推理小説の部屋

ひとこと書評


ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ/滝本竜彦 (角川文庫)

★★★  

「NHKにようこそ!」の滝本竜彦のデビュー作。

高級牛肉を万引きしてきたばかりの高校2年生の山本の目の前に突如現れた、 セーラー服の美少女・雪崎絵理と、チェーンソー男。 平凡な毎日に行き詰まりを感じていた山本は、むしろ積極的にこの戦いに巻き込まれていくのであった…。

うん、青い。青春だなあ、という感じ。荒唐無稽な設定ですが、紛れもなく青春小説です。 この閉塞感は非常によくわかるのですが、 それをある意味ここまでストレートに表現した作品ってのもなかったかも。

(2006.04.02)


増加博士と目減卿/二階堂黎人 (講談社文庫)

★★★  

メタミステリの短編を集めた短編集。

ここでいうメタミステリとは、登場人物自身が、自分達がミステリの登場人物であることを認識しており、 物語外のことについて自ら言及する、というもの。 必然的に内輪ネタが多くなり、特に動機に関しては…。

まあ、メインとなるトリック自体はまとも(?)なので、 ミステリクイズみたいなもんだと思って楽しめばいいのでしょうけど。

(2006.04.02)


ダ・ヴィンチ・コード/ダン・ブラウン (角川文庫)

★★★★ 

世界的ベストセラー、ついに文庫化。

ルーブル美術館のソニエール館長が異様な死体で発見された。 ハーバード大学の宗教象徴学の教授・ラングドンは、 警察より捜査協力を求められる。 聖杯と暗号を巡る長い夜が始まった…。

歴史ミステリ、暗号ミステリ、さらにサスペンスと色んな要素が入っていて、 なるほどこれはベストセラーになるのもわかりますね。

ダ・ヴィンチの名画に隠された真実、オプス・デイとシオン修道会の聖杯を巡る対立、 次々と明らかになる裏切りのサプライズ、そして繰り返し現れる暗号と、 キリスト教にはあまりなじみのない日本人にとっても、 十分楽しめるエンターテイメントになってます。

ところでこれ、ラングドンシリーズの第2弾らしいのですが、 ということは最初の方で出てきた思い出の彼女ってのは第1弾のヒロインってこと? ということは第3弾になるとソフィーも過去の彼女扱いされていたりするんでしょうか。

(2006.03.25)


七つの黒い夢/乙一・恩田陸・北村薫・誉田哲也・西澤保彦・桜坂洋・岩井志麻子 (新潮文庫)

★★★  

新潮社の「七つの〜」オムニバスシリーズ。 ダーク・ファンタジー7編を収録。

乙一さんの「この子の絵は未完成」は相変わらず独自世界にあっという間に引き込まれますね。 誉田哲也さんの「天使のレシート」のブラックさにはちょっとやられました。

(2006.03.11)


奇蹟の輝き/リチャード・マシスン (創元推理文庫(

★★★  

「ある日どこかで」のリチャード・マシスンが送る、愛の奇蹟の物語。

不慮の事故により死んでしまったクリス。 紆余曲折の末に「常夏の国(サマーランド)」に辿りついた彼だったが、 最愛の妻・アンとの再会を望む前に、アンが自殺してしまったことを知る。 地獄に囚われてしまったアンを救い出すために、クリスの命がけの冒険が始まる…。

「死後の世界」は実在する、という話。 いろんな宗教で語られる死後の世界の、最大公約数的な世界が描かれてます。 正直、日本人にはピンと来ないかなあ…という気も。

(2006.03.04)


NHKにようこそ!/滝本竜彦 (角川文庫)

★★★  

ひきこもりの、ひきこもりによる、ひきこもりのための小説。 主人公はひきこもり歴4年のベテランひきこもり。 ある日、ひきこもりの原因はNHK(日本ひきこもり協会)による陰謀だ!と気付いた。 そんな時、美少女が現れ「あなたは私のプロジェクトに大抜擢されました」と…。

勢いだけ、という感じもしますけど、楽しめました。 途中の暴走シーンの、ヤケに具体的なところが面白かったです。 あとがき読むと、どうも作者自身の体験が元になっているようで…。 どこまで本当かはわかりませんけど。

(2006.02.25)


閉ざされた夏/若竹七海 (光文社文庫)

★★★  

夭逝した天才作家・高岩青十記念館。 のんびりしている職員ばかりのこの文学記念館で、 奇妙な放火未遂事件が相次ぎ、ついには殺人事件が…。 果たして何が?

