推理小説の部屋

ひとこと書評


BASTARD!! 黒い虹I/萩原一至・ベニー松山 (集英社スーパーダッシュ文庫)

評価保留

前に読んでたのがあまりにも重かったので、バランスを取るために軽いものをということで。 ちょっと軽すぎるか?(笑)

マンガ「BASTARD!!」の小説版。マンガで描かれているよりも100年前の、 まだ300歳の頃のD.S.と、先代四天王(まだ3人しか出てきてないけど。 4人目って「地」系の魔法使い?)。 魔法が存在しない幻の大陸で、D.S.の人生300年にして初めてのピンチが。

大半がひたすらD.S.の強さや残虐さを印象付けるためのエピソードなので、 マンガ知ってる人にとってみると今更、という気もしますが。 まあ、「今の」D.S.とは大分違ってますけどね。 本編とつながる伏線としては、まだ子供のネイやらカルやらが出てきてますけど。

今後どういう方向に進むのかいまいち不明なんですけど。 そういやこれの前にも2冊ほど出てるんですね。読んでみようかな。

「奇跡島」と「鉄鼠」という2大分厚い本を読んでしまったおかげで、 9月の読了冊数はかなりの危機でしたが、何とか8冊と一応の基準を達成。 これで7月〜9月の読了は26冊。 年間通算では81冊(のべ83冊)となり、年間100冊に向けて、 まずまずのペースを保っています。

(2001.09.30)


文庫版 鉄鼠の檻/京極夏彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

2週間かかってようやく読了。1359ページ(解説込み)。厚過ぎるっちゅうの。

今回落とすのは「鼠と化した坊さん」。 未発見の禅寺で起こる不可解な(不可能な、ではない)僧侶連続殺人。

途中での100ページ以上に及ぶ京極堂による仏教および禅の歴史の講義は圧巻。 しかし確かにこれがないと動機も真相も理解できないしなあ。

まあ犯人というものは基本的に自分勝手なもんなんですけど、 この犯人の動機は史上かつてない自分勝手さですなあ。 まあ、動機が理解できないからというのもあるんですけどね。

6人の役付き坊主のうち、京極堂が諭したのが2人なら、榎木津が諭したのも2人。 自分の好きなように行動しながら、いつの間にか解決しているという榎木津の方が、 遥かに効率がいいよなあ(笑)。

ああ、これで明日からあの分厚くて重い本を持ち歩かなくてもよいかと思うと(笑)。 次の文庫発売は来年9月だそうですが、1年に1冊くらいのペースでちょうどいいかも。

(2001.09.28)


光の帝国 常野物語/恩田陸 (集英社文庫)

★★★★☆

恩田陸さんの連作短編集。 意外でしたが、実は恩田さんの連作短編を読むのは初めてでした。

いわゆる「超能力」を持ちながら、人の世に解け込み目立たないように生きる常野の人々。 そんな常野の人々の色々なエピソードを詰め込んだ贅沢な一品。 基本的には話ごとに主人公が変わるんですけど、 たまに同じキャラクターが出てきたり、 別のエピソードのキャラが別の話にゲストとして登場していたりするのが、 「連作短編」としての一体感を高めています。

いやあ、面白い。この世界の話をもっと読んでみたい、という気にさせます。 続編希望。

(2001.09.15)


奇跡島の不思議/二階堂黎人 (角川文庫)

★★★☆ 

昭和初期、名家の娘の手により享楽の限りが尽くされ、 彼女の不可解な死以来封印されてきた魔島・奇跡島。 大学の美術サークル「ミューズ」の面々は、 「白亜の城」に残された膨大な美術品の数々を鑑定するために奇跡島に渡った。 しかし彼らを出迎えたのは凄惨な連続殺人だった…。

「二階堂蘭子」シリーズ以外の作品を読むのは実は初めてだったり。 ど真ん中直球の本格です。無人島、館、そして一人ずつ殺されていく、 というシチュエーションはまさに「そして誰もいなくなった」。 ちゃんと殺される度に1個ずつ壊されていく蝋人形も登場しますし。

