。今回扱っているテーマは、「ルービックキューブ」「累乗」「modulo」「n進法」。

「不思議の国のなぎさ」は確かにファンタジー色強いですね。

個人的には、オイラーの等式は「eⅈπ=-1」よりは、 全ての「単位元」が出てくる「eⅈπ+1=0」の方が好きなんですが。

(2013.06.06)


幻想郵便局/堀川アサコ (講談社文庫)

★★★  

「なりたいもの」がわからず就職浪人中のアズサ。特技に「探し物」と書いて提出していた履歴書のお蔭で、 山の上の郵便局でのアルバイトが決定。しかしそこの郵便局は普通の郵便局ではないようで……。

あの世とこの世を結ぶ場所、ってのは色々な話に良く出て来ますが、 郵便局ってのはなかなか斬新ですね。しかも生者も死者もその気になれば訪れることが出来てしまう、 という緩い設定がなかなか面白いです。

出てくる人物のほのぼのさ加減に比べて、殺人事件のドロドロさがちょっとミスマッチな感じもしますが、 怨霊を成仏させるためには仕方ないところではありますね。

続編は「幻想映画館」ということですが、主人公は代わるみたいですね。

(2013.06.02)


浜村渚の計算ノート 1さつめ/青柳碧人 (講談社文庫)

★★★  

「数学の地位向上のため国民全員を人質とする」。天才数学者・高木源一郎が立ち上げたテロ組織「黒い三角定規」。 彼に対抗するためには、彼の作った教育ソフトで学んだことない、 39歳以上、あるいは塾に通ってない中学生以下、あるいは数学の苦手な人物に限られた。 そこで、数学が大得意でありながら塾に通っていない中学生・浜村渚が抜擢された。

数学を武器にテロリストと対決する、という数学ミステリ。 しかしキャラクターのほのぼのさ加減と、殺人まで辞さないテロ行為が、 ちょっとマッチしていない印象も受けます。 まあ警察を動かすためには仕方ない面もあるんでしょうが。

今回取り上げられてるテーマは、「四色問題」「0の発見」「フィボナッチ数列」「円周率」。 最初の「四色問題」の解決はなかなか鮮やかでした。

巻末の解説の竹内薫さんのテンションが、コマ大数学科に出演している時と全然違ってて、 それに一番驚いたり。

(2013.06.02)


天地明察(上)(下)/冲方丁 (角川文庫)

★★★★ 

徳川四代将軍家綱の治世、四大碁打ち家の一つ・安井家に生まれながら、 予め打ち筋の決められた「上覧碁」に飽きていた渋川春海は、 星の動きや算術に心を奪われていた。 そんな彼に、「日本独自の暦を作り上げる」という大任が降ってくる。 果たして、春海はこの一大プロジェクトを完成できるのか?

日本が誇る数学の天才・関孝和などの有名人が次々と。 水戸光圀が、水戸黄門のイメージとまるで違って、 素手で人を殺せそうなほどの豪傑として描かれているのに笑いました。

暦の完成に、天文学・数学が活かされたのはもちろんですが、 それが朝廷に採用されるための入念に張り巡らされた布石には、 囲碁で培った力が存分に生かされていましたね。

(2013.05.29)


エール!2/坂木司・水生大海・拓未司・垣谷美雨・光原百合・初野晴 (実業之日本社文庫)

★★★☆ 

女性お仕事小説アンソロジー、第2弾。 今回は「スイミングインストラクター」「社会保険労務士」「宅配ピザ店店長」 「遺品整理会社社員」「コミュニティFMパーソナリティ」そしてただの「OL」。 しかしこの中ではただの「OL」が一番ファンタジー色が強かったり……。

第1弾でも、あとの作品に漫画家「いくたゆり」が出てきたり、と作品間リンクが結構あちこちにあって、 収録順に前の作品を読んで書いてたりするのかな?と思っていたんですが、 今回「宅配ピザ店店長」と「遺品整理会社社員」では、相互リンクがありますね。 ということは、プロットの時点でお互いに情報を共有してから書いてるってことなんでしょうか。

(2013.05.17)


カンナ 戸隠の殺皆/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

カンナシリーズも第5弾、折り返し地点に。

しかし出てくる忍び集団、ちょっと簡単に殺人を犯し過ぎではなかろうか。 いや、能力として出来るのはわかるんですが、現代でそれやっちゃうと、 色々と面倒だと思うんですがね。

(2013.05.17)


いつか、ふたりは二匹/西澤保彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

講談社のジュブナイル「ミステリーランド」向け企画として書かれた作品。 西澤さんお得意のSF新本格風に、「寝てる間だけ猫に憑依できる能力を持つ小学6年生の男の子」が主人公。

料理を含めた家事を完璧にこなしたり、と西澤さんが書くらしい、 普通じゃない子供ですね。ファンタジーでほのぼの、かと思いきや、 起こる事件は結構ハードで、犯人の描写も含めて、 子供のトラウマになりそうな感じもします。

もうちょい余韻が欲しかった気もしますが、なかなか短くまとまった傑作でした。

(2013.05.17)


真夏の方程式/東野圭吾 (文春文庫)

★★★☆ 

「ガリレオ」シリーズ長編。6月の映画公開に合わせて文庫化。

美しい玻璃ヶ浦の海を守ろうとする女性・成実と、 海底資源採掘の実験と手法T.T.のために訪れた湯川。 成実の従兄弟の小学生・恭平に科学の面白さを教えようとする湯川だったが、 やがて一人の男の死体が岸辺で見つかる。彼は引退した元刑事だった……。

科学トリックが使われている部分(ハウダニット)は、物語全体の5%くらいで、 あとはこの家族が抱えている過去、そしてなぜ死ななくてはならなかったのか、 という部分の解明(ホワイダニット)がメインですね。