主人公と妹の推理場面がいいですね。 食べてるものも美味しそう。 ラストのほろ苦いテイストはいかにも若竹さんっぽいなあ、と。

(2006.02.25)


博士の愛した数式/小川洋子 (新潮文庫)

★★★☆ 

映画化もされた、博士と家政婦の交流を描いた物語。

事故の影響で事故以降のことは80分しか覚えられない博士。 しかし数学の知識は変わらず持ち続け、何でも数字に結びつけ、 数字をこよなく愛す博士。 そんな博士の下へ派遣されてきた家政婦と、その息子。 一見接点のなさそうな3人だったが、 阪神タイガースと数学によって、固く結びついていた…。

語り手である家政婦が全くの数学音痴として設定されているので、 その目線で語ってくれることで、 難しい数学の話題も噛み砕いてくれるので、 数学がわからなくても理解できるんじゃないでしょうか。 まあ、別に理解できなくても問題はないんですけど。

しかし江夏豊が完全数を背負っていたとはなあ…。

(2006.02.19)


七つの危険な真実/赤川二郎・阿刀田高・北村薫・夏樹静子・乃南アサ・宮部みゆき・連城三紀彦 (新潮文庫)

★★★  

7人の作家による短編のアンソロジー。

テーマは一応「意外な真実」ということになるのでしょうか。 まあ、でもあんまり統一感があるわけではなく、 どちらかというと人権団体アムネスティへの賛同という目的で集められたんでしょうね。

宮部みゆきさんの「返事はいらない」以外は読んだことなかったので、 なかなか面白かったです。

どれも良かったですが、特に乃南アサさんの「福の神」が良かったですね。

(2006.02.18)


レイクサイド/東野圭吾 (文春文庫)

★★★  

中学受験を控えた小学生とその親達による、湖畔での合同合宿。 妻の連れ子の中学受験にあまり積極的でない俊介の参加、 さらにその愛人である英里子の登場から、事態は思わぬ方向へと転がり始める…。

昨年映画化された「レイクサイド・マーダーケース」の原作、 ということらしいのですが、全然知りませんでした。 愛人やら不倫やら、ドロドロした感じのサスペンスなのかなあ、 と思って読み始めていくと、事態は急変。 当初見えていた様相と、真相とのギャップがたまりません。

長編というほどでもない分量なのですが、巻き込まれたとはいえ、 ある意味事件を引き起こした張本人であるところの主人公が、 いつの間にか真相を暴く探偵役に変質していくところが見事。 伏線の張り方もさすが、という感じです。

(2006.02.14)


とんち探偵・一休さん 謎解き道中/鯨統一郎 (祥伝社文庫)

★★★  

一休、新右衛門、茜の3人が、茜の両親を捜して旅をする、 その途中で様々な事件に巻き込まれる、という連作短編集。

一休さんの「とんち」が活かされていて、長編よりも良かったかも。 事件そのものの真相を見抜くのもですが、そのための調査をしようとすると、 必ず相手が謎掛けを仕掛けてきて、それをとんちで切り返す、というのが面白いですね。

(2006.02.12)


クー/竹本健治 (ハルキ文庫)

★★★  

砂漠化が進む未来の地球を舞台としたハードアクションSF。 父親に幼い頃から「養成所」に入れられ人間兵器として育てられたクー。 彼女の体にはある秘密があった…。

官能描写も多い、ハードアクションSF。 三部作らしいのですが、まだ第3弾は書かれていないようです。 この1作目は、元は一発ネタとして書こうとしていたらしく、 そう言われてみると、確かに「覚醒後」の描写は無敵過ぎる感じも。 あれを倒せる敵ってちょっと想像できないんだけど…。