また、大学のサークルのメンバー達、という点では「十角館の殺人」や「月光ゲーム」 も思い出されますね。 あと、美術論が頻繁に飛び交うところはかの問題作「夏と冬の奏鳴曲」 を思い出させます。 しかしこの作品はそれらのどれよりもド直球ですね (まあ「月光ゲーム」はかなり直球だったけど)。 ただ作品の場合、メンバーのキャラ付けがいささか極端で、 特に最初のカメラ前でのメンバー紹介のわざとらしさはかなり引いてしまいましたけど。

「蘭子シリーズ」は「密室トリック」に重点が置かれてましたが、 この作品は「フーダニット」に挑戦した作品だそうです。 まあ、でもやっぱりお約束の密室は出てきますけど。

この「不思議」シリーズも続編が既に連載開始しているとか。 「蘭子」シリーズの第2部再開はまだ先になりそうです。

しかしこの作品も厚くて、読むのに1週間もかかってしまいましたが、 先日発売された「文庫版 鉄鼠の檻」に至ってはこの作品のさらに倍! の1300ページ以上。おそるべし。一体どれくらいかかるんだろう。 軽めの薄い本を挟んでからにしようっと。

(2001.09.15)


ブードゥー・チャイルド/歌野晶午 (角川文庫)

★★★★☆

今ぼくは第二の人生を送っています。つまりぼくには前世があるのです。 ある雨の日の晩にバロン・サムデイがやってきて、おなかをえぐられて、 そうしてぼくは死にました。前世、ぼくは黒人でした。 チャーリー―それがぼくの名前でした。

幼い頃テレビで見て刷り込まれた記憶?精神分裂?デ・ジャヴ?
中学生となった晃士は、あまりにも生々しい「前世」の記憶にとまどっていた。 そんな折、母親が惨殺され、その傍らにはバロン・サムデイの悪魔の紋章が残されていた…。

謎としてはまさに一級品!どこからどうみても超科学やオカルトでなければ説明がつかないような謎が、 しかし一つ一つ解明されていく後半はまさに圧巻。 こういう大掛かりな「謎」って久々だったこともあって、一気読みしてしまいました。

ところで、最初のほうにBBSの書き込みが出てくるのですが、 ここでのやり取りが妙にホンモノっぽい(笑)。 冷やかしやら荒らしやら、「ああ、いるいる、こういう書き込みする奴」 って感じで。この本の単行本が出たのは1998年だそうですが、 こんなにリアルなネット上の会話を本で読んだのは初めてかも。

(2001.09.08)


人質カノン/宮部みゆき (文春文庫)

★★★  

終電帰りに寄ったコンビニで遭遇したピストル強盗は、 尻ポケットからなぜかガラガラを落としていった…。

表題作他、作者お得意の「日常に潜むミステリ」を描いた7作を収録した短編集。 ただ、「いじめ」を扱ってる作品が3作品もあったりして、 どうも全体的に暗く、すっきりしない後味の作品が多かったです。 ほんわかしたのは「十年計画」くらいかなあ。

これが、たまたまこういうカラーの作品を集めたからなのか、 それとも作者の嗜好がこういう方向に向かっているからなのかはわからないのですが。 確かにリアリティもいいんだけど、 また「サボテンの花」みたいな作品も読んでみたいなあ、 と思うのでした。

(2001.09.07)


北村薫の本格ミステリ・ライブラリー/北村薫編 (角川文庫)

★★★  

本格原理主義者として名高い北村薫さんのセレクトした、埋もれた名作本格ミステリのアンソロジー。 有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリーと同時発売。

1. 懐かしの本格ミステリ―密室三連弾プラス1、2. 田中潤司語る―昭和30年代本格ミステリ事情、 3. これは知らないでしょう―日本編、4. 西條八十の世界、5. 本格について考える、 6. ジェミニ―・クリケット事件(アメリカ版)、の6つの章から成ってます。