湯川が子供と話すとじんましんが出る、ってのは、ドラマオリジナルの設定でしたっけ? あと、結構酒好きなんですね。これまであんまりその印象は無かったです。

(2013.05.17)


エール!1/大崎梢・平山瑞穂・青井夏海・小路幸也・碧野圭・近藤史恵 (実業之日本社文庫)

★★★☆ 

「女性お仕事小説」文庫書き下ろし。アンソロジーの第1弾。

「漫画家」「通信講座講師」「プラネタリウム解説員」「ディスプレイデザイナー」 「スポーツ・ライター」「ツアー・コンダクター」、 という6つの異なる職業にスポットを当てたお仕事小説アンソロジー。

それぞれの職業ならではの悩みが描かれていて、 面白かったです。

(2013.05.12)


ヴォイド・シェイパ/森博嗣 (中公文庫)

★★★☆ 

中公文庫からで、タイトルの付け方も同じような感じだったので、 「スカイ・クロラ」シリーズのスピンオフでも始まったのかな? と思っていたのですが、全くの別シリーズでした。 しかも科学やSF系を書いてきた森博嗣さんとしてはまさかの時代劇。 それもSFやパラレルワールド混じりではなく、侍が出てくるど真ん中な時代劇です。

スズカ・カシュウという名の知れた剣豪の元で山の中で育てられたゼン。 カシュウの遺言に従い、山を下りることに。 果たして剣とは、強さとは何なのか?

タイトルは「虚空を裂く者」といった意味でしょうか。 本当に真っ当な時代劇になっていて驚きました。 世間からすると相当な達人であるはずのゼンですが、 悩みまくりながら成長していきます。 今後ゼンが何を見つけるのか、楽しみです。

(2013.05.02)


必然という名の偶然/西澤保彦 (実業之日本社文庫)

★★★  

「腕貫探偵」の櫃洗市を舞台にした「番外編」的位置づけの短編集。 腕貫探偵は出てきません。

「日常の謎」系なのかと思いきや、意外としっかりと殺人事件が起きてます。 冒頭と巻末の連作「エスケープ・ブライダル」と「エスケープ・リユニオン」には、 「モラトリアム・シアター」に出てきたド派手な大富豪探偵が登場。 こちらが書かれたのは先のようです。

(2013.04.27)


新・新本格もどき/霧舎巧 (光文社文庫)

★★★☆ 

新本格もどきの続編。 新本格第二世代の、二階堂黎人、北村薫、芦辺拓、森博嗣、西澤保彦、麻耶雄嵩、 の各作品を「もどき」ます。

いつの間にか始まった女性だらけの宗教集団“HOOK IN SHOW”との長い戦い。 記憶を失っている「吉田」はちゃんと探偵役をこなすことができるのか?

今回の収録作品は、

最後、それまでの伏線を急いで回収するために、立て続けに「HOOK IN SHOW」のメンバが大量に殺されていくところは、 ちょっと雑だなあ、と思いましたが。 最後自分自身の作品を「もどいた」ということは、これで完結……なんですよね?

(2013.04.20)


モップの精と二匹のアルマジロ/近藤史恵 (実業之日本社文庫)

★★★  

新婚で地味な女性・越野真琴から、美形の夫・友也の行動を探って欲しいと頼まれたキリコ。 家と違うマンションへと立ち寄る友也。果たして浮気をしているのか? そんな時、友也は交通事故に遭い、3年間の記憶を失ってしまう。 果たして二人はやり直すことができるのか?

“モップの精”キリコ・シリーズ、初の長編。 大介とキリコが相変わらず仲がいいのは嬉しいのですが、 その分友也・真琴の二人の痛々しさが、ちょっと辛いですね。

ちなみに「モップ」シリーズ初期作品が、5月にBSプレミアムで全4回でドラマ化されるようです。

(2013.04.20)


県庁おもてなし課/有川浩 (角川文庫)

★★★★ 

高知県県庁に生まれた新部署「おもてなし課」。 地元出身の人気作家・吉門に観光特使を依頼したものの、ダメ出しの嵐を喰らう。 どうしたら「お役所仕事」を脱することができるのか悩む県庁職員・掛水に対して吉門は、 二十数年前に県庁で「パンダ誘致論」をぶって閑職に追いやられた伝説の職員・清遠を調べてみろ、と言うのだが……。

高知県県庁に「おもてなし課」は実在するそうです。 そんな新しい試みに挑戦する課を舞台とした、一種のお仕事小説(お役所小説?)。 相変わらずラブコメ要素もふんだんに盛り込まれ(しかも2組も)、 読後はすっきりします。映画化されるそうですね。

(2013.04.14)


ヴィヴァーチェ 紅色のエイ/ヴィヴァーチェ 宇宙(そら)へ地球へ/あさのあつこ (角川文庫)

★★★  

あさのあつこの新シリーズ。近未来・王国が支配する専制が敷かれた世界。 貧民として生まれた子は貧民のままで生きるしかなかった。 ヤンは、親友・ゴドとの約束を胸に、宇宙へ旅立つ。

相変わらずの少年2人主人公……かと思いきや、ゴドの方は、 ヤンが宇宙に出てしまってからはしばらく出てきません。

単行本2巻分を再編集して、掲載部分を追加したもののようですが、 どうやらこれの続きは書かれてないみたいですね。 何かいかにも地球に戻ってからの続きがありそうな終わり方なんですが……。

(2013.04.07)


←ひとこと書評・インデックス
←←推理小説の部屋へ
→自己満・読破リスト
→推理小説関連リンク
!新着情報

↑↑趣味の館へ

KTR:ktr@bf7.so-net.ne.jp