しかしこの作品で一番かわいそうなのは間違いなくリークだよね…。

(2006.02.11)


心のなかの冷たい何か/若竹七海 (創元推理文庫)

★★★  

クリスマスイブに一緒に飲む約束をした一日会っただけの「友人」が、 突然自殺未遂で意識不明になった。 その数日後、彼女からある「手記」が送られてきた。 「私の会社には観察者がいるの。観察者、支配者、実行者。」 彼女の自殺は自殺ではなかったのか? 若竹七海の戦いが始まる…。

探偵役が「若竹七海」ってことで、へえこんなシリーズもあったんだ、 と思いましたが、よく考えたらデビュー作「ぼくのミステリな日常」の主人公が若竹七海でしたっけ。 この作品はデビュー作の次に書かれた作品らしく(その割に文庫化はずっと放っておかれたらしく)、 まだ葉山晶みたいなシリーズ探偵はいなかったんですね。

で、内容ですが、葉山晶に置き換えてもいいくらいの女探偵ハードボイルドな感じ。 いや、もちろんこちらの若竹七海は元OLの素人なので、 できることには限界がある…はずなんですが、 そこは感情で突き進んでいく様子が何ともハードボイルド。

若竹作品でおなじみの作中作に対する仕掛けも入っていて、 ミステリとしても十分楽しめます。

(2006.02.11)


『ジャーロ』傑作短編アンソロジー(3) 夜明けのフロスト/R.D.ウィングフィールド他

★★★☆ 

年に1回刊行されているらしい、『ジャーロ』傑作短編アンソロジー第3弾。 フロスト物の中篇「夜明けのフロスト」を含む、クリスマス・ストーリーを集めたアンソロジーです。

寡聞にして『ジャーロ』という雑誌のことは知らないのですが、 こんなアンソロジーが刊行されていたんですね。

しかし今回の目玉はなんと言っても「夜明けのフロスト」。 ただでさえ寡作な作家(長編5作、うち3作のみ日本で刊行済)ですから、 中篇となるとかなり貴重。そして中篇でも、 次から次へと事件が起こり、それらが有機的に繋がって最後に収束していく、 というフロストらしさは存分に発揮されています。

その他のクリスマス短編もなかなか楽しめるものが多くありました。

(2006.02.07)


ハル/瀬名秀明 (文春文庫)

★★★  

ヒューマノイド・ロボットと人との関わり合う近未来をテーマとした連作短編集。

人のしぐさを真似るヒューマノイド、子供の問いに受け答えをする人工知能、 地雷除去犬と共に地雷除去を手助けするロボット、などなど、 様々なタイプのロボットが登場します。 時代は2001年から2030年まで様々で、登場する人物もバラバラですが、 世界観は共通しているらしく、ある話の登場人物が別の話に登場したりします。 こんなところも手塚治虫の「スターシステム」を踏襲しているんでしょうか。

収録作中では、幼児と共に成長するロボットを描いた「夏のロボット」と、 夏への扉オマージュ(?)の「亜希への扉」が良かったです。

(2006.02.04)


見えない女/島田荘司 (光文社文庫)

★★★  

インドネシア、パリ、ベルリン。 異国を舞台とした、ミステリアスな「女性」を巡る、トラベル・ミステリ。

いや、「トラベル・ミステリ」ってこういうのじゃないような気もするんですが、 まあそれはいいか。ミステリと言っても、殺人事件が起きたりするわけではなくて、 登場する女性そのものの存在がミステリを構成しています。

どの話もよくできてますが、どれも主人公が簡単に寝すぎじゃないかなあ、という気も。 まあ、そんなところにページ数割いていたら短編じゃ収まらないというのもわかるんですけど。

(2006.01.28)


私が捜した少年/二階堂黎人 (講談社文庫)

★★★  

クロへの長い道と同じく、 幼稚園児にして私立探偵のシンちゃんこと渋柿信介を語り手とする、 パロディ・ハードボイルド。というか、こちらが1作目だったようです。

真相を全て見抜いていても、コナン君のように自分で推理を披露するわけにいかないシンちゃんが、 一生懸命にヒントを出して大人を導く様子が何ともけなげですね。

(2006.01.22)


Killer X/黒田研二・二階堂黎人 (光文社文庫)

★★★  

黒田研二と二階堂黎人のコラボ小説3部作の第1弾。 ノベルス初版時は、覆面作家ということで、作家当てクイズが実施されたようです。

同窓会という招待状に誘われて雪山の山荘に招待された6人の男女。 変わり果てたかつての恩師の異様な姿を前に、 激しい豪雪の中に閉じ込められた一行の運命は?