有栖さんのが比較的わかりやすい「トリック」に焦点を当てた本格セレクションだったのに比べると、 北村さんのは少し難解というか、「これが本格?」という感じのものが結構入ってる感じですね。

お気に入りを挙げてみると、ブランド女史の名作「ジェミニ―・クリケット事件(アメリカ版)」(今度イギリス版を読み返してみようっと)、 実現の成否はともかく大技が心地よい「ガラスの橋」、 酔いどれ弁護士の鮮やかな法廷逆転劇が気持ちいい「スクイーズ・プレイ」、 の3本ですかね。

(2001.09.02)


有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー/有栖川有栖編 (角川文庫)

★★★☆ 

有栖川有栖さんの選んだ、「レア物」本格ミステリーのアンソロジー。 「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」と同時発売されました。

1.読者への挑戦、2.トリックの驚き、3.線路の上のマジック、4.トリックの冴え、 の4つの章に分類された、作品の数々。 なんとつのだじろう氏の漫画まで収録されているというバリエーションぶり。 有栖さんが言っているように、「トリック」に重点が置かれた作品が多いですね。

中でのお気に入りを挙げてみると、 鉄道もの(でも時刻表アリバイものではない)「水の柱」、 叙述とアリバイトリックを見事に融合させた「『わたくし』は犯人……」、 最後の一行までニヤリとさせられるパロディ密室物「『引立て役倶楽部』の不快な事件」、 の3本ですかね。 いやあ、本格ってやっぱ面白い。

(2001.09.01)


仔羊たちの聖夜/西澤保彦 (角川文庫)

★★★☆ 

タック&タカチシリーズ・長編第3弾。 今回は、タックとタカチがボアン先輩の元で初めて出会った時のエピソードを軸に、 クリスマスイブに起きた不可思議な「自殺」について。

ああ、タカチのイメージがどんどん神格化されていく(笑)。 いや、もうホント、タックの朴念仁ぶりにはイライラさせられますが。 しかしタカチもやっぱり重い過去を引きずっているようですねえ。 このシリーズ、キャラクターのやり取りはホントに軽妙で面白いんですけど、 それとバランスを取るかのように(?)、事件の真相は「知らなきゃよかった…」 という位重いんですよねー。

このシリーズ、長編は現時点であと「スコッチゲーム」と「依存」の2冊あるようです。 特に「依存」ではメインキャラクターの間の関係にとって重大なターニングポイントとなる作品だとか。 楽しみでもあり、怖いようでもあり…。

(2001.08.30)


ジュリエットの悲鳴/有栖川有栖 (角川文庫)

★★★☆ 

有栖川有栖さんというと、いろんなアンソロジーに載せてる短編でも大抵火村か江神が出ている、 というイメージがあります。強力なシリーズキャラクターを持っている作家ですね。 しかしそんな有栖さんの、シリーズキャラクターの出ていない短編を集めたのがこの一冊です。

いい意味でバラエティに富んでいる、悪い意味でまとまりのない短編ですが、 シリーズものでは味わえない雰囲気の作品もあって、なかなか楽しめました。 中でもやはり一押しは「登竜門が多すぎる」。 ペダンティックバリバリの難解な文章を一発変換できるワープロ「虫太郎」と、 トラベルミステリに最適化されていて時刻表挿入機能を備えたワープロ「京太郎」ってのには、 本当に笑わせていただきました。

(2001.08.25)


R.P.G./宮部みゆき (集英社文庫)

★★★★ 

宮部みゆき初の文庫書き下ろし作品。

ある男が殺された。その男には、本当の家族の他に、 ネット上での別の「家族」があった。 果たして犯人は「家族」の誰かなのか?

「クロスファイア」の石津刑事と「模倣犯」の武上刑事が共演。 といっても私はどちらもまだ読んでませんけど。 物語は、取り調べ室を中心とした、ほとんど一幕劇で進行します。 「十二人の怒れる男」や「十二人のやさしい日本人」のような、 法廷物の雰囲気がありますね。 取り調べを通じて、段々と人間関係や背景が明らかになっていき、 そして最後に意外な結末が…。

読み終わってみると、「R.P.G.」というタイトルはなかなか奥深いなあ、 と思いました。

(2001.08.23)


誘拐症候群/貫井徳郎 (双葉文庫)

★★★★ 

「症候群」シリーズ三部作第2弾。 今回はチームの中の托鉢僧・武藤にスポットが当たります。 彼がふとしたきっかけで知り合ったある男と、巻き込まれた誘拐事件。 それと並行して描かれるインターネットを利用した小口誘拐。 2つの事件が交わる時、そこには環率いる「チーム」の姿が…。

インターネットの匿名性、プライバシー情報が無防備に曝け出している実態、 などが活かされてますね。

「失踪症候群」では私立探偵の原田が主役だったため、 チームの他の2人(倉持・武藤)に比べ、原田は平凡な男に描かれていましたが、 今回武藤の視点から見てみると、原田もかなり得体の知れない男に見えてくるから不思議(笑)。

法的に逮捕が難しい犯人に対する「天罰」も痛快そのもの。 さすがに「必殺」のように殺してしまうわけにはいかないですが、 社会的には抹殺されたも同じですね。 環という男の容赦の無い徹底ぶりには背筋が寒くなるほどです。

三部作最後の「殺人症候群」はまだ連載中らしいので、 文庫落ちするのは相当先になるでしょうが、楽しみにしたいと思います。

(2001.08.19)


黄色館の秘密 黒星警部シリーズ/折原一 (光文社文庫)

★★★  

密室や本格推理を愛するが故に、なんでもない事件でも「密室だ!」と騒ぎ立て、 事件を迷宮入りさせてしまう。 そんな愛すべき黒星警部が活躍(?)するシリーズ、文庫書き下ろしです。

といっても、私は黒星警部が活躍するシリーズは、 デビュー作の「七つの棺」しかないんですけど。 まあ、でも強烈なキャラクタなので、割とすぐ入っていけますけどね。

例によって、本格モノのパロディ的要素が満載です。 今回ももちろん黒星警部が思わず「ウヒョッ」と叫んでしまう不可能犯罪のテンコ盛りですが、 その真相は馬鹿馬鹿しいというかなんというか…。

しかしパロディっぽい中にも折原さんらしい趣向が凝らしてあったのには感心しました (ってこれだけでもわかる人には思いっきりネタバレだよなあ。 ホント書評家泣かせな作家だわ)。

(2001.08.17)


失踪症候群/貫井徳郎 (双葉文庫)

★★★☆ 

貫井徳郎さんの「症候群三部作」第1弾。実は知らなくて、 新刊で「誘拐症候群」が出ていて、買おうとしたらどうやら前作があったと知って、 慌てて探して買ったんですが。

一見無関係に見える若者たちの失踪。その背後にあるものを探って欲しい。 警視庁警務部人事二課に所属する「窓際族」環敬吾に刑事部長から直々の指令が下った。 環は「チーム」のメンバーを召集し、行動を開始した。

現代の「仕事人」的雰囲気の小説。ミッシングリンクもの、ハードボイルド風味、 倒叙もの、など様々なエッセンスが詰め込まれていて、楽しめます。 主人公「チーム」のメンバーのキャラがいいですね。 静かな迫力を持つリーダー・環、元刑事の悩める私立探偵・原田、 下品で陽気な肉体労働者・倉持、若いながら迫力を持つ托鉢僧・武藤。 三部作らしいので、続編を読むのが楽しみ。

(2001.08.14)


瞬間移動死体/西澤保彦 (講談社文庫)