まさに古典的な「雪山の山荘」を現在に再現するにはどうしたら? みたいな感じの設定。電話も通じない、という設定を無理なく作るには、 こういう設定しかないかもなあ…という感じ。 カットバックで入る「突き落とし魔」の本編へのかかわり方も絶妙なんですが、 やはりどこか無理矢理感は否めないですね。 現代を舞台にした本格っていうと、こうならざるを得ないのか…という感じ。

ネタとしてはほぼ一発のみ大技で、まあ多分そんなことだろうと予測は付いていたので (見抜けなかったんだからあまりエラそうなことは言えませんけど)、 それほど感銘を受ける、というところまでは行かなかったのがちょっと残念。

「Killer X」シリーズとして3部作らしいので、楽しみにしています。 しかしこの競作って、どういう分担になっているんでしょうね?

(2006.01.15)


試験に出ないパズル 〔千葉千波の事件日記 九月〜一月〕/高田崇史 (講談社文庫)

★★★☆ 

論理パズル満載の千葉千波シリーズの短編集第2弾。 個人的にはこのシリーズは長編よりも短編の方が圧倒的に面白いですね。

橋渡しパズルそのものの「山羊・海苔・私」、 3冊の本の共通点を見つける「八丁堀図書館の秘密」、 7つのキーワードの共通点を探す「亜麻色の鍵の乙女」、 子供達の不可解な行動や目撃証言が一つに繋がる「粉雪はドルチェのように」、 互いの証言だけから真理を導き出す純粋論理パズルの「もういくつ寝ると神頼み」、 の5編を収録。

ウチにおいてある将棋パズルのサブセットパズルが出てたのには驚きました。 盤面が小さくて駒が少ない分、動けない駒は置けない、という制約が加わってますが。

巻末の著作リストを見る限りでは、「パズル自由自在」っていうのがこのシリーズの続編なんですかね。 でももう次の短編集出たら受験終わってしまいますよね。 まあ二人仲良く二浪…という可能性もなくはないですけど。

(2006.01.12)


フォア・フォーズの素数/竹本健治

★★★  

竹本健治の第2短編集。SFあり、ミステリあり、ホラーあり、という、 良く言えばバリエーション豊富な、悪く言えばまとまりのない作品が集まってます。

ページ数もまちまちで、最少1ページのものまであるし。

「佐伯千尋シリーズ」なるものがあることを初めて知りました。 ゲームシリーズと、「そこはそれ」の酉つ九のシリーズ(?)しか読んだことなかったので。 最後の「ネコ」ってのもシリーズキャラクターらしいですね。

収録作中では、激辛カレーに挑戦して行く内に神の領域まで行ってしまう「白の果ての扉」、 表題作である数学パズルの「フォア・フォーズの素数」、 ネコシリーズのSF「銀の砂時計が止まるまで」、が良かったです。

そもそも第1短編集「閉じ箱」を読んだことがなかったので調べてみると、 角川ホラー文庫に収録されているんですね。 本作は普通の角川文庫なのに…。しかも入手困難っぽい。

(2006.01.08)


さいえんす?/東野圭吾 (角川文庫)

★★★☆ 

科学雑誌「ダイヤモンドLOOP」、その後「本の旅人」に連載された、 科学をテーマにしたコラム集。

元自動車会社のエンジニア出身、というだけあって、 科学に対する造詣の深さが端々に感じられます。 理系・文系の差の話なんかは、エンジニア出身の作家ならではの感想、 という感じでとても興味深かったです。 プロ野球リーグ再編成に関する提案は、結構いいかも、と思いました。

(2006.01.03)


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