★★★★ 

またまた出ました、西澤さんのSF新本格モノ。今月は角川文庫からもタック&タカチシリーズ出るし、 発刊ペースの早い作家さんはいいなあ。

今回はテレポーテーション能力を持つ主人公が、完璧なアリバイ殺人を企てるところから話がスタート。 テレポート能力があったら、そりゃアリバイなんか意味無いよなあ、と思うでしょうが、 そこは西澤さん。能力にさまざまな制約をつけて、そう簡単にはコトが運ばないようになってます。

  1. テレポートにはアルコールが必要である。しかも主人公は下戸。 コップ半分のビールで酩酊状態になってしまうのだが、 その酩酊状態にならないと能力は発揮できない。 ただしテレポートを完了すると、アルコールはすっかり抜けている。
  2. 衣服やその他のものは持っていけない。従ってテレポート先では必ず裸になっている。 またテレポート先でアルコールが補給できないと戻ってくることもできない。
  3. テレポートすると、テレポート先にあった物体(バランスウェイト)が何か1つ必ず元の場所へと逆に転送される。

しかし主人公が「決行」を決意した時、 クローゼットから男の死体が転がりだし、事件は全く違った展開を…。 一体犯人は誰なのか? 相変わらず伏線バリバリで、意外なオチには意表を衝かれます。 しかし登場人物達が揃いも揃って異常な愛情(性癖?)の持ち主なので、 どうも感情移入がいまいちできにくい面はありましたけどね。

(2001.08.12)


爆笑問題のピープル/爆笑問題 (幻冬舎文庫)

★★★  

いや、だから、「ミステリの部屋」でこれを取り上げるのは抵抗あるんですが、 年間100冊のためには手段は問わないということで。

4年ほど前に(まだスカイTVと合併前の)「パーフェクTV」でやってたらしい、 爆笑問題がホストで、毎回「文化人」の人をゲストに迎えて送っていた、 トークバラエティのノベライズ(の文庫化)。 ゲストは中沢新一、島田雅彦、糸井重里、織田無道、なぎら健壱、などなど各ジャンルの多彩な人ばかり。

爆笑問題の本って、ノベライズされた本を読んでいても、 二人の会話が鮮やかに蘇ってくるような感じがして、テレビと変わらず面白いんですよね。 思うに、これは田中のツッコミが、あまりに型通りであるがために、 「間」とかのテレビ独特の要素を考慮する必要がないためではないか、 と思うのですが、いかが?

(2001.08.09)


殉教カテリナ車輪/飛鳥部勝則 (創元推理文庫)

★★★★ 

同時に起こった二つの密室殺人。 鍵のかかった浴室に、雪の降り積もった山荘という「二重の密室」。 さらに二つの密室殺人の凶器は同じナイフ。 ダイイングメッセージまで絡んで、まさに本格ものの要素テンコ盛り。

この二つの密室殺人を解く鍵となるのが、二枚の絵画。 この挿絵も本人が描いてるらしいのですが、 ミステリと、イコノロジー(絵に描かれたことを解釈する学問らしい)を絡めていて、 非常に面白い構成になってます。 さらに叙述ミステリの要素まで入っていて、 これは本格好きには堪えられない作品ですね。 個々の要素はそれほど目新しくもないんですが、 なんというか、組み合わせ方が絶妙で、 「うまい!」という感じです。

(2001.08.09)


上と外 6.みんなの国/恩田陸 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

隔月間リリースの「グリーンマイル」式文庫書き下ろしシリーズも、 当初の予定より4ヶ月延びて、ようやく完結。

これでもか、これでもか、という具合にピンチが訪れますが、 危機一髪のところで切り抜けていく…。まさにダイ・ハードな展開。 思わず読んでいる最中は、 彼らが中学生・小学生であることを忘れてしまいました (エピローグでようやく思い出した)。

最後は収まるべきところに全て丸く収まった、という感じで、 さすがですね。面白かったです。もう一度読み返してみれば、 気づかなかった伏線とか、あるいは未消化の伏線とか(笑)、 気づくかもしれませんね。

(2001.08.04)


殺人交叉点/フレッド・カサック (創元推理文庫)

★★★★ 

山口雅也さんのミステリー倶楽部へ行こうで、 とある女子大生が「読み終わった後思わず家中を走り回った」と紹介されていた作品。 表題作「殺人交叉点」と、「連鎖反応」の2作を収録。

いやあ、やられましたね。久々に心地よい「ヤラレタ」感を味わうことができました。 何言ってもネタバレになりそうなので、感想はパス。

もう一本の「連鎖反応」の方はかなり(ブラック)ユーモアの効いたミステリ。 どちらの作品もいかにもフランス、という感じが滲み出てますね。

(2001.07.31)


ミステリー倶楽部へ行こう/山口雅也 (講談社文庫)

★★★  

山口雅也さんが、作家となる前から書き続けていたミステリに関する書評やコラムを集めた一冊。 山口さんの、本格ミステリに対する「愛」がヒシヒシと伝わってきますね。 特にクイーン、カー、ブランドに対する書評は圧巻ですね。

これだけ「本格」に対する思い入れが深い山口さんだから、 ストレートな本格ものはなかなか書こうとしても書けないのかも知れませんね。 もちろん設定が奇をてらってはいても、十分「本格テイスト」には溢れてるんですけど。 でも、だからこそ、山口さんの書く敢えてストレートな本格ものも読んでみたいなあ、 と思います。いつかやってくれないかなあ。

これ読んで読みたくなった本があったので、さっそく何冊か買ってきました。 うーん、楽しみ。

(2001.07.28)


三月は深き紅の淵を/恩田陸 (講談社文庫)

★★★☆ 

たった一人にたった一晩だけ貸すことを許された「三月は深き紅の淵を」 という四部作からなるミステリを巡る、四部作からなるミステリ。 一種のメタミステリになってます。

物語の「中」で語られる「三月は深き紅の淵を」は、 第一部「黒と茶の幻想」(風の話)、 第二部「冬の湖」(夜の話)、 第三部「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(血の話)、そして 第四部「鳩笛」(時の話)からなります。

第一部は大小さまざまな謎が散りばめられ、それらが解決され、あるいは放置されるという話。 第二部は死んだ恋人の死の秘密を探るために、恋人と恋人の親友の二人が旅をする話。 第三部は学園を舞台とした血縁にまつわる話。 第四部は作者自身の記述と小説の記述が入り乱れその境界が薄れていくといった具合。

そしてこの物語自身(「外」)の構成もやはり四部作になっており、 タイトルは内容は「中」とは異なっているものの、 少しずつリンクするようになってます。 第一部「待っている人々」では「三月は深き紅の淵を」の概要が語られ、 第二部「出雲夜想曲」では女性2人が旅をしながら「三月は深き紅の淵を」の作者の秘密に迫ろうとします。 第三部「虹と雲と鳥と」では、墜落死した女子高生2人の死の影に忌まわしい「血」の存在が。 そして第四部「回転木馬」では、作者のメタな記述と、(「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」と思しき)物語の断片とが入り混じる、といった具合。

この構成は面白かったです。「内」と「外」とが全く同じ構成のメタミステリってのは、 まあよくあるんですが、異なる構成をとりながら少しずつリンクしているというのが新鮮でした。 まるで「たった一人にたった一晩しか貸すことができない『三月は深き紅の淵を』 というミステリ」をテーマにしたアンソロジーを読んでいるような気分でした。 ただ、第四部はちょっとメタに行き過ぎたかなあ。 内容がほとんどなかったし。

(2001.07.24)


天帝妖狐/乙一 (集英社文庫)

★★★☆ 

デビュー作「夏の花火と私の死体」に続く、集英社文庫からの第2短編集。 第3短編集「石ノ目」はノベルスで先に読んでしまったので順番逆転してますが。

「トイレの落書き」からサイコサスペンス風の学園ミステリが展開される 「A MASKED BALLー及びトイレのタバコさんの出現と消失―」と、 コックリさんに取り憑かれた男の孤独な悲劇を描いた表題作「天帝妖狐」の2本を収録。 解説の我孫子武丸さんも書いてますが、「A MASKED BALL」はかなり出色の出来。 サスペンス、伏線、ミスリード等も見事だし、 「V3」の正体に関する扱いも鮮やか。 ここで描かれた主人公像は、 確かに後の角川スニーカー文庫のジュブナイル系の作品に受け継がれているようですね。

「天帝妖狐」の方はちょっと救いがないかなあ。面白いことは面白いんですが、 乙一作品にしてはちょっとひねりがないような。 全体評価としては、「A MASKED BALL」が4つ星で「天帝妖狐」が3つ星、 合わせて3つ星半、ということで。

(2001.07.21)


数奇にして模型/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

犀川&萌絵シリーズ長編9作目。 またまた密室です。しかも2つ同時に。一方は首も切られてます。 密室トリックの方は、なんか1周回って戻ってきた、って感じですけど、 まああんまりそっちはメインじゃないし。

元々このシリーズの犯人の「動機」は、かなり理解しがたい場合が多いのですが、 この作品の犯人の動機はシリーズ中でも際立って異色ですね。 いや、正常と異常の境界はどこ?とか聞かれても答えられないけど。

読み終わってからプロローグを読み返すと、 なかなか際どい表現も多いですね。なるほど。

一番笑ったシーンは、今回初登場の異色キャラ・大御坊と国枝助手が初めて会うシーン。
「まあ、貴女……、女性?」
「失礼ですが、貴方は男性ですか?」

この会話に両者のキャラクターが集約されてるなあ。

さあ、犀川&萌絵シリーズの長編もあと「有限と微小のパン」を残すのみ。 ついにあの「PERFECT INSIDER」真賀田四季博士が帰ってくる?

(2001.07.20)


ブルータスの心臓完全犯罪殺人リレー/東野圭吾 (光文社文庫)

★★★  

共犯者3人が死体をリレーすることで、それぞれアリバイを作る。 このトリックを基本として、物語は意外な方向へ。 第4の共犯者の正体とは?

ロボット部分と上記のトリックとがいまいちリンクしていないような気もしましたが、 犯人のミスリードにはすっかり騙されました。 なんか、でも「ブルータスの心臓」ってタイトルは、 あんまり内容と合ってないような気がするなあ。

(2001.07.13)


震える岩 霊験お初捕物控/宮部みゆき (講談社文庫)

★★★☆ 

「かまいたち」の中にも出てきた、江戸時代のサイキッカー少女・お初が活躍する長編。

お初には、他人が見えないものを見る能力がある。 その能力を認められ、南町奉行・根岸肥前守に命ぜられ、 兄の岡っ引きの六蔵を助けることになる。 深川で騒ぎとなった「死人憑き」、 油壷の中で見つかった少女の死体、 真夜中に鳴動する岩…。 さまざまな超常現象が100年前の赤穂浪士討ち入りへとつながっていく…。

宮部みゆきさんお得意の「超能力モノ」と「時代モノ」の両方を合わせた作品。 虚構と史実を適度に組み合わせ、いろんな事件を絡めて長編を作り上げてます。 基本的に登場人物がみないい人なので読んでて安心感があります。 このシリーズの続編ってのはまだないんでしょうか?

(2001.07.08)


サンタクロースのせいにしよう/若竹七海 (集英社文庫)

★★★  

若竹七海さんお得意の連作短編。

事件は、主に北村薫さんのような「日常の謎」。 スーパー素人探偵も出てこないし、超能力を使う人も出てきません。 しかしちょっと登場人物に変わった人たちが多いかな。 エキセントリックというか、ちょっと極端に性格を設定してありますね。 で、日常の謎とは言いつつも、結構後味の悪さもあったりするところが、 やはり若竹流か。救いがあるんだかないんだか。 伏線の張り方や、連作ならではの組み立て方などは、さすがと思いましたが。

(2001.07.05)